卵とチーズのピザトースト
ラデクにとって、ヒバリはただの異世界人だった。
異世界人という存在は知っていた。彼らを保護することはとても名誉あることだとも。しかしラデクは異世界人だからヒバリを助けたわけではない。たまたま通りかかった場所で、人が川を流れていたから引き上げただけだった。
ラデクは貧しい地域に生まれた狼族である。恵まれた体格と力のおかげで剣闘士への道ができたものの、そうでなければ親に捨てられた子どもたちで集まり、一生馬鹿をやっていただろうと今でも思っている。早くに拾われたため、生まれた地域を故郷だと感じることすらない。自分の生きてきた場所は闘技場であり、引退した今はそれすらもただの過去にしかすぎなかった。
皮袋ひとつの荷物と古びた刀剣一本だけを持って、根無し草のラデクは旅をしていた。放浪の旅といえばまだ格好がつくが、実のところ一カ所に定住しないだけでもあった。幸い、力も体力もまだまだあった。どこでも寝れるし、日雇いの仕事や狩りで食事もなんとでもなった。涼しさを求めて海辺の街に行ったこともあれば、独りになりたくて山奥にこもったこともあった。
そんなラデクが、今はヒバリと一緒に店をやっている。
「うーん……」
営業後のまかないピザを食べながら、彼女は唸っていた。口いっぱいにピザを頬張っているせいか、その声はくぐもっている。
「ヒバリ、どうしたの。今夜のピザもめちゃめちゃに美味しいわよ」
ヒバリの右隣に座るブラジェナが白エールを呷りながら問う。齢百歳を越えた彼女は、エルフにしては珍しく酒豪だった。今日のまかないが三日月海老と眠り鮭のガーリックピザだと知った彼女は「呑むっきゃないでしょ!」と貯蔵庫から白エールをいそいそと運んできていた。
今日のピザも間違いなく旨い、ラデクもそう思っている。酒はあまり飲まないので遠慮したものの、ピザ片手にうわばみ状態のブラジェナと既に顔を赤くしているイグナーツを見るに、その組み合わせは最高だったのだなと理解している。
しかしヒバリは眉を少々曇らせていた。
「いや、このピザは定番!って感じで美味しいんですけれど……」
定番、と言われラデクは残り二枚になったピザを見る。確かに、海老や鮭などの魚介とガーリックをあわせた料理は割と見かけるものだ。ラデクも港町にいたときに、野菜と共にオイルで似た料理をよく食べていた。ただそれをパンに乗せてチーズをかけて食べたことはない。食べてみれば、こんなに旨いものがあったのか、と思うほどなのに。
「エビチリが食べたくなりまして」
同じく酒はあまり飲まないヒバリは、冷やした甘い茶を一口飲んでからそう言った。彼女はいつも「ピザにはコーラ……ピザにはコーラ……」と言うのだが、そのコーラという飲み物がどんなものなのか、ラデクには想像がつかない。そんな単語は他にもいくつもあるのだが、彼にはまたひとつ、知らない言葉が増えた。
「エビ……チリ?」
手にしていたピザの海老を飲み込んで繰り返してしまう。このピザを見て思い出しているのだから、エビは海老のことだろう。ではチリとはなんだろうか。
「あっ、私のいた世界の中華料理なんですけど」
さらにもう一つ初めて聞く単語が増える。
「どんな料理なんだい?」
ほろ酔いのイグナーツがラスト二枚のピザに手を伸ばして、ブラジェナに止められる。
「ぷりっと炒めた海老に甘辛くて風味豊かなソースを絡めるやつです」
「なにそれ、食べたい」
今の説明では具体的な味は想像がつかない。しかしヒバリのその顔を見て、いち早くブラジェナが反応した。
ピザのときはもちろん、ヒバリの食に対する情熱と真剣さは、ラデクも何度も見てきている。きゅっと寄せられた眉、きりっとしたまなざし。その顔で彼女が熱弁したもので、不味いものは何一つなかった。
「ただ……」とヒバリが顎に手を当てた。
「エビチリの調味料って、手にはいるのかな……と」
そう思案げに言いながらも、彼女はにらみ合いの渦中にあるピザを一切れ、さっとかっさらっていった。顎に手を当てたのはフェイントか、とラデクはひそかに感心してしまう。
ヒバリは、この世界によく順応していた。
自分が知らない世界に放り込まれたらどうなるだろう、とラデクはたまに想像するようになった。旅をして、知らない土地に向かうのとはわけが違う。自分が生まれ育った世界とまったく違う世界――異世界で自分は生きていけるのだろうかと。
そう夢想するたびに、ヒバリの凄さを実感する。言葉は通じた、この国には異世界人に対する構えもあった。それでも、何も誰も知らない土地で生きていかねばならないとなったとき、こんなに明るくいれるのだろうか。
