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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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55/55

55.あなたの手をとって、最後の反撃を

その知らせが届いたのはシリウス様と結婚して六年目のことだった。


私とシリウス様の間に子は産まれていないが焦りはしていない。

魔術師の塔の管理人が結婚したことで私へ過剰な期待がされなくなり、

穏やかな気持ちで日々を過ごしていた。


その日も魔術の修行の合間、休憩してお茶を飲んでいたら、

どこからか紙鳥が飛んできてシリウス様の前で手紙へと変形する。

それを開いて読んだシリウス様は眉を寄せる。

何かよくないことでもあったのだろうか。


「あの第二王子が亡くなったそうだ」


「亡くなった?ロドルフ様がですか?」


「ああ」


「病気ですか?」


「怪我が悪化してということらしい」


「怪我?王領の離宮に幽閉されていたのでは?」


ロドルフ様は私が学園を卒業する頃に王領に連れて行かれていた。

私との復縁を狙って押しかけてくる可能性があったために、

当時王太子だったマルセル様が王妃である母親とともに王領に送っていた。


私と再び婚約して王太子になることをあきらめない限り、

自由にすることはないとマルセル様は言っていた。

亡くなるような怪我をするなんて何が起きたのか。


「幽閉されていた三階から逃げ出そうとして、

 窓の外に落ちて大怪我を負ったそうだ。

 それが悪化して亡くなったらしい」


「まぁ……三階から逃げ出そうとするなんて」


「おそらく、ナディアに会いに来ようとしたのだろう。

 窓から出るしか方法がなかったのかもしれないが、魔力封じもつけていたはずだ。

 魔術も使えず、思うように身体が動かなかったから落ちたということか」


「それで……」


魔力封じをつけて六年もたっていたら、身体はかなり太っていただろう。

昔のロドルフ様ならロープで三階から降りるくらいはできたのかもしれないけれど、

幽閉されて体力が落ちている状態で、重い身体を支えるのは難しかったはず。


幼いころから冷たくされて一方的に嫌われていたから、

婚約解消できた時にはうれしかったし、

復縁を望んでいると言われて勝手さに腹も立っていた。


でも、死んでほしいとまでは思っていなかった。

最後、少しでも反省したり後悔することがあったのかとは思うが、

それを聞くことはできなくなってしまった。


あの五人とモフロワ公爵家のことも、あれ以来報告は受けていない。

シリウス様と結婚してからは幸せなことばかりで、

報復なんてどうでもよくなってしまっていたから。


「今さらかもしれないが、他の者たちはどうでもよかったのか?」


「他の者たちですか?」


「ナディアを虐げていたのは他にもいただろう」


「……そうですね」


本当なら第二王子の婚約者として敬われていたはずなのに、

どこに行っても見下されて馬鹿にされていた。

王宮の使用人、教師たち、令息令嬢。

そんなことを言い出したらきりがないかもしれない。


「報復したいなら今からでもできるんだぞ?」


「ふふ。シリウス様ならできるでしょうね」


「ああ。いくらでも言え」


自分が愛されていることを疑う余地がないくらい、

こうしていつでも抱きしめてくれる。


シリウス様が愛してくれるから、心の傷なんて一つも残っていない。

すべて癒されて、何重にも守られているのを感じる。


もう十分に反撃はしたと思う。

シリウス様に出会って、魔力を使うことができて、

アンペール侯爵家も取り返せて。


私を虐げていたものは、もうどこにもいない。


……でも、待って。

ひとつだけやり残しているかもしれない。


「その顔は何か思い出したのか?」


「最後の反撃が残っていました」


「最後?」


「ええ。私が魔術師の塔の魔術師になることです」


「魔術師の塔の?」


反撃と結びつかなかったのか、シリウス様が不思議そうな顔をする。

魔術師の塔の魔術師になることは名誉なことだ。

報復のために目指そうなんて普通は思わないに違いない。


「あんなにも魔力なしの役立たずと見下されていた私が、

 この世界の最高位の魔術師の一人になったら、

 ものすごい反撃だと思いませんか?」


「ははは。それはそうだな。

 ナディアを虐げていた者たちすべてが悔しがるだろう」


「だから、魔術師の塔に選ばれるほどの魔術師を目指します。

 これからも指導してくださいね、師匠」


「ああ、任せておけ。ナディアが選ばれるのも時間の問題だ。

 お前は俺が選んだ唯一の弟子なんだからな」


「はいっ」


結婚してからも弟子としての修行は続いている。

シリウス様の仕事にも同行し、時には私だけで仕事も請け負っている。

もちろん、シリウス様も一緒についてきてくれているけれど、

一人前の魔術師になる日も近づいている。


その時に、魔術師の塔に入る資格を得られるかどうか。

得られれば、社交界にもそのことは知れ渡る。


あの頃に関わった者たちのことはもう覚えてもいないけれど、

きっと向こうはまだ覚えている。


そして私が思うよりも悔しがってくれるに違いないし、

これが本当に最後の反撃になる。


「では、行こうか」


「はい」


楽しそうに笑うシリウス様の手を取って立ち上がる。

さぁ、これから最後の反撃を始めましょうか。









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