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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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33/55

33.大事なもの(シリウス)

「本当に大事にしているんだなぁ。

 シリウスが婚約するなんて予想していなかったよ」


「婚約?誰がだ?」


「へ?」


リンデルは何を言っているんだと思えば、

アルフォンスからも焦ったように聞かれる。


「叔父上は婚約したんじゃなかったんですか?」


「俺が?」


「だって、弟子を取るって。

 異性の弟子は婚約者か妻しかありえないじゃないですか」


「それは魔術師の塔に入る時の規定だろう?

 俺はもう魔術師の塔を出ているんだし」


「でも、そうでもないのに弟子にするなんて」


言われてみれば、異性を弟子にするのはめったにない。

性的搾取することを防ぐために、魔術師の塔にいる魔術師に関しては、

異性の弟子は婚約者か結婚相手のみという規定が設けられている。


俺はもう魔術師の塔の管理人ではないので、

その規定に従う必要はないのだが……誤解されるのも仕方ないか。


「じゃあ、ナディアは婚約者じゃないのか?」


「考えたこともなかったな」


「おい……魔力がないなら関わらないほうがいいと思っていたが、

 俺にとっては可愛い姪なんだぞ。

 そういう気がないのなら女性の魔術師に預けたほうがいいんじゃないのか?」


「いや、ナディアは俺が育てる。

 一度弟子にしたのに放り出すなんてできるわけがない」


「大事に思っていることには違いないわけだ」


それはそうだ。俺の弟子はオディロンとナディアだけ。

オディロンは魔術師の塔の管理人を継がせるために弟子にしたが、

自分から弟子にしようと思ったのはナディアだけだ。


「本当にそうなんですか?じゃあ、俺も会ってみたいです。

 叔父上が気に入るくらいだから良い子に決まってますよね」


「アルフォンスが会ってどうするんだ?」


「俺だって、そろそろ婚約者が欲しいんです。

 叔父上が婚約しないなら……」


「しないとは言っていない」


思わずそう言ってしまった俺に二人は顔を見合わせる。


「やっぱり婚約者にする気があるんじゃないか」


「もう、早く言ってくださいよ。

 俺だって叔父上の妻になる人を口説く気はありませんからね」


「……俺が、婚約することになるのか……?」


疑問形になってしまう俺に二人はにやりと笑った。


「ナディア、可愛くなったんだろう?

 性格がいいのに外見までよくなったら、もてるだろうな」


「叔父上が何も言わないなら不安になっているかもしれませんね。

 卒業まで三か月なんだし、結婚相手を探していたりして」


「ナディアが結婚相手を……」


「他の男に盗られたくないなら、早いとこはっきりしたほうがいいぞ。

 マルセル王子がナディアを欲しがっているという噂もあったしな」


「それは知っている」


マルセル王子がナディアを側妃に求めたのはミリアから報告されていた。

報告の通りだとすれば、以前からそういう話をされていたようだ。

きっぱり断っていたから安心していたけれど、

そういう話が他から出てもおかしくはないのか。


「……とりあえず、バラチエ侯爵家から片づける。

 馬車を出してくれるか?」


「ああ、明日の夜でいいか?」


「それでいい」


一度も行ったことがない場所は転移で行くことができない。

仕方なくクラデル侯爵家から馬車を出してもらうことにする。


「なぁ、もしナディアが知らない男にめちゃくちゃにされたらどうする?」


「そんなこと許すわけないだろう」


「だが、絶対に守り切れるとは言えないだろう。

 その時、シリウスはどうすると思う?」


「……その男を殺すだろうな。

 そうでなければこの国を亡ぼすかもしれん」


「ふふっ。それって、もうわかっているよな。

 ナディアはシリウスにとって他の誰とも違うんだって」


「……」


それには何も答えずに逃げるように転移する。

次の日の夕方、クラデル侯爵家に転移していくと、

用意してあった馬車に乗ってバラチエ侯爵家に向かう。


バラチエ侯爵家につくと、豪華な応接間へと通される。

それほど待たされることなくバラチエ侯爵と侯爵夫人、そしてレベッカが部屋に入って来た。


バラチエ侯爵と侯爵夫人は笑みもなく俺の前に来ると、

ひざを折って謝罪し始める。


「この度はレベッカがシリウス様にご迷惑をおかけしたそうで、

 誠に申し訳ございませんでした」


「娘のしたことは許されることではありません。

 私たちの育て方が悪かったのだと思います。

 本当に申し訳ありませんでした」


深々と頭を下げる二人の後ろで、レベッカは青ざめて立ち尽くしている。

よほど叱られたのか泣きはらした目を腫らしていた。


本当に反省しているのなら、それはそれでいいのだが。


「弟子になりたいからと俺の弟子に勝手に勝負を挑んで、

 負けたら退学になるだなんて条件を増やし、

 負けた腹いせに攻撃魔術まで使う。呆れてしまうな」


「はい……おっしゃるとおりです」


「俺に謝ったところで何も変わらない。

 学園長からの処罰もそのままだろう」


「やはり……そうですか」


侯爵のほうは俺が許しても意味がないことに気がついていたらしい。

だが、侯爵夫人のほうはあきらめたくないようだった。


「シリウス様が許せば学園長だって許してくれるはずです。

 学生同士のいざこざなど、いくらでもある話ではないですか」


「いざこざはあったとしても、攻撃魔術を人に向けるのは犯罪行為だ」


「でも、相手は怪我もせず、無事だったのでは?」


「何もなければいいということではない。

 俺の弟子が相手じゃなかったら大けがをしていたところだ」


レベッカは母親似なのか。侯爵夫人は納得していない。

侯爵はあきらめてしまっているようだが、

侯爵夫人のことを止める気もないらしい。


「退学をなんとかしてほしいという話だけなら、

 俺には何もできないので帰らせてもらう」


「待ってください。シリウス様に許されなければ、

 レベッカはこの家から追い出されることになります!」





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