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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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51.どこに行けば(ジネット)

「……検査の結果、お二人は娼館くらいしか紹介できないのですが」


「娼館!?」


「貴族の私たちにそんなことをしろって言うの!?」


「お二人はもう貴族ではありません。平民で、親もなく、働いたこともない。

 下働きの仕事についてもやっていけないでしょう。

 そういう女性が働ける場所は限られているのですよ。

 娼館であれば、食事と寝るところには困らないと思います」


「嫌よ!」


「絶対に嫌!」


「そうですか。気が変わったらまた来てください」


「え?」


「ちょっと?」


引き留められるかと思っていたのにあっさりと話は終わり、

用は済んだとばかりに商業ギルドの外に出される。


近くにはケビンもいないし、お母様たちもどこにいるのかわからない。

仕方なく、レベッカと宿に戻る。


「どうしよう……馬車、出せなかった」


「明日、もう一度行ってみましょう」


「そうね……」


次の日、商業ギルドに行って馬車を頼んでみたけれど、

前金が払えなければ無理だと断られた。

レベッカがバラチエ侯爵家の名前を出してみたけれど、

信じてもらえずに終わった。


こんなところに侯爵令嬢がいるわけないだろう、

令嬢なのにそんな平民の服を着て歩いてここまできたのか?と。


そう言われてしまえばアンペール侯爵家の娘だと言えなくなる。

とぼとぼと宿に戻って、これからのことを二人で相談する。


食事は出るけれど、とても貴族が食べるようなものではない。

それに着替えがないし、湯あみもできない。


早くどうにかしなければいけないのに、どうすることもできない。

汚れていく自分たちに耐えられなくなって歩いてアンペール侯爵家に行こうとしたら、

知らない男たちにつかまりそうになって、何度も転びそうになりながら逃げる。


宿に戻った後も、まだ男たちに追われているんじゃないかと思うと、

もう一度外を歩く気にはなれない。


そして、どうすることもできないまま一週間が過ぎて、

宿を追い出され、とうとう居場所がなくなってしまう。

そのまま行き場もなく、夜になって宿の陰に隠れて一夜を過ごした。


暗闇の中、道路を歩く人間が自分たちをさらいに来たんじゃないかと、

物音がするたびに身体が反応してびくりと震える。


眠れないことと寒さと空腹で我慢できなくなって、

二日目の朝、商業ギルドに駆け込んだ。


「……どこにでも行くわ。だから、食事をちょうだい」


「娼館でもいいのですね?」


「……よくはないけど、食事と寝るところはあるんでしょう?」


「はい。それだけは保障できますわ。

 それではあの者について行ってください」


女性職員が示した職員はお母様たちを連れて行った職員だった。

その職員についていくと、小さいけれど馬車に乗せてもらえた。


久しぶりの馬車にほっとしていると、その職員はにやりと笑った。


「悩んでいたのかもしれないが、貴族令嬢が平民となって生きるなら、

 娼館に行くのが一番楽だよ」


「楽……でも、お母様たちは違う仕事に行ったのでしょう?」


「いや、隣国の娼館に連れて行っただけだよ」


「は?」


「お母様が娼館に?」


お母様たちも娼館に連れて行っただなんて。

他国の言語が話せるかどうか検査したのはなんだったのか。


「あの二人って元貴族夫人だろう?

 この辺で雇ってくれる娼館なんてないからさ。

 隣国の言葉が話せるならあっちに連れて行った方が高く売れる。

 ああ、あんたたちはまだ若いからなんとかなるよ。

 貴族令嬢だったことは言わないほうがいいと思うけどね」


「……言ったらどうなるの?」


「いたぶられるだけだ。貴族に恨みがあるものは多い。

 その髪色では貴族の妾の子だと思われるだろうが、

 生き残りたければ本当のことは言わないでおけよ」


「……」


お腹が空きすぎてどうしようもなくなったから来たけれど、

やめておいたほうがよかったかもしれない。

レベッカを見れば、同じように後悔しているような顔をしている。


やっぱり降りると言い出しかけた時、馬車は止まった。


「さぁ、降りてくれ。

 ここからは女将の言うことは何でも素直に聞くんだよ?

 痛い目にあいたくなければ、そうするんだ。

 わかったね?」


「……」


職員の目は笑っていなかった。

これは脅しではないらしい。


黙ってついていくと、娼館の女将はすぐに私たちを湯に入れた。


これから何をされるのか……わからずに涙が止まらない。

逃げ出そうとしたら、年配の娼婦たちに囲まれる。


「ここに来てしまったらあきらめなさい。もう、抵抗しないほうがいいわ。

 ほら、三日前に入って来た新入りを見なさいよ。

 ひどく殴られて、顔が変わってしまったわ」


小さな部屋のドアを開けて中に寝ている娼婦を見せられる。

そこには顔の半分に包帯を巻いたルーミアがいた。


「ルーミア!?」


「どうして!」


「……知り合いだったのね。

 あの子は少し前に連れて来られたんだけど、客を取るのが嫌だって暴れて。

 数人に殴られた上で無理やり客を取らされていたわ。

 生家が没落して、借金で売られて来たみたいよ」


「そんな……」


ルーミアはポワズ子爵家に戻ったんじゃないの?

まさか、家族に売られた?


自分の親に見捨てられたと落ち込んでいたけれど、

娼館に売られる羽目になるなんて。


一見してひどい目にあったとわかるルーミアの身体に、

逆らえば自分たちもああなるんだとわかる。


どうしよう……。

レベッカはもう何も考えたくないのか、座り込んで呆然としている。

他の娼婦たちが客に呼ばれたのか、部屋から出て行く。


女将が戻って来たと思ったら、レベッカの腕をつかんで階段を上っていく。

少しして、悲鳴が聞こえてきた。

嫌だ、やめて、離して。

レベッカが助けを求めている声から逃げようと耳をふさぐ。


娼婦になるということがどういうことなのか理解したら、

宿の陰で餓死したほうがましな気がしてきた。


人がいないすきに、とっさに裏口から逃げる。

一人で走って走って、街のはじっこまで行った時、

後ろから誰かに腕をつかまれる。


「えっ」


「お嬢ちゃん、そんな恰好でどこに行くんだよ」


「こいつ、あれだな。娼館から逃げてきたんだな。

 めずらしい髪色だ。貴族の血をひいているのかもしれないぞ」


「そいつは面白い。きっと高く売れるな」


「その前におとなしくなるようにしてからだな」


「……やめて……お願い、離して……」


「さぁ、行こうか」


「いやっ。離してっ!!」


叫んでも誰も助けてはくれない。

周りの人間も同じようにニヤニヤ笑って見ているだけ。

そのまま物のように引きずって行かれる。


逃げなければよかった……

そんなことを思っても、もう何もできることはなかった。






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