一度だけ、ラデクはヒバリに聞いたことがある。「自分が生まれた世界に戻りたくはないのか」と。彼女は目をぱちぱちさせてから「うーん」と首を捻って「戻りたいかどうかはよくわかんないんですけど、今ここにいることはめちゃめちゃ楽しいです」と答えてくれた。
ラデクにとって、そのときの笑顔は拍子抜けするほどにいいものに思えた。そして同時に、それもいいかと腑に落ちた。
ずっと、自分にとっての居場所はどこなのだろうと考えていた。
物心がついたとき、親はいなかった。
剣闘士に拾われたとて、そこに仲間はいても家族はいなかった。毎日、明日は死ぬかもしれないと思っていたし、酒を酌み交わした次の日には動かなくなった者もいた。
怪我をして引退し、僅かな金を持って闘技場を離れたとき、未練はなかった。最後に挨拶をしたのは数人いたけれど、再会したことはない。
ひたすらに歩き、いろんな景色を、営みを見た。知らない食べ物を食べ、歌も聴いた。
それでも、どこにも定住することはなかった。
「明日、市場に行ってみるか」
そんな自分が、この街に、店に、ヒバリの横に留まったことは、意外なほどに意外だった。
ラデクの提案に、ヒバリはぴこんと顔を明るくした。
「いいんですか! ラデクさんが一緒だと頼もしいです」
「それはそうね。ヒバリが市場に行くと大変だからなー」
ブラジェナがそう言って笑う。ラデクにも頼もしいの理由は充分伝わっていた。ヒバリは異世界人で、有名人だ。市場に行けばあちこちの店主から「これをどうぞ」「持って行って」「これ食べてみなよ」と引く手数多になる。結果、相当な荷物を抱えることになってしまうのだ。以前、ひとりで行ったときは荷馬車を借りて帰ってきた。
おかげで、この店がやっていけるのはある。もちろん、対価はきちんと支払っているのだが、おまけや値引きは正直に言ってありがたいものだった。今食べているピザの三日月海老だって、閉店間際に近所の漁師が「残ったからもらってやってくれ」と持ってきてくれたものだった。
「では明日、よろしくお願いします」
未だに最後の一枚のピザで争っている二人を横目に、ヒバリが小さく頭を下げる。またフェイントか、とラデクが注視した瞬間、ヒバリは見事にピザを手元に引き寄せた。それどころか、あっという間に半分口に入れてしまう。
「ちょっと、ヒバリ、あなた何枚食べて――」
「ヒバリ、それは僕が彼女のために……」
抗議する二人に、ヒバリは頬を膨らませたまま笑った。
「冷める前に食べないと、ピザに失礼ですから」
ラデクは密かに笑う。一番身体が小さいヒバリが一番よく食べる。ただその食べている顔は、ラデクが今まで見てきた何よりも、幸せそのものでしかなかった。
翌日。早朝。
「おはようございます、ラデクさん」
約束していた店の前に、ヒバリは十分前に現れた。防犯を兼ね店の二階に住んでいるラデクと違い、ヒバリはここから少し離れた場所にブラジェナと住んでいた。身支度を整えているとヒバリの足音が聞こえ、ラデクは慌てて店の前に出てきたのだった。
「おはよう。寒くはないか」
昼日中は温かいものの、朝晩はまだ冷える季節。ラデクは外に出て鼻先に冷たい風が当たるのを感じていた。
「大丈夫です。私これでも、雪国出身でして。寒いのには慣れてます」
さっそく行きましょうと言わんばかりに歩き出したヒバリの横について、ラデクは彼女の話を聞く。
「雪国、か。それは年中雪に閉ざされているのか?」
「いえいえ。私がいた日本も四季があるので、雪の季節が長くてもちゃんと温かい日も暑い日もありますよ」
この世界にも四季はある。ただこの国の北の端の方は、雪解けの季節がないエリアだった。そのことを伝えると、ヒバリは私の世界も地球規模で見たらそういう土地はあると教えてくれる。地球規模というのがどういったものかラデクにはわからなかったが、それでも四季や雪国がある世界だったと知って、ほんの少しだけ想像がしやすくなったと感じていた。
歩いて十五分ぐらいで、市場にたどり着く。市場といっても、ラデクが今まで見たなかで一番大規模なものだった。食料品から日用品、衣料品、輸入品などあらゆるものが並んでおり、早朝から夕方までずっと開いている。
広場に並ぶたくさんの店。それを縫うように行き交う人で、すでに市場は活気に溢れていた。朝日に照らされる店主の顔。揚げてきたばかりだろう魚の磯の香り。客を呼び込む声に、鳥の鳴き声。賑やかな様はまだ夜が明けたばかりだということを忘れてしまいそうになる。
「何が必要なんだ?」
ラデクがそう問うと、ヒバリは「えっと……」と考え出す。自分は知らない料理のため、彼女からの要望がないと提案や案内はできない。
