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その手をとって、反撃を  作者: gacchi(がっち)


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16.思いがけない招待状

私がシリウス様と一緒に歩いている姿を何度も見せることによって、

本当に私がシリウス様の弟子になったらしいと噂が広がっていく。


クラデル侯爵家の養女だということも知られたためか、

直接聞いてくるような学生はいなかった。


遠くでミリアが心配そうな顔で見ていることがあったが、

目を合わせても会釈するだけで近寄って来ない。

せっかくのシリウス様に近づける機会だというのに、

ミリアはそういうずる賢いことをしないらしい。


「誰か気になっているのか?」


「一人、同じような境遇の令嬢がいるんです。

 ミリア・ポワズという子爵家の長女です。

 前に話したことがあって、学園を卒業したら家を出されるそうで」


「この国の貴族は腐っているのか?」


「いえ、ほとんどの家はまともだと思います。

 ですが、親が再婚すると先妻の子は弱いですね」


「そうか」


シリウス様は学園に通うことなく魔術師の塔の管理人になる修行をしていたためか、

この国の貴族や社交界については疎いらしい。

関わる必要がないから、知らなくても困らなそうだけど。




魔力調整の訓練は始めてから二週間が過ぎていた。

あいかわらず赤三のまま威力は少しも弱まらない。

動きがあるまで三週間かかると言われているので、焦りはないが、

卒業するまでにどこまでいけるのか不安はある。


それでもあきらめずに頑張ろうと思っていたら、

お茶会の招待状が届いた。


場所は王宮。マルセル第一王子からの招待状だった。


今までマルセル様から呼ばれたことなんてない。

こういう判断は家の当主がするものだけど、

クラデル侯爵家の養女になって一度も当主とは会っていない。

出席していいものかどうか悩み、シリウス様に聞くことにした。


「お茶会?マルセル王子から?」


「はい。今までそんなことはなかったので驚いてしまって。

 出席したほうがいいのでしょうか?」


「……ナディアはマルセル王子をどう思っている?」


「真面目で優しい方だと思っています。

 ロドルフ様に意地悪された時にかばってもらったこともあります」


悪い思い出はない。

あの頃はロドルフ様が王太子になると思われていたから、

マルセル様は控えめな態度だったけれど。


それでもあきらかにロドルフ様が悪い時は注意してくれていた。

まぁ、ロドルフ様がそれに従ったことはないのだけど。


「そうか……お茶会に出席するのはかまわない。

 だが、王族の言うことを聞く必要はないと覚えておけ」


「え?王族の言うことを聞かなくていいとは?」


「そのままの意味だ。

 クラデル侯爵家はどこの王族にも頭をさげない。

 まぁ、ナディアが形式的な礼をするくらいなら問題ない。

 求婚されても断ることが許されるのは知っておいた方が良い」


「……わかりました」


シリウス様に言われて、側妃の話を思い出した。

あれは冗談だったと思うけど……。

でも、お茶会に呼ばれる理由が何も思い当たらない。



それから一週間過ぎて、お茶会の前の日。

魔力調整の訓練に動きが出てきた。


魔力が赤三から赤二にぶれ始めている。


「そのまま集中するんだ」


「……」


一定になることはなかったけれど、それでも赤三から動いたことがうれしい。

喜んでいると、シリウス様がめずらしく笑っている。


「よく頑張ったな。このまま続けて行けば安定する。

 魔力調整さえ上手くいけば、魔術が使えるようになる」


「はい!」


褒められたことがうれしくて、涙がこぼれる。

今まで誰からも認められたことはなかった。

努力したことが褒められた。ただそれだけのことなのに。


何かが髪にふれたと思ったら、シリウス様になでられていた。


「え?」


「泣くな」


「……シリウス様」


そんな優しくされたらよけいに涙が止まらなくなる。

泣き止まない私に困ったのか、シリウス様が慌てているのがわかる。


「苦しいのか?ナディア、嫌なことがあれば言え」


「……違うんです。褒められたのがうれしくて」


「……そうか」


呆れられてしまったかもしれない。

シリウス様は本気で心配してくれたのに、こんなくだらない理由で泣くなんて。


「嫌な思いで泣いたのでなければいい。

 これからお前を泣かせるようなものは俺が排除するから安心していい」


ふわりと身体が浮いたと思ったら、シリウス様の腕の中にいた。


「……え?」


「泣き止むまでこうしていよう」


耳元でシリウス様の優しい声が聞こえる。

シリウス様に抱きしめられていることに驚いて、

涙なんて止まってしまっている。


それなのにシリウス様はしばらく私を離さなかった。



お茶会の日、寮で準備をしているとミリアが部屋を訪ねてきた。

学園の制服姿ではないが、どこかの制服のような恰好をしている。

休日に訪ねて来るとは思わず驚きを隠せない。


「ミリア……どうしたの?」


「……今日より、ナディア様付きの侍女になります。

 ミリアです。どうぞよろしくお願いいたします」


「え?侍女?どういうこと?」


「昨日、クラデル侯爵家から使いが来まして、

 父と話し合いの結果、私はポワズ家の籍を抜け、

 クラデル侯爵家の侍女として雇われることになりました。

 ナディア様の専属侍女として」


「ええ??」


クラデル侯爵家の侍女?しかも私の専属侍女だなんて何も聞いていない。


「シリウス様から手紙を預かっております」


「シリウス様から?」


手紙を読めば、ミリアを侍女として雇ったからそばに置くようにということと、

今日の王宮でのお茶会に連れて行くようにと書かれていた。


そして、けっして私一人にはならないようにとも。


どうやら王宮に一人で行くことを心配したシリウス様が、

ミリアを侍女として雇ってくれたようだ。

おそらく私がミリアのことを心配していたこともあるんだと思う。


「ミリアはそれでいいの?」


「はい!追い出される前に就職先が見つかってよかったです!

 しかもクラデル侯爵家の侍女だなんて、普通はなれません。

 学園も卒業までナディア様の侍女として通えますし」


「そうなんだ。ミリアがいいならよかった。

 これからよろしくね」


「はい!」


以前のような暗い顔ではなく、すっきりとしたような笑顔。

本当にこの話がミリアにとってよかったらしい。


私としても王宮に一人で行くのは心細かった。

侍女ならずっとそばに置いておくことができる。


「では、準備を手伝ってくれる?」


「はい!」




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