46.ポワズ子爵家の決断
次の日、朝食後に準備をしていると、
王宮から手紙が届けられた。
昨日マルセル様にお願いしていたポワズ子爵家の報告だった。
どうやらポワズ子爵は娘のルーミアを切り捨てたらしい。
「本当に愚かだわ。ねぇ、ミリア。
ポワズ子爵はルーミアを切り捨てたようよ」
「そうですか。それは愚かですね。
平民となって家族で逃げるのが一番楽だったでしょうに」
「本当よね。この報告はクラデル侯爵家にも行っているそうだから、
きっともうすでに国内外の貴族に声明が出ているわね」
実の父親と後妻の判断を聞いてミリアが呆れた声を出した。
ミリアはポワズ子爵家の籍から抜けているから気にならないと言っていたが、
この結果は予想していなかったらしい。
もしポワズ子爵家がルーミアを切り捨てた場合、
クラデル侯爵家から声明が出されることになっていた。
ポワズ子爵家、そしてモフロワ公爵家とは、
今後クラデル侯爵家と魔術師の塔は一切の関りを持たない。
二家と取引をしている商会とも関わることはしない。
二家と取引をしている商会と関わっている貴族家からも、
仕事の依頼を受けることはしない。
そういう内容だった。
この声明が出されれば両家とも終わることになる。
ここにバラチエ侯爵家が含まれていないのは、
バラチエ侯爵家も被害者であると判断されたためだ。
バラチエ侯爵夫人は元は陛下の婚約者だった。
戦争回避のために隣国の王女と結婚することになった陛下が、
元婚約者をバラチエ侯爵家に押しつけている。
バラチエ侯爵の元婚約者も性格的には大差ないそうだが、
モフロワ公爵家と王家の圧力があるなしでは大違いだろう。
バラチエ侯爵では夫人とレベッカの行動を制御できなかっただろうし、
深く反省してクラデル侯爵家の指示に従うと申し出てきたそうだ。
侯爵自身はお父様の件に何も関与していなかったこともあり、
夫人とレベッカに手を差し伸べないことを条件に許している。
そして、最後のアンペール侯爵家。
ここは取り潰す予定はない。
だって、ここは返してもらうのだから。
準備が終わるとドアがノックされる。
入ってきたのはシリウス様だった。
私とミリアは学園を卒業してからシリウス様の屋敷に越してきている。
この部屋はシリウス様の隣の部屋、つまり夫人の部屋だ。
同じ屋敷内にいるのにまだ慣れなくて、
ドアをあけてシリウス様が入って来るのを見ると、
どうしてもうれしくて頬が熱くなる。
「用意ができたのなら行こうか」
「はい」
シリウス様の胸に抱き着くと、
ミリアがいってらっしゃいませと頭を下げた。
その頭が上がらないうちに転移してクラデル侯爵家の玄関前につく。
玄関前ではもうすでに用意が終わっていたのか、
クラデル侯爵が馬車の前で待っていた。
「お待たせしましたか?」
「いや、大丈夫だよ。楽しみ過ぎて早く準備ができただけなんだ」
「まぁ」
楽しみ過ぎるとはどうなんだろうと思うけれど、
どこか浮足立っているのは私もかもしれない。
ようやくお義母様とジネットにやり返せると思うと、
わくわくするような気持ちでいっぱいになる。
報復を楽しむなんていけない感情だとは思いつつ、
あの人たちのために私が罪悪感を持つ必要なんてどこにもないと思う。
三人で馬車に乗ってアンペール侯爵家につくと、
屋敷の周りに衛兵たちが待機していた。
「衛兵がどうしてここに」
「王太子が手配したそうだ。
ポワズ子爵家の娘も一緒にアンペール家に帰したから、
こちらの負担が増えて申し訳ないと手紙に書かれていたよ」
「ああ、ここにルーミアもいるんですね」
そういえば、子爵が見捨てた場合は、
ジネットとレベッカと同じにするようにお願いしていた。
衛兵がいれば取り押さえるのが楽になる。
もちろん、いなくても三人で魔術を使えば済むだけなのだけど。
出来る限り屋敷は壊したくない。
「では、行くか。
衛兵たち、屋敷内にいる人間をすべて捕縛して中庭に並べろ」
「「「「「はっ!」」」」」
「アンペール侯爵夫人、ジネット、元バラチエ侯爵夫人、
レベッカ、ポワズ子爵家のルーミア。
五人を捕まえる際にはこの腕輪をつけてから捕まえるように。
魔力封じだ。五人とも魔術を使って抵抗してくると思え」
「「「「「はっ!」」」」」
クラデル侯爵とシリウス様の指示で衛兵たちが屋敷になだれ込む。
門番が慌てて立ちふさがろうとしていたが、
王太子の印を見せられておとなしく門を開ける。
衛兵は何人いるんだろう。ざっと三十人はいそう。
屋敷内にいた使用人たちが次々に捕まえられ、
縄でしばられたまま中庭に連れて行かれて転がされる。
そのうち悲鳴のような女性の声が聞こえた。
「何をするの!私を誰だと思って!?」
「そうよ!私たちにふれるのは許さないわ!
さわらないで!離れなさい!」
どうやら起きたばかりらしい元バラチエ侯爵夫人と、
お義母様がすっぴんのまま捕縛されて騒いでいる。
さすがに服は着替えているようでほっとした。
あまりに騒ぐからか、二人は口の周りに布を巻かれて連れて行かれる。
残りはと思っていたら、ジネットとレベッカ、そしてルーミアも、
同じようにすっぴんのまま連れて来られた。
そろそろ全員が捕縛されただろうか。
シリウス様とクラデル侯爵には隠れてもらって、
私一人で中庭に並べられた者たちの前に立つ。
「お義母様、ジネット、久しぶりね」
「!!!」




