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5.部屋の主

私をこんな部屋に閉じ込めてどうするつもりなんだろうと思ったら、

後ろから知らない男性の声がした。


「罠にかけようとしていたようだな」


「え?」


声に驚いて振り向くと、そこにはローブを脱いだシリウス様がいた。


「っ!?」


「何もしないから安心していい」


「は、はい」


魔術師の塔の管理人と言えば、陛下よりも他国の王よりも身分が高い人。

そんな人の部屋に勝手に入り込んでしまった。

叱られるだけでは済まないことに気がついて血の気がひく。


「まずはソファに座ってくれ。落ち着いて話ができない。

 さっき紹介されたからわかると思うが、魔術師のシリウスだ」


「は、はい。ナディア・アンペールと申します!

 あの、勝手に部屋に入り込んでしまって申し訳ありません!」


「ああ、謝らなくていい。

 この部屋に騙されて連れて来られたのはわかっている。

 正確にはここの二つ隣の部屋に連れてこようとしていたようだが」


「え?」


「二つ隣の部屋には令息が五人ほど待機している。

 良からぬことを考えた者がいるようだな」


令息が五人……ジネットが連れて行こうとしたのはその部屋?


「休憩していたら、近くの部屋で何か企んでいるようだったから少し調べてみた。

 そうしたら、君を連れ込んで醜聞沙汰を起こさせようとしているのがわかった。

 さっきの令嬢には連れて行く部屋をここだと誤認させた。

 つまり、俺が呼んだことになるのだから謝らなくていいよ」


「……それはシリウス様が助けてくださったということですか」


「そういうことになるかな。

 さすがにクラデル侯爵家の血筋の者を見捨てるわけにもいかない」


そういうことか。

私が魔力なしであってもクラデル侯爵家の血を汚したくないのかもしれない。

それでも助けてもらったことには変わらない。

助けてもらわなかったら、どんな目にあっていたか……。


「ありがとうございました。このお礼は後日、あらためてさせてください。

 では、お邪魔にならないようにすぐさま退室いたします」


「まぁ、待て。今、廊下に出て行けば捕まるだけだ。

 あいつらは少し時間をおいて見に来ようとしている。

 ここから出て行くのはまずいな」


「ですが……」


この部屋にはシリウス様しかいない。

私がいることが知られたら醜聞沙汰になりかねない。

私のことはいいけれど、シリウス様に申し訳なさすぎる。


「俺が馬車のところまで送ってやるから」


「え?」


「転移して連れて行けば見つからない」


「転移……すごい」


転移だなんて、本当にできる魔術師がいるなんて。

上級魔術の中でも最高位に難しいとされているのに。


「では、両手を出してくれるか」


「はい」


立ち上がったシリウス様の前に行き、両手を差し出す。

その手が重なったと思ったらシリウス様の動きが止まる。


「……ナディア、魔力検査をしたことはあるか?」


「はい。十二歳の時に受けました」


「その結果は?」


「……魔力なしでした」


クラデル侯爵家の血筋の者なのに情けない……そう思われるに違いない。

恥かしくて顔をあげられなかったら、シリウス様が笑う。


「それは違うな」


「え?」


「こんな面白い症例がいるとは」


「面白い……?」


何が面白いのかわからないけれど、シリウス様が楽しそうに笑っている。

不快ではないのならいいけれど……?


「俺の弟子にならないか?」


「え?でも、私は」


「ナディアは魔力なしではない」


「……それは本当ですか?」


「ああ、魔術を使えるようになる。

 だから、弟子にならないか?」


「……私が魔術を……」


「魔術師になりたくないか?」


「なりたい……なりたいです!

 私、魔術を使えるようになりたいです!」


本当に魔術が使えるようになるなら、魔術師になれるのなら。

何を差し出してもいい。どんなつらいことも耐えられる。


「よし、では今日からナディアは俺の弟子だ」


「はい!」


「とりあえず、今日は馬車のところまで送る。

 明日以降、会いに行く。

 それまで俺のことは内緒にしておいたほうがいいな」


「わ、わかりました」


真剣な目のシリウス様を見れば、冗談でもからかわれているのでもなさそう。


「よし、では飛ぶぞ。目を閉じてちゃんと捕まっておけ」


「は、はい」


手を引っ張られ、シリウス様に抱き着く形になる。

でも、ちゃんと捕まっておけと言われたからには離れるわけにもいかない。

目を閉じたままシリウス様の服をぎゅっと掴むと、ぐらりと身体が揺れた。


「着いたぞ」


「……本当に転移した……すごいです」


目を開けたら、目の前に馬車が並んでいた。

私が乗って来た王家の馬車も近くにあるのが見える。


「ここからなら一人で帰れるか?」


「慣れているので大丈夫です」


「わかった。では、また連絡する」


「はい」


返事をしたら、シリウス様は目の前からいなくなった。

また転移して部屋に戻ったのかもしれない。


あまりのことにぼーっとしてしまいそうだったけれど、

シリウス様に言われたことを思い出してすぐに馬車に乗る。


私を令息たちがいる部屋に連れて行こうとしたのはジネットだけど、

きっとロドルフ様とレベッカ様が企んだに違いない。

これ以上、王宮に居たら危ない目に遭うかもしれない。


屋敷に戻った後、夜会用のドレスのまま帰ってきてしまったことに気がついたけれど、

使用人たちにも見つかることなく離れに戻ることができた。


なんとか一人でドレスを脱いで、一息つく。


さっきまでのことが信じられなくて、

でも、本当だったらいいのにと期待してしまうのを止められない。


その日は落ち着けなくて、一睡もすることができなかった。



次の日、眠い目をこすりながら学園に向かう。


夜会の次の日だからか、高位貴族の教室はほとんどの学生が休みだった。

ロドルフ様とレベッカ様も休みのようでほっとする。

さすがに今日は顔を合わせたくなかった。



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