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あの日

「驚いた顔してる」

「また、夏希ちゃんが」

「また?またって何ですか?初めてですよ、私」

「初めてって三月をわざと呼んだの?」

「ハハハ。だって、五月先輩ってウザイんですもん」

「どういう意味よ!」

「お涙ちょうだいで、六月先輩を振り回すのやめてもらっていいですか?」



 やっぱり、夏希このこが関わってくるんだ。

 



「振り回してなんかないから」

「まさか!!自分が六月先輩に好かれるとか思ってるんじゃないですよねーー?」

「そんなの、夏希ちゃんに関係ないでしょ」

「関係ないことないですよーー。だって、私達は《《ライバル》》じゃないですかーー」



 嬉しそうに笑うけど。

 夏希このこは、悪魔だ。

 四月が亡くならない運命を選びたいのに夏希このこがいるとうまくいきそうに思えない。



「六月と付き合いたいの?」

「付き合いたい……そんな単純なことじゃないですよ」

「どういう意味?」

「意味なんかありませんよ。ただ、五月先輩が嫌いなだけですよーー」

「私が嫌いなだけなら、三月と四月は関係ないでしょ」



 私は一生1人でも構わない。

 だから、三月と四月のことだけは、邪魔しないで欲しい。

 いや、邪魔されたくない。



「それは、どうでしょう」

「お願い、夏希ちゃん。2人の邪魔はしないで」

「それーー、お願いする態度ですかーー?」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「うーーん。そうだなーー」




 夏希ちゃんは、嬉しそうな顔をしながら何かを考える。


 そして

「土下座してくれたら考えてもいいですよーー」と馬鹿にしたように笑った。


 土下座……。

 そんな事はしたくない。

 だけど。



「やらないなら、これからも三月先輩と四月先輩の邪魔もさしてもらいます」

「わかった、わかった。やる」



 土下座するぐらいたいしたことなんかない。

 


「早くしてくださいよーー。誰か来たら勘違いされちゃうじゃないですかーー」

「わかった」



 床に膝を立たせようとした瞬間だった。



ーーキーンコーンカーンコーン



「あーーあ、いいとこだったのに」



 夏希ちゃんが見つめる先には、他の生徒達だ。



「しばらく楽しませてくださいよ!五月先輩」

「あっ、ちょっと待って」


 夏希ちゃんは、冷ややかな笑みを浮かべて廊下を歩き出す。

 追いかけようとした時だった。



「水瀬、授業ちゃんと出ろよ」

「あ、青山先生」

「どうした?驚いた顔して」



 いやいや、当たり前だ。

 この時代は、青山先生は生きているのだから。

 でも、信じられない。

 こんな元気な先生に会えるなんて。


 青山先生は、私達の結婚式に来てくれたあと、癌で亡くなってしまうのだ。

 私達が結婚しないとしたら、青山先生も生きている?



「水瀬、ぼんやりして大丈夫か?」

「あっ、はい。大丈夫です」

「それなら教室に戻らないと遅刻扱いにされるぞ」

「あっ、ほ、ほんとだ!失礼します」



 青山先生は、生徒想いのいい先生だった。

 私達が結婚式の招待を持っていくとすぐに出席してくれると言ってくれたのだ。


 私と四月は、すごく喜んで。

 嬉しかったのを今でもハッキリと覚えている。



ーーガラガラ


 教室に戻ると四月と三月の席は空いているのが見える。



「水瀬さん、遅刻ですよ」

「す、すみません」



 授業を受けている生徒全員がこっちを向く。

 何だか恥ずかしくてたまらない。

 六月は、教室に戻っている。



「早く席につきなさい」

「はい」



 急いで席につく。

 斜め向かいの四月の席。

 三月を追いかけたままいなくなったってことは2人は運命通りに動いてるってこと。

 それなら、このまま。

 うまくいけばいい。

 頭の奥にある痛みなんか悲しみなんか捨て去ってしまおう。



ーーガラガラ


 捻れた運命を引き寄せる糸もまた存在する。

 運命を変えるって一筋縄じゃいけないことだ。



「風間さん、席につきなさい」

「すみません」



 四月も私みたいに皆に見られている。

 恥ずかしそうにしながら、四月は席に戻った。


 三月は?

 いったいどうしたのだろうか?


 四月は、座る時に私を見て。

 唇を動かした。

 


ーーん?

 いったい何を言ったのだろうか?

 唇の動きが速くて読めなかった。

 

 席についた四月は、振り向かなかった。

 でも、四月がそこにいるだけで。

 私は安心していた。

 三月を選ばなかったことを嬉しいと思っているなんて。


 最低だ。

 私は、本当に最低だ。


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