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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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27.訓練開始

魔力調整がようやくできるようになり、やっと魔術の訓練ができる。

はりきって個別訓練室に向かうと、シリウス様に移動すると告げられる。


「移動ですか?」


「ああ。ナディアは集中していて気がつかなかっただろうが、

 この部屋はのぞきに来るものが多い」


「え?そうだったのですか?」


「今までは魔力調整しかしていないから見られてもいいと思っていたが、

 魔術の訓練になればそうもいかない。

 急にドアを開けられたら危険だからな」


「わかりました」


個別訓練室には鍵がついていない。

それは魔術訓練で倒れた時にすぐに助けられるようになっているからだ。

普通は勝手にドアを開けたりしないので困ることはない。


私の訓練が気になるというよりも、

シリウス様の指導を見てみたいと思うものがいるのだろう。


いつも通り、シリウス様に抱き着くと、すぐに転移される。

転移した先は最初の授業の時に来た草原だった。


「ここなら誰にも見られないからな」


「そうですね」


やっと魔術の訓練ができる。

すべての魔術式は頭に入っている。

使ってみろと言われたらすぐにできるように心の準備はしてきた。


「まずは、そこで俺の魔術を見ていろ」


「あ、はい」


意気込んでいたのに見ていろと言われ、少し残念に思う。

だが、魔術師の塔の元管理人の魔術を見られるのは貴重な体験だ。

少し離れた場所に移動すると、シリウス様は身体の周りに結界を張った。


その結界の斜め上から火球が飛ぶ。

遠くの岩に火球がぶつかり、その威力で岩が砕ける。

すごい。初級魔術の火球なのに、ここまで威力があるなんて。


「今、俺が使った魔術式がいくつかわかるか?」


「ええと、三つでしょうか。結界、遠隔操作、火球」


「そうだ。できるか?」


「ええ!?」


どれも使ったことのない魔術式なのに、三つ同時に発動させろと?

しかも、シリウス様はほぼ同時に発動させたのに、手を動かしていない。

魔術式を書いていないのに浮かび上がっていた。


「魔術式を書かずに発動させるのにはどうすればいいのですか?」


「魔術式を完璧に覚えているか?」


「多分、覚えていると思います」


「では、頭の中にある魔術式をそのまま外に出すイメージで魔力を込めてみろ」


「そのまま外に……」


魔術式を書くのではなく、そのまま判を押すように魔力を込め……

結界の魔術式を宙に浮かばせると、問題なく発動した。


「よし、そのまま他の二つも使ってみろ」


「はい」


遠隔操作から火球を……どちらも問題なく発動したが、岩までは届かなかった。


「すみません、威力が足りませんでした」


「問題ない。発動できていればいい」


うまくいかなかったけれど、それで十分だったようだ。

シリウス様はにやりと笑うと、また違う魔術を発動する。

それを見て、使われている魔術式を当て、同じように発動させる。


次々に出される高度な魔術についていくのに必死で、

授業が終わった時には座り込んでしまうほど疲れ切っていた。


「よく耐えたな」


「あ、ありがとうございます」


立てなくなった私をシリウス様が抱き上げてくれる。

指一本動かすのもだるいほど、体力も魔力も消耗している。

同じだけ魔術を使っていたはずなのに、

シリウス様に疲れた様子は見られない。


さすが魔術師の塔の元管理人。

これだけ魔術を使っても平然としていられるなんて。


「三日あれば訓練は終わると言ったのを覚えているか?」


「はい……」


「焦らなくても大丈夫だっただろう?」


あの時はそんなわけないと思ったけれど、本当に三日で終わりそうな気がする。

まさか最初から多重発動させられるとは思わなかったし、

魔術式を書く時間すら与えてもらえないとは。


だけど、これならロドルフ様とレベッカ様に勝てるかもしれない。

今まで読んで覚えるだけだった魔術が、自分の技として身についたのが実感できる。


ただし、疲れ切って動くことができず、

寮の部屋に戻っても横になったまま動けずミリアが心配していた。


次の日は昼まで起き上がることができず、午後になって個別訓練室に向かえば、

シリウス様に帰るように命じられた。


「今日は帰って休め」


「ええ?」


「その状態では訓練にならない。

 あと二日あれば訓練は終わるから、今日やらなくても問題はない」


「そうですが……」


「きちんと魔力を回復させてから来い。

 このまま訓練したとしても途中で倒れたら意味がない」


「わかりました……」


せっかく魔術の訓練ができるようになったのに。

しょんぼりした気持ちで帰ろうとしたら、シリウス様に頭をなでられる。


「昨日、無茶させすぎた俺が悪いな」


「いえ、そんなことはないです」


「いや、もう少しゆっくりやってもよかった。

 お前が優秀過ぎたから、つい頑張らせてしまった。

 まだ六日もあるんだ。明日からはゆっくり進ませよう」


「……わかりました」


優秀だと褒められて泣きそうになる。

シリウス様の指導についていくのに必死で、

できない子だと呆れられたらどうしようかと不安だった。


こらえきれなくて涙が一粒こぼれ落ちた。

慌てて拭おうとしたら、その前にシリウス様が指で拭ってくれる。


「安心していい。お前は優秀な魔術師になる。

 俺が誇れるくらい優秀な弟子だ」


「ありがとうございます……」


そんなことを言われたら、もう涙を止めることはできなかった。

シリウス様はそんな私を見ても呆れることはなく、

泣き止むまで優しく抱きしめてくれていた。







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