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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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53/55

53.もうどうでもいい

「そして、ルーミアが売られた娼館に、

 商業ギルドから紹介されてジネットとレベッカが来た」


「……ふふふ」


思わず笑ってしまう。

あの二人が自ら娼婦に落ちたのがおかしくて仕方ない。


私を貴族の籍を抜いて追い出そうとしていた二人は、

あんなに太っていて醜くては娼婦としても雇ってもらえないかもねと、

私の容姿を笑っていたのは聞いている。


純潔を重んじる貴族令嬢が娼婦になるというのは、

最大の屈辱だとわかっていたはずだ。

それを自分から選んで落ちたことに笑える。


無理やり連れて行かれたのなら、まだ自分に言い訳もできるし、

被害者のように装うこともできただろうけど。


「レベッカは無理やり客を取らされた時に、

 客を蹴り飛ばして物を壊したとして、

 借金を抱えさせられたようだ」


「その借金を返すまでは身請けさせないつもりですか?」


「もとからあの娼館は身請けできない」


身請けできない娼館と聞いて、少しだけ疑問に思う。


「シリウス様は娼館に行ったことがありますか?」


「ないよ」


「その割に詳しいですね?」


それならどうしてその娼館のことをそんなに知っているのか。

じっと見つめると後ろめたいことがあるのか、

シリウス様は視線をそらした。


「……ナディアは放っておいていいと言ったが、

 俺としてはそれでは気がおさまらない。

 ナディアを汚そうとしたものに報復したかった」


「報復?ひどい娼館なんですか?」


「貴族令嬢で見目がよければ、高級娼館と呼ばれるところに売られるのが普通だ。

 そこは娼婦といっても平民の女性よりも大事にされるし、

 貴族や上級平民たちが相手でひどいことはされない。

 そんな場所に行かせても報復には足らない」


「そこに行かないように、シリウス様が手をまわしたのですか?」


「ああ。高級娼館にはたいてい貴族の後見がついている。

 それらの家にあいつらを買わないように警告を出した。

 だから娼館の中でも貴族が経営に関わっているようなまともな店も、

 クラデル侯爵家の報復を恐れて手を出さなかった」


「レベッカたちが売られた娼館はまともなところではないと?」


「王都の中では下の上といったところか。

 金儲け主義の女将が経営しているせいか、

 娼婦はモノ扱いでどんな客でも受け入れている」


どんな客でも受け入れている娼館がどんなところかは、

実際に見ていない私には想像することしかできないけれど。

満足そうなシリウス様を見る限り、ひどいところなはず。


「ああ、そうだ。ジネットは行方不明ということになっている」


「なっている?」


「客を取るのが嫌で一人だけ娼館から逃げ出したんだ。

 逃げた先で王都のはじにある貧民街の者たちにつかまった。

 ぼろぼろになってからまた娼館に売られるだろうが、

 今度売られる場所は下の下だろうな」


「レベッカとルーミアを置いて逃げたんですか。

 本当に……自分のことしか考えていないんですね」


同じ屋敷内で暮らしていたのに、

ジネットに優しくされたことはなかった。

幼いころから私を見下し、私になら何をしてもいいと思っていた。


レベッカのことは姉のように慕っていたと思っていたけれど、

そんな相手まで簡単に裏切れるとは。


「ああ、でも五人とも最後は似たようなものだと思うぞ」


「え?」


「魔力封じをつけさせただろう」


「そういうことですか。醜く太った娼婦は捨てられると?」


「最終的には下の下まで落ちて、そこを追い出されたら物乞いになるしかない」


「そうですか」


魔力封じされて半年もすれば太り始める。

娼婦の生活に慣れた頃、太り始めれば食事を減らされ、

それでも太り続ければ客が取れなくなる。


いらない娼婦は捨てられる。

娼婦でいられなくなった五人を見てみたいと思ったが、

きっとその頃には忘れているに違いない。


「モフロワ公爵家は当主の息子に一年後に代替わりさせる」


「たしか留学しているとか?」


「ああ、その期間があと一年ある。国の交換留学だ。

 途中で帰ってくることは難しい。

 本人は帰りたがっているだろが」


「帰りたがっている?」


「その国は夫人二人が送られた国だ」


「あ……」


「社交界ではもう噂になっているだろう。

 モフロワ公爵家出身の娼婦が二人いると」


「それは早く帰って来たいでしょうね……」


「それだけ嫌な思いをすれば、もう愚かなことはしないだろう」


自分の叔母二人が貴族相手の娼婦をしているなんて。

聞きたくないだろうけど、社交界にでれば必ず言われていることだろう。


ふと少し離れたところで控えているミリアが目に入った。

いつもどおり穏やかな微笑みだが、話は聞こえていたはず。


報復を喜んでいるように見えないけれど、

きっとミリアから見た私もそう見えないはず。


「幸せになると、他のことはどうでもよくなるんですね」


「そうだな。俺はナディアが幸せそうなら、それでいい。

 この話はもう終わりでいいか?」


「ええ」


見上げて微笑んだら、お茶菓子よりも甘い口づけが降ってきた。

初夜までお預けになっているからか、いつもよりも甘く感じる。


思う存分にしてほしいのに、シリウス様の唇が離れる。

どうしてと思ったら、ぎゅっと抱きしめられた。



「……あと四日も準備が必要なのか?」


「ふふふ……私もそう思います。

 早く時間が過ぎてしまえばいいのに」



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