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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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34.処罰の行方(シリウス)

「退学をなんとかしてほしいという話だけなら、

 俺には何もできないので帰らせてもらう」


「待ってください。シリウス様に許されなければ、

 レベッカはこの家から追い出されることになります!」


「どういうことだ?」


これだけ娘を庇うような夫人がいるのに、追い出されるわけがない。

現に侯爵は戸惑っているような顔をしている。


「侯爵令嬢なのに学園を退学になれば嫁ぎ先はなくなります。

 それに魔術師の塔の管理人様に疎まれたと噂になれば、

 そのような娘に何もしない侯爵家もただではすみません」


「それは仕方ないだろう。事実だ」


「……侯爵家を存続させるためにはレベッカを侯爵家の籍から外し、

 家から追い出すしかなくなります。

 令嬢が平民となって追い出されたらどうなるか、シリウス様もわかるでしょう?」


バラチエ侯爵家に恨みを持っている者も多い。

娼婦にされるだけならまだましな方だろう。


母親に見捨てられる可能性があるとわかり、

後ろで聞いているレベッカは顔色が真っ白になって今にも倒れそうだ。


「そうなるほどのことをしたのはそこにいるレベッカ本人だ。

 何も考えずにしたのであれば、愚かすぎるな」


「っ!!」


その言葉が限界だったのか、レベッカがぼろぼろと泣き始める。

それでもナディアを男たちに襲わせようとしていたレベッカに同情はしない。

ナディアに被害がなかったから何もしていないが、

万が一被害に遭った後だったら、それ以上のことを報復として行ったはずだ。


思い出したら腹が立ってきた。

自分でやったことが返って来ただけのことだ。

侯爵夫人は俺にそれを訴えてどうしようというのか。


「俺に同情させてどうしようというのだ。

 やったことは許されることではない」


「……わかりました。どうしてもお許しいただけないのというのであれば、

 バラチエ侯爵家からレベッカを追い出すしかありません」


「そうか」


「ですが、少しでもこの子の行く先がかわいそうだと思うのであれば、

 シリウス様が引き取っていただけませんでしょうか?」


「は?」


「弟子や婚約者にしてほしいなどとは言いません。

 妾にでもしてもらえたら……」


「はぁぁぁ」


思わず大きなため息がでる。

さきほどから追い出すだの言っていたのはこのためか。


俺にこの娘を押しつけたいだけ。

妾でもいいと言いつつ、手を出せば気に入るとでも思っているんだろう。

子ができれば妻にしてほしいと言い出すに決まっている。


何を勘違いしたのか、さっきまで真っ白になっていたレベッカが、

真っ赤になって期待するような目で見てくる。


「断る」


「まぁ、どうしてですか?

 母親の私が言うのはおかしいかもしれませんが、

 若くて美しい娘を好きにしていいと言っているのですよ?

 妻にしてほしいとお願いしているわけでもないのですから」


「いらないものを押しつけられても困るだけだ。

 追い出すというのなら、好きに追い出せばいいだろう。

 レベッカが平民になろうが、娼婦にされようが俺が気にしない」


「そんなっ!あんまりですわ!」


「レベッカは令息たちをそそのかして、

 ナディアを襲わせようとしていた。

 二度、それを阻止している」


「……え?」


「バラチエ侯爵家とモフロワ公爵家が手を組んで、

 アンペール侯爵を迫害していたのも知っている」


「っ!?」


「アンペール侯爵家の元夫人、ナディアの母はクラデル侯爵の妹だ。

 大事な家族に手を出されてクラデル侯爵家も怒っている。

 ……今回レベッカが攻撃魔術を使わなくても、

 クラデル侯爵家から正式に抗議する予定でいた」


「!!」


クラデル侯爵家からの正式な抗議。

そんなことになればバラチエ侯爵家もモフロワ公爵家も終わる。

それが理解できている侯爵は真っ青になって謝罪し始めた。


「申し訳ありません!申し訳ありません!

