45.処罰方針
私を殺そうとしたジネットとレベッカ様は王宮に連れて行かれ、
そのまま貴族牢に入れられたそうだ。
取調べをした後、処罰が確定するそうだが、
その前に私が王宮に呼び出された。
呼んだのは陛下ではなく、王太子になったマルセル様だった。
シリウス様とクラデル侯爵は、
私を呼び出したのが陛下なら対応するつもりはなかったらしい。
それでも私を一人で王宮に行かせるのは嫌なのか、
当日はシリウス様が付き添ってくれた。
久しぶりにお会いしたマルセル様は忙しいのか、
少し痩せたように見える。
シリウス様が一緒だと知ってか顔色が悪い。
「こちらに呼び出して申し訳ない」
「いえ、卒業式の件ですよね?」
「ああ。三人の処罰について希望はあるか聞きたかったんだ」
シリウス様は付き添うだけで話に参加するつもりはないらしい。
私の隣にはいるが、マルセル様とは挨拶すらしなかった。
仕方なくマルセル様は私にだけ話しかけている。
「三人?」
「ジネット・アンペール、レベッカ。
そしてルーミア・ポワズ」
「ああ、ルーミア子爵令嬢もそうでしたね」
私から指輪を盗んだルーミア子爵令嬢。
盗んだものが悪かった。
あれは魔術師の塔の元管理人の使い魔。
ただの指輪でも魔術具でもない。
魔術師の使い魔を盗んだ場合、報復として殺されても仕方ないそうだ。
「ジネットとレベッカと同じ処罰にすることもできるが、
それでかまわないだろうか」
「そうですね……」
ルーミアはあの指輪が使い魔だとは知らなかった。
おそらく魔術具だと思っていたはず。
とはいえ、その後私が殺されるはずだったのは知っていたわけで。
罪が軽いとは言えない。
けれど、ジネットとレベッカ様と同じにするのもどうか。
「私が決めてもいいのですか?」
「好きにしていい」
「では、ポワズ子爵家が爵位と領地、すべての財産を国に返上するのであれば、
ルーミア様は処罰なしで釈放してかまいません」
「……それでいいのか?」
「はい」
ポワズ子爵は後妻の愛人とルーミアを大事にしてミリアを見捨てた。
そのくらい娘を大事に思うのであれば、すべてを失ってもらおう。
そして、可愛がっていたルーミアまで見捨てるようであれば、
クラデル侯爵家が制裁を与えることになるだろう。
ひどい処罰かもしれないが、シリウス様の使い魔を盗んだような子爵令嬢と、
その家族がまともな扱われ方をされるわけがない。
一家そろって平民となり、やり直すのであれば見逃そうというのだから、
マルセル様はずいぶんと優しいのだなとつぶやいた。
「わかった。ポワズ子爵家にはそう伝えよう。
アンペール侯爵家とバルチエ侯爵家には何かあるか?」
「そちらはクラデル侯爵家が対応するので大丈夫です。
ジネットはともかく、レベッカ様はもうバルチエ侯爵家ではないですし」
「それはそうだな。モフロワ公爵家もクラデル侯爵家が対応するということか?
一気に四家もなくなるのは厳しいが……仕方ないか」
まだ家を取り潰すとは決まっていないのに、
マルセル様はもうすでに覚悟を決めたらしい。
それを聞いたシリウス様はマルセル様を評価したのか口を開いた。
「ジネットとレベッカの処罰をするのが難しいのであれば、
表向きは死罪にしてアンペール侯爵家に戻してもよい」
「え?あ、それでよろしいのですか?
こちらとしては助かりますが」
「ああ、かまわない」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
どうやらシリウス様はジネットとレベッカ様の処罰を王家に任さず、
クラデル侯爵家ですべて対応することに決めたようだ。
貴族令嬢を死罪にするのは騎士たちに負担があるに違いない。
直接手を下さなくて済んだマルセル様はほっと息を吐いた。
「あと、報告になりますが、弟のロドルフは母と一緒に王領の離宮に送りました」
「王妃様と?」
ロドルフ様が私と結婚して王太子になる夢をあきらめていないというのは聞いていた。
それを抑えるために遠い離宮に送るのだろうけど、どうして王妃まで。
「母は自分によく似ている弟を可愛がっていた。
最後までロドルフを庇おうとするから、父の許可を取って幽閉することにした」
「王妃様……隣国のほうは平気なのですか?」
「その隣国の王家からの申し出でもあるんだ。
母がナディアに冷たくしていたのは知っていたようだから」
「ああ、そういうことですか」
「表向きはロドルフの病気による静養につきそうということになる。
もう二度と王都には戻さないから安心していい」
「わかりました」
王妃様に直接何かされたわけではないけれど、
王子妃教育で王宮に来ていた間、女官たちには冷たくされた。
それを監督するのは王妃の役目だ。
わかっていて放置していたのだと思う。
隣国の王家にしてみれば、嫁がせた元王女のせいで、
クラデル侯爵家ににらまれてはたまらないのだろう。
「シリウス様、ジネットとレベッカはいつ釈放すればいいですか?」
「すぐでかまわない」
「わかりました」
問題が片付くまでは待てとクラデル侯爵に言われ、まだシリウス様とは結婚できていない。
それもあってシリウス様の機嫌が悪い。
早くジネットとレベッカ様の件を片づけ、すっきりした気持ちで結婚したい。
二人を釈放したという報告があったのはその日の夕方。
次の日の昼、私とシリウス様、クラデル侯爵はアンペール侯爵家に向かう。
お父様とお母様のアンペール侯爵家を取り戻すために。




