死んだのか……?
急いでいた。
ただ、急いでいたのだけを。
ハッキリと覚えている。
何で、急いでいたのかと聞かれると。
それが、よく思い出せない。
何だか記憶がぶつ切りで。
何だろう。
大事な事を忘れている。
ーーブー
ーーブー
思い出した。
『止まれーー、止まれーー』
肉体が、死んだのか生きてるのかわからない。
ただ、目の前のトラックを止めなきゃ。
止めなきゃ。
『神様……五月を助けてください。そのためなら、俺。何だってするから』
『本当に?』
『えっ?』
『本当に何でも出来るって約束できる?四月』
『か、母さん』
神様だと思ったら、母さんだった。
俺は、母さんに向かって頷いてみせる。
『それなら、諦めなきゃいけない命もあるのよ』
母さんは、五月のお腹を指差した。
『そんな……望んだんだ。俺が、望んだんだ。五月との』
『無理なのよ、四月』
『どうして?』
『だって、四月と五月ちゃんは運命の相手じゃないから』
『えっ……?何言ってんの、母さん。運命は、自分の手で』
『切り開いて掴み取るもの。確かに、言ったわよ。だけどね、四月。運命に逆らっちゃうとね、こうなるんだよ』
母さんは、自分の顔を指差して笑う。
『母さんはね。後悔なんか1つもしてないよ。だって、四月が産まれて幸せだったから』
『それなら、俺だって』
『五月ちゃんを諦めて、赤ちゃんの命を選ぶ?そこに、四月も五月ちゃんもいなくても』
『な、何言ってんだよ』
『痛みはなかった?それならよかったわ』
母さんに言われて思い出す。
事故にあったことを。
救急車の中で、どんどん意識が遠退いていって。
気づいたら、ここにいて。
って事は……死ぬんだ、俺。
『四月、時間がないよ。選択しなきゃ』
『そんなの出来るわけないだろ』
『五月ちゃんと赤ちゃん。どっちを選択する?』
『そんなの……出来るわけ』
『パパ』
『えっ?』
『ママはパパを選んだよ、だから、パパもそうして』
繋がれた手。
温もりはないけれど。
俺と五月の子供なのは、すぐにわかった。
『ごめんな』
『ううん』
『本当に、ごめんな』
大きくなったら、可愛い女の子になるのがわかった。
目の前にいるのは、5歳ぐらいかな。
産まれることのない命。
『ごめん、本当にごめん』
『大丈夫だよ!パパもママもちゃんと愛してくれたのをわかってるから。覚えてるから。だから、大丈夫だよ。安心して』
身勝手な選択だってわかっている。
だけど、俺は。
五月に生きていて欲しいんだ。
例え、五月と付き合えなかったとしても。
それでも、俺は。
『行きなさい』
母さんに背中を押されて。
光の奥に吸い込まれていく。
俺達の未来は。
どこに向かうのか。
ちゃんと五月は、生きているのか。
教えてよ。
母さん……。
いや、神様。