 まさかそんなことになっているとは知らず!」


「バラチエ侯爵夫人がアンペール侯爵夫人と手を組んで、

 勝手にしたことなのは知っている。

 だが、夫人がしたことは侯爵が責任をとらなくてはならない。

 抗議するのを待っていたのは、ナディアが学園にいる間は騒がせたくなかったからだ。

 だが、退学になったのならもう待つ必要はないな」


「お待ちください!妻とは離縁します!

 娘も追い出しますから、どうか家だけは!」


「……そうか。では、三日だけ待ってやる」


「今日中に追い出します!」


「あなた!?」


「お父様!ひどいわ!」


バラチエ侯爵の言っていることはひどいようだが、

これが貴族としては正解だ。

家がつぶれれば分家の者たち、その家族まで共倒れになる。

当主としての責任として、それは守らなくてはならない。


だが、見捨てられた側はたまったものではないのだろう。

侯爵夫人は必死になって侯爵に追いすがっている。


レベッカのほうは……泣いているかと思えば、俺をにらみつけている。


「どうして!どうしてナディアなんかが選ばれて!

 私はこんな目にあわなくちゃいけないの!

 ナディアなんてクラデル侯爵家の血を引いているだけじゃない!

 ただそれだけで幸せになるなんて許せない!」


「それは違うな」


「違わないわ!ナディアはずるい!卑怯だわ!」


「では、去年までのナディアは幸せだったと思うか?」


「……え?」


「クラデル侯爵家の血を引いているという理由だけで、

 嫌われている相手の婚約者になって、その幼馴染からも虐げられて。

 家に帰れば後妻と義妹が迫害してくるような状況。

 何も悪いことはしていないのに令息たちに襲われそうになる。

 母親が亡くなり、父親とは引き離されて誰からも助けてもらえない」


「……だって、それは」


まだ言い返そうとするレベッカに腹が立って仕方ない。

どれだけ言っても納得はしないのだろうが、言わずにはいられない。


「そんな中でもナディアは腐らずに努力していた。

 俺が弟子にしたのはめずらしい体質だったことがきっかけではあるが、

 優秀な弟子になったのはナディアがこれまで努力していた結果だ。

 理論を理解していないものに正しい魔術は行使できない。

 もしお前が俺の弟子になっていたとしても、優秀な弟子にはなれない」


「……でも……」


「ナディアの努力を認められないくせに、

 自分のことは過大評価しろというのは無理な話だ。

 そもそも、お前は何もしていない。

 ロドルフの婚約者になりたかったのなら、

 優秀な令嬢になって国王に認めさせればよかった。

 悪だくみしかしていないのだから報われなくても当然だろう」

 

「……」


悔しそうに唇を噛むレベッカに、もういいかとあきらめる。

今日中に追い出されれば、行き場はない。

夫人も生家のモフロワ公爵家は引き取らないだろう。

バラチエ侯爵と同じで、モフロワ公爵家の当主としての責任を優先するはずだ。


バラチエ侯爵夫人とレベッカ、どちらも平民として追い出されることになる。

もう二度とナディアに手を出すことはできなくなるだろう。


「侯爵、用は済んだ。俺は帰る」


「わかりました。処分した報告はすぐに」


「ああ、クラデル侯爵家に報告しておけ」


「はい」


「お待ちください!シリウス様!!」


夫人が俺にすがろうとしてきたから、その手がふれる前に転移した。

クラデル侯爵家の玄関先についたら、ちょうど出かけるところだったのか、

リンデルが顔を出した。


「ああ、おかえり。話し合いはどうだった?」


「めんどくさいから途中で切って来た」


「そうか。では、もう正式に抗議してもいいか?」


「おそらく今日中にバラチエ侯爵家から報告が来ると思う。

 それを見てから判断しよう」


「わかった」








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