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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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41.許し

「アンペール侯爵」


「あなたはシリウス様ですか?」


「そうだ。シリウス・クラデル。魔術師の塔の管理人をしていた」


寝台のそばに座り込んだ私の肩に手を置いて、

シリウス様がお父様を呼んだ。

お父様とシリウス様は初対面のようだ。


「ナディアを弟子にしてくださったそうで……。

 本当にありがとうございます」


「礼はいい。俺がそうしたかっただけだ。

 そして、これからは俺の義父になる。

 頭を下げなくてもかまわない」


「……は?」


「えっと、あのね、お父様。

 私、シリウス様の求婚を受けたの」


「えええ?」


想像もしていなかったのか、お父様の目が開かれる。

体調の悪さよりも驚きが勝ったらしい。


「ナディアを妻にしたい。卒業してすぐにでも。

 許してもらえるだろうか?」


「……ナディア、お前はシリウス様のことが好きか?」


「え?……うん。シリウス様を好きになったの」


「それなら……安心だ。

 シリウス様、どうかナディアをよろしくお願いいたします。

 リアーヌも喜んでいると思います」


「お母様が?」


「ああ。リアーヌの願いはただ一つ。

 娘を幸せにしたいと言っていた……。

 好きな相手と結婚できたのが幸せだとリアーヌはいつも言っていた。

 だから、……第二王子と婚約させてしまった時に、

 その願いはもう叶えてやれないのかと……悔しかった。

 お前がシリウス様を好きなら、これ以上のことはない。

 幸せになるんだよ」


「お父様……ありがとう」


「約束しよう。ナディアは誰にも渡さない。

 俺が一生かけて幸せにすると」


「ありがとうございます……シリウス様……」


これ以上話させるとまた体調が悪化するかもしれないと言われ、

私たちはお父様がいた部屋から退室する。


「お義父様、お父様はどのくらいで元気になりますか?」


「それは本人の気力次第なんだが、大丈夫だろう。

 娘が幸せになるとわかったんだ。

 心の憂いはなくなった。あとは未来への願いをもってもらおう」


「未来への願い?」


「もっと幸せになったナディアを見たい、とか。

 二人の間に生まれる子に会いたい、とかね。

 これから楽しいことがたくさんあるだろう?

 そのために生きようと思ってくれたらいい」


私とシリウス様の子ども……気恥ずかしさもあったけれど、

それでお父様が元気になってくれるのならいい。


「お父様をよろしくお願いします」


「うん、大丈夫。ここまで苦労させたのはクラデル侯爵家のせいでもある。

 きちんと最後までつきあうから心配しないでいい」


「ありがとうございます」


最後まで世話をするではなく、つきあう。

お父様の看病だけではないという意味だと思う。


「それでは俺たちは帰ろう」


「はい」


シリウス様と転移して帰ろうとしたら、クラデル侯爵が引き留めた。


「あ、待って、ナディアに注意することがある」


「え?」


「クラデル侯爵家の者は恋人に執着する。

 それはわかったと思うけど、シリウスがナディアへの想いを認識したのは、

 三日前のことなんだ。それまでは無意識だった」


「三日前?」


「そう。だから、今まではそこまで執着するような行動はしていないと思う。

 だけど、認識してからは違うと思う。

 これからはずっと執着されることになると思うから覚悟した方が良い」


「ええぇ?」


ずっと執着されるって何?


「くだらないことを言うな。帰るぞ」


「はは。ナディア、またな」


「あ、はい。ありがとうございました」


最後の礼は聞こえていなかったかもしれない。

転移した先はシリウス様の部屋だった。


帰ると言ったので、寮の部屋かと思っていた。

見上げたら、すぐに抱き上げられる。


「シリウス様?」


「リンデルが養父でなければ会わせないのに」


「そんなに会わせなくなかったんですか?」


「ああ。腹が立つ」


クラデル侯爵家の者は惚れた相手を他の者に会わせたがらないと言っていた。

それが本当だと証明するようにシリウス様が不機嫌なのがわかる。


「怒ってますか?」


「いや、ナディアに怒っているんじゃない。不快だっただけだ」


「そうですか。でも、私はお父様に会ってもらえてうれしかったです」


「それは……感謝しなくもない」


「ふふ」


会わせるのが嫌なだけで、クラデル侯爵を嫌っているわけではないらしい。


「……悪いな。俺としても未知な感情に振り回されている。

 ナディアを好きだという感情と同時に、

 ずっと閉じ込めて俺だけのものにしたいとも思ってしまう」


「……私はシリウス様だけのものでいいです」


「本当に?」


「はい」


シリウス様だけのものになるのに何の抵抗もない。

むしろそうして欲しいと思うのは、

私もクラデル侯爵家の魔術師だからかもしれない。


シリウス様が私に執着している間は、

シリウス様は私だけを見てくれる。

向けている感情は同じようなものかもしれない。


なんの戸惑いもなく、シリウス様に口づけされる。

それを受け入れるのにも違和感がない。


恥かしさはあるけれど、ふれられているのが気持ちいい。

今日、初めて口づけしたのに、もう馴染んでいる気がする。


深まっていく口づけに息が苦しくなった頃、

ようやくシリウス様は唇を離した。


「もう夜になってしまったな」


「え?もうそんな時間ですか?」


窓の外を見れば暗闇しか見えない。

もともと薄暗い部屋なので気がついていなかった。


「今日はこれで帰そう」


「……わかりました」


本当は離れたくないけれど、素直にうなずく。

寮の部屋でミリアが心配して待っているはず。


シリウス様にいつもよりもしっかり抱き着くと、

すぐに転移されて寮の部屋に戻る。


「疲れただろう。ゆっくり休め」


「はい……」


「またすぐに来る」


「はい」


転移して消えた後も、シリウス様の気配が残っているようで、

しばらくは動けなかった。












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