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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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35/55

35.処罰の報告

試験結果が出てから、退学になったレベッカ様も、

ロドルフ様も学園で見かけることはなかった。


学園長から処罰として退学になったとしても、

まだ何かしら文句を言ってくると思っていたのに、

私には何もなかった。


レベッカ様の性格から考えておかしいなと思っていたら、

どうやらシリウス様のほうへ連絡が行っていたらしい。


「シリウス様にお願いしても学園長の処罰は変わらないと思うのですが」


「俺もそう言った。学園の決定に逆らう気はないし、

 わざわざ俺が動く理由もないからな」


「ですよねぇ」


あれだけのことを学生たちの前でしてしまったのだから、

学園としてもなかったことには絶対にできない。


いくらお願いされたとしてもシリウス様だってどうにもできないはずだ。


「バラチエ侯爵家はレベッカを見捨てたようだ」


「え?」


「侯爵夫人と離縁して、レベッカと一緒に追い出した」


「えええ?」


学園を卒業できなければ結婚することも難しいとはいえ、

レベッカ様はバラチエ侯爵家で甘やかされている印象だった

まさか家から追い出すなんて想像もしていない。


「侯爵夫人も一緒ですか?」


「ああ。侯爵夫人がモフロワ公爵家の力を借りて、

 アンペール侯爵家に嫌がらせを行っていたことを侯爵に告げた。

 もともとナディアが卒業したらクラデル侯爵家から正式に抗議する予定だった。

 バラチエ侯爵は家を守るために夫人と娘を切りすてた」


「そういうことですか……」


領地で幽閉されていたお父様はクラデル侯爵家に保護されたが、

まだ体調は戻っておらず王都に戻って来ていない。

お父様が回復すればその証言を元に王家に訴えるとは聞いていたが、

クラデル侯爵家も抗議するつもりだったらしい。


クラデル侯爵家から正式に抗議されれば、どの貴族家でも没落するのは必須。

そうならないために切りすてたと言うことなのだろうけど、

貴族として生きてきた夫人とレベッカが平民となって生きていけるだろうか。


「侯爵夫人とレベッカはアンペール侯爵家に逃げ込んだようだ」


「え?ああ、お義母様の姉と姪ですからね。

 かくまってもおかしくないです」


「アンペール侯爵家への報復はナディアが卒業してからにする。

 それまで放っておいても問題はないだろう」


「わかりました」


結局は、バラチエ侯爵夫人とレベッカもアンペール侯爵家から出される。

その後、お義母様とジネットもどうなることになるのか。


自業自得だからと言われればそうなのだけど。


ため息をついてしまったら、シリウス様が眉をひそめた。


「……ナディアを連れて行きたいところがある」


「はい。どこですか?」


行先を言われることなく抱き寄せられ、シリウス様の身体につかまる。

転移して連れて行ってもらうのには慣れたけれど、

毎回シリウス様に抱き着くのだけは本当にいいのかなと思う。


シリウス様は女性にさわられるのが嫌なはずなのに。

弟子は女性として扱わないということなのかもしれないけれど。


転移した先はどこかの玄関前だった。

それほど大きくはない屋敷……ここはどこだろう。


「ここは俺の家だ」


「え?シリウス様の?」


「ああ、王都内にあるが、認識阻害の魔術具を置いてある。

 知らないものはこの屋敷にたどり着けない」


シリウス様の屋敷がどこにあるのかわかれば、

貴族たちからたくさんの招待状と釣書が届くだろう。

だから住んでいる場所を公表しないのはわかる。


シリウス様に手を引かれて中に入ると、使用人たちが出迎えてくれる。

急に来た私に驚くこともなく対応できるのはさすがだと思う。


「ここにいる使用人はクラデル侯爵家から派遣されてくる。

 独身や若い者は置かないことにしている」


「なるほど」


言われてみれば若そうな見た目の使用人がいない。

若い女性の使用人をおけばシリウス様を好きになってしまうかもしれない。

そんな心配をしなくていいことに、ほっとしてしまう自分に呆れる。


廊下のつきあたりまで行くとシリウス様の足が止まる。


「ここが俺の部屋だが、こっちがナディアの部屋だ」


「へ?」


シリウス様がドアをあけた向こうは何もなかった。

広い部屋に絨毯が敷かれているが、家具は一つもない。


「学園を卒業した後に住む部屋だ。

 家具は卒業までに好きなものを選べ」


「……私の部屋。卒業してもシリウス様のそばにいてもいいのですか?」


「何を言っているんだ?修行が一年で終わると思っているのか?」


「いえ……でも」


私が魔力を使えないできそこないだったから、

シリウス様は手を貸してくれたのだと思っていた。

一人前とは言えなくても、ある程度魔術を使えるようになったら、

シリウス様から離れて魔術師として生きていかなくてはいけないと思っていた。


「お前は一生俺の弟子だ」


「一生ここにいてもいいのですか?」


「……ここにいたいと思うのなら、ずっといていい」


「あり……がとうございます……」


涙があふれてきて、うまくお礼が言えない。

苦しいほどうれしいのに、それを伝えられないのがもどかしい。


「泣くな」


「……はっ、はいっ」


「ああ、もういい。そのままでいい」


泣き止みそうにない私に呆れたのか、シリウス様に抱き上げられる。

運ばれるように応接間まで連れて行かれ、ソファに座らされる。

そこで手を離されると思ったのに、シリウス様は私を抱き寄せたまま。


私が泣いているからか、優しく髪を撫でてくれる。

その手が心地よすぎて私から離れることができない。


どうしよう。甘えていいのかな。

めんどくさい弟子だって思われないのかな。


「俺はナディアを手放す気はない。

 ずっとここに、俺の隣にいればいい」


「ほんとう……に?」


「ああ、本当だ」


安心して甘えていいと言われた気がして、身体の力を抜いた。

くたりとなった私をシリウス様がしっかりと抱き留めてくれる。


どれほど泣いていたのか、気がついたら寝てしまって、

目を覚ました時には知らないベッドに横たわっていた。


起き上がってみると、広い部屋に机と大きなベッドだけがある。

落ち着いた色調の部屋……ここはもしかして。


ドアが開いたと思ったら、シリウス様が入って来る。


「起きたか」


「私、寝てしまったのですね。すみませ」


「いやいい。起きたのなら寮まで送って行こう」


「ありがとうございます」


窓の外は真っ暗。どうやら夜になるまで寝ていたらしい。

恥かしかったけれど、シリウス様は呆れている様子はない。

むしろ、いつもよりも優しく微笑まれて、どうしていいのかわからなくなる。


シリウス様に抱き着くと、すぐに寮の部屋へとついた。

離れるのが惜しいなと思っていると、なぜかぎゅっと抱きしめられた。


「え?」


「明日は王宮に呼ばれている。国王が話したいそうだ。

 ナディアも連れて行くから、用意しておくように」


「わ、わかりました」


「では、また明日な」


「はい」


今度は身体が離れ、シリウス様は転移して帰っていく。

ぼーっとしていたら、私が帰って来たのに気がついたミリアに声をかけられる。


「おかえりなさいませ。ナディア様?……どうかしましたか?」


「ううん、なんでもないの」


そう、なんでもないはずなのに。

どうしてあんな切なそうな顔でシリウス様は帰って行ったんだろう。







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