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プロローグ

五月さつきちゃん、身重だからゆっくりしとかなアカンよ」

「大丈夫よ、おばさん」

「せっかく授かった命やから大事にせなアカン。はいはい、座る、座る」

「本当に大丈夫だって」



 母の妹の春子おばさんは心配性だ。

 結婚して20年。

 子供なんかとっくに諦めていたのに……。



「まずは、薬かなんかやってみたらどうだろう?」

「薬?いらないわよ。子供は、自然に任せるって話だったでしょ」



 排卵しづらい体ではあるものの、妊娠しないほどではないという医者の言葉を信じて20年。

 40歳の誕生日を迎えたばかりの私に夫である四月しづきが不妊治療を進めてきたのだ。

 不妊治療を進めてきたのは、夫の父が大腸がんの末期で余命一年と言われたからに決まっている。

 母親を早くに亡くし、父子家庭で父と二人で生きてきたから孫を見せてあげたくなったのがわかっていた。

 だから、私も薬を飲むぐらいならと協力を決めた。


 病院に行くと医者から、すぐにステップアップをする方がいいと言われたけれど。

 だけど夫は、私の体を考えて薬から始めると医者に強く言って説得してくれた。


 薬の副作用は思ったより強力で、毎日飲むのは吐き気との戦いだったけれど。

 我慢したおかけで、3ヶ月で妊娠した。

 妊娠した事が嬉しくて、私はすぐに母に報告の連絡をした。



「ほんまに!!嘘でしょーー」

『エコー写真見せようか?』

「みたい、みたい。写メしてくれたらいいわ」

『ちゃんとエコー写真みせてあげるから』

「わかった、わかった。そしたら、持ってきて。見るから」



 母に約束した。

 それなのに……母は。



「事故だったんよ」

「近所の小村おむらさんの息子さん。運転が荒くて有名でね。何度も警察にも相談したのに、受け入れてくれなかったから」



 私のためにケーキを買いに行こうと家から出た母は、帰宅してきた隣の息子の車に跳ねられたのだ。

 徐行運転で通らなければならないのに、40キロほどのスピードが出ていたのではないかと警察に言われた。

 母に赤ちゃんの写真を見せることは、叶わなかった。


ーーあの日から49日。

 私のお腹は大きくなり。

 悲しさを抱えながらも毎日を過ごしていた。



 運命ってのは、残酷で。

 私の悲しみなんて癒すつもりもない神様は。


ブー

ブー

ブー



「四月君、遅いね」

「そうだね。おばさん、ちょっと電話取ってくる」

「はいはい」



 10時にお坊さんがやってきてお経をあげ、母の遺骨をお墓に持って行く。

 四月は、子供が産まれるからと夜勤勤務に変更したばかりで。

 帰宅は、朝の9時。

 今日に限って、40分も遅刻している。

 

 飛ばしてないといいんだけど。

 スマホの画面には、見慣れない番号が並んでいた。

 鳴り止まない電話を取るのにも、重い体じゃ外に出るまで時間がかかった。



「もしもし」


 ようやく外に出て通話ボタンを押す。



「風間四月さんのご家族の方でしょうか?」



 その言葉に嫌な予感がする。

 「はい」と弱々しく答えた私に、電話の主は冷静に淡々と答える。

 私の世界がゆっくりと光を失っていく感覚がした。



ーー何で、今日?


 疑問だけが大きくなっていた。

 だけど、そんな事はどうでもいい。

 今は、ただ。



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