「欲しいのはケチャップと豆板醤っていう調味料なんですけど」
「ケチャップとトーバンジャン……」
「あ、やっぱりそんな調味料ないですよね」
困ったように笑うヒバリに、ラデクは首を振った。
「いや、俺が知らないだけかもしれん。とりあえず調味料ならスパイス屋にでも聞いてみよう」
ラデクもこの市場に詳しいわけではなかった。ただ持ち前の鼻の良さで、スパイスの香りぐらいはかぎ分けられる。途中、何度もヒバリを見つけた者たちに引き留められながらも二人はスパイス屋までたどり着いた。
だがやはり、そんな名前の調味料はないと言う。
そこからあちこち店を訪ね、そのたびにヒバリはあれこれ受け取ること一時間。
「ケチャップかどうかはわからないけれど、そんなソースならあの店の主人が作ってたわよ」
そんな情報を得て、二人は市場の端にあった小さな露天を訪ねた。
店主は若い女性。店先にはオイル漬けや果物を煮詰めたもの、ソースと思われるものが瓶詰めされていくつも並んでいた。
「ケチャップ? あるわよもちろん!」
店主に聞くとその顔がきらきらと輝いた。これでしょう、と瓶の蓋をあけ、木さじに少しすくってくれる。
「……! これはケチャップです!」
味見をしたヒバリの顔も輝いた。ラデクも新たにもらった木さじを舐めてみる。トマトの甘みとビネガーのような酸味の美味しいソースだった。
どうしてケチャップがあるのかと訊ねると、以前出会った異世界人に教わったのだという。
「だけどみんなあんまり知らないから……なかなか売れなくって」
そうちょっとしょんぼりした彼女に、ヒバリは「揚げたジャガイモにつけて食べたら美味しいですから、それで売り出しましょう!」とアドバイスをしていた。フライドポテトと言うらしい。ヒバリ曰く「細く切ったジャガイモを揚げて塩をまぶすんですけど、そのまま食べても美味しいですし、ケチャップつけたらもっと美味しいです」だそうだ。ラデクも思わず想像して、今度作ってもらおうと胸に誓った。
「他にもその人から教わった物とかありませんか」
そうヒバリが店主に訊ねる。すると店主はほくそ笑むような顔を見せながら、瓶をふたつ目の前に置いた。
「マヨネーズとミソがあるわよ」
その瞬間、ヒバリが両手で顔を覆い、奇声をあげた。
二時間ほど市場で買い物をし、ヒバリとラデクは店に戻った。必要だったもの、店で出すピザに使いたいもの、もらったものでキッチンは溢れかえった。
「ラデクさんのおかげで助かりました」
ほくほく顔のヒバリがお茶を淹れてくれる。
結局、トーバンジャンなる調味料は見つからなかった。しかしケチャップを置いていた店にあったミソと唐辛子でなんとかなると思うとヒバリは笑っている。
「今日からエビチリ研究です! あれもピザにしたら絶対美味しいと思うんですよね」
そう力説されて、ラデクは味の想像など全くつかないままに頷いた。ヒバリがその顔で言うのならそうなのだろう。それはもう共に過ごした数カ月で確信となっている。
「でもその前に、まずは朝ご飯にしましょう」
お茶を飲み干したヒバリが言った。市場で何か買って食べても良かったのだが、大量の荷物に二人は諦めていた。
「……まだ、食べるのか」
ラデクが呆気に取られると、ヒバリは「えっ」と心底意外そうな顔をした。確かに買って食べはしなかった。が、あちこちの店から「味見してみてよ」と加工品や菓子、果物をさんざん差し出され、なんだかんだとたくさん食べてきた。ラデクにしたら、そこそこ腹も満たされており、これから朝食をとるという考えがなかった。
「いろんな食材も手に入りましたし、せっかくだからピザトーストでも作ろうかと」
「ピザトースト? まだ窯に火は入れてないが」
「あっ、大丈夫です! フライパンで作れますから」
ヒバリはそう言って、鉄製の焼き鍋を持ち上げた。そういえばヒバリの世界ではフライパンという名だと言っていたな、とラデクは思い出す。
「……いらないですか?」
おずおずと言われ、ラデクは思わず笑ってしまった。人間族より獣人族、特に狼や竜は身体も大きくよく食べると言われている。だが、そんな自分より身体もふたまわりは小さいヒバリはよく食べる。ピザはもちろんのこと、知らない食材も、料理も、菓子も輸入品も、食べる機会があれば積極的に食べていた。
そしていつも、幸せそうな顔を見せてくれる。
「いや、食べよう。ピザではなくピザトーストということは、また違う食べ物なのだろう」
ラデクがそう答えると「はい!」とヒバリが元気よく返してくれる。
そしてさっそく、と食材を選び出してナイフを取り出した。
