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プロローグ

「おばさん、私、病院行かないといけなくて」

「病院?何で?」

「四月が……」

「四月君がどうしたの?」

「四月が……事故にあって」



 おばさんは、ポロポロ流れる私の涙に何かを察知した。



「おばちゃんが連れてくから」

「ダメダメ。お母さんの49日にみんな集まるんだから」

「だったら、タクシー呼ぶから待って。自分で行っちゃアカンよ。こういう時は、タクシーが安全だから」



 おばさんは、急いでタクシーを呼んでくれる。


ーー10分後。

 私は、タクシーに乗り込んだ。




「納骨までには戻るからね」

「わかった。気をつけてよ、五月ちゃん」

「うん」




 行き先を告げると運転手さんは、すぐに車を発進させた。

 流れる景色を見ながら、涙が流れる。


 もしも。

 私が四月と付き合わなければ、こんな事にならなかった?


 私があの子の嘘を真に受けなければ……きっと四月は私じゃなくて。


 私達四人もあの頃と変わらずに笑い合えていた?



プップー



 大きなクラクションの音が耳に響く。



ブーー


 タクシーの運転手が必死に鳴らしているのに、対向車線のトラックがはみ出してきているのが見える。



「お客さん、しっかりシートベルトしてね」

「はっ、はい」 



 大きなお腹に頑張ってシートベルトを回す。

 タクシーの運転手さんは、どうにか回避しようとしてくれているのがわかる。



ーー大丈夫。

 大丈夫だからね。


 お腹を擦りながら頭の中で呟いた。



ブーー

ブーー



 何度もクラクションを鳴らすけれど、避ける気配はない。

 タクシーの運転手は、左側の歩道に向かってハンドルを切る。


 ガコッと大きく車体が揺れる。

 何とか回避できるとホッとした瞬間だった。



「来るなーー」



 何故かトラックは、タクシーに向かって突っ込んで来たのだ。

 何かが起きた。

 それは、スローモーションのようにゆっくりとやってきた。


 すごく痛いとかは感じなかった気がする。

 目を開けるとわずかにお腹に走る痛み。

 

ーー赤ちゃん

 足元から血が流れているのが見える。

 赤ちゃんを守りたくても、体が動かない。

 意識を向けると身体中に痛みが走り出す。

 死ぬのが怖いとかそんな感情はなかった。



 ただ、願っていた。 

 どうか、お願い。


『神様お願い。どうか四月を生き返らせて。そのためなら、私は一生1人でも構わないから』



 何度も。

 何度も。

 願っていた。

 赤ちゃんにも『ごめんね』を繰り返す。



『ママー、ママー。大丈夫だから』


 都合のいい幻聴が聞こえる。

 


『五月……本当にそれでいいの?』



 お母さんの声が聞こえて大きく頷いた。



『いいの、四月が生きれるなら』



 意識が遠のいていく。

 痛みが体を支配する。

 私の人生も今日で終わりなんだ。

 涙が頬を濡らす感覚だけが、まだ生きていることを教えてくれている。



ーーお母さん

ーー四月

ーー赤ちゃん


 一緒に行こう。

 みんなで、一緒に。



 寒くて痛くて仕方ない。

 最後に四月の顔を見たかった。

 どんな顔をしていたの?



 もしかして。

 私が未来を歪めたの?

 あの日。

 私が……。

 四月の告白を受け入れなかったら。

 私達の未来は……。

 違う。

 私達、四人の未来は……。



『四月の事が好きだったなら、最初からそう言ってくれたらよかったよね』

『最初からじゃなくて。途中からで』

『私が四月のこと好きだって知ってたのに付き合ったんでしょ?』

『違う、知らなかったの。本当に』

『五月先輩って、そういうとこありますよね』



 走馬灯は後悔を見せる。

 昔よくお祖母ちゃんが言っていた。

 


『四月のことが好きだったんだな』

『好きだったんじゃなくて。途中から好きになって』

『告白されたから気になったってやつ?』

『うん』

『だったら、俺にもチャンスあったのか?』

『えっ?』

『って、冗談だって。五月は、四月の彼女なんだし』

『それって』



 あの子に掻き回されなかったら。

 私達はきっと。




『四月が私を好きだって言ったよね?』

『違いますよ。四月先輩に五月先輩が好きだって言ってるって伝えてあげたんです』

『どうして、そんな嘘を伝えたのよ』

『嘘?本当になったんだからいいじゃないですか』

『私は、四月じゃなくて』

『知ってますよーー。でも、邪魔だったんですよね。私の方が先に好きになったのに。五月が五月がってうざいじゃないですかーー』

『ふざけないでよ』



 あの子は、私達の気持ちを操作した。

 もしかしたら。

 私達は、違う未来を歩いていたはずなのに。


 もしもやり直せるなら。

 あの日……あの場所に私は行かない。

 ねじ曲がった運命を戻す。



『運命の王子様とお姫様を引き離したらどうなるの?』

『運命が歪んじゃったらね、神様が寿命を早めに終わらせちゃうんだって』

『なあに?それ?』

『大人になったら五月にもわかる。ばあちゃんは運命を歪ませちゃったの。だから、五月の父さんが……』



ーーお祖母ちゃん

 私も運命を歪ませちゃったのかな?

 だから、四月は……。


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