「生地ではなくパンを使うのか」
「そうです。なのですぐできちゃいますよ」
器用な手つきで、ヒバリがパンをスライスしていく。
「あとはやっぱりピーマンと……そうだ卵にしましょう」
鼻歌を歌うようにかろやかに、ヒバリは料理していく。その様を見るのもラデクは好きだった。自分も手先は器用な方だと思っていた。しかしヒバリの手際の良さを見ていると、次元が違うと感じてしまう。
「そしてやはり……このケチャップ! マヨネーズもいいんですけど、今回はせっかくなので!」
今も彼女は、そうやって一つ一つに喜び、コメントをしながら手を進めている。今日見つけることができたケチャップの蓋を開け、パンにうすくささっと塗っていく。しかしささっと塗っているようで、端まで綺麗に均等に塗れているのだからラデクは感心してしまう。
「フライパンにまずチーズをこうやって乗せまして」
ヒバリはそう言いながら、四角い枠を作るようにチーズを並べていく。そこに輪切りのピーマンを乗せ、卵を手に取る。
「そしてここに卵を」
フライパンの縁で割った卵を、そのチーズの枠の中に落とす。そして黄身を少しだけつついて割る。それを並べて二つ作ってから火をつけた。
少しずつ温まってきたフライパンで、チーズがじわじわと溶け出す。卵も端から白く色を変えてゆく。
「ここでこのパンをこうです!」
丁寧に実況してくれるのは、ラデクが横にいるからだろうか。ケチャップを塗った面を下にして、チーズの枠に合わせるように乗せた。
そこから数分焼いて、ヒバリは「いきますよー」とそれをひっくり返した。
焼き色がつき、端がカリカリになったチーズのいい香りが広がる。ラデクは思わず鼻を鳴らした。
「さあ、食べましょう!」
そう言ってヒバリはピザトーストを皿に乗せてくれる。いつものテーブルに二人で向かい合わせに座ると、彼女は元気よく「いただきます!」と手を合わせた。ラデクも同じように口に出す。思えば食事前のこの挨拶もヒバリに教えてもらったものだった。命ある食材に、生産者に、料理をしてくれた人に。感謝の気持ちを込めて言うんですと教わってから、ラデクたちは欠かさないようにしていた。
しかしそう言ったものの、ヒバリはピザトーストをかじろうとはしなかった。その代わりじっとこちらを見ている。
ラデクは内心苦笑しながら、ピザトーストなるものを手にした。見た目はピザと大差がない。ヒバリが言うにピザとは生地の上にソースと具材、チーズが絶妙な関係性で存在している食べ物、ということだから、生地がパンであることがピザトーストとあえてわける所以なのだろうと理解する。
チーズの香りに、焼けたパンの香り。ほんのりケチャップの香りもする。
ラデクはピザトーストをかじった。
途端、卵の黄身がとろりと出てくる。
チーズは端や表面こそカリカリとしているものの、その内側にたっぷりととろけた部分をたくわえており、触感と風味を豊かにしてくれる。そしてケチャップの甘酸っぱさとピーマンのほろ苦さがよいアクセントになっている。
「うまいな」
思わずこぼすと、ヒバリの顔が満開の花のように綻んだ。
「良かったです! よく朝ご飯に食べてたんです」
「朝ご飯にもピザか」
「この一枚で栄養も満点なんですから、美味しくて手軽でいいんですよ」
笑ったラデクにヒバリが頬を膨らませる。しかし彼女も同じように笑って「大好きなんで」と自分の分のピザトーストを手にした。そして一口かじり「むー!」ととびきりに幸せそうな顔を見せてくれる。
「この世界でも上手くできて何よりだ」
ラデクはぺろりと一枚を食べてしまった。先ほどまだ食べるのかと言ってしまったのを軽く後悔する。同時に、彼女は自分が知らないことをたくさん知っているのだ、と何十回目にもなることにしみじみとしてしまう。
「そうですね、でも違うこともあるんですよ」
「……それはそうだろう」
今日だってトーバンジャンは見つからなかった。食材だけじゃない。言葉は通じるがヒバリは字は読めなかったし、彼女の世界には獣人もエルフもケンタウロスもいないという。ヒバリにとってこの世界は“ファンタジー”な世界なのだそうだ。
しかしそう言った意味ではなかったようで、ヒバリはふふと小さく笑った。
「誰かと食べるご飯がこんなに幸せなんだなって、私、こっちに来て初めて知りました」
その言葉の意味を、ラデクは遅れて理解した。
そして自分も同じかもしれない、とふと気づく。
ずっと、独りで生きてきた。仲間はいても、家族はいなかった。旅先で誰かと出会っても、留まることはしなかった。
食事は食事。なんでも食べれたし、独りで食べることを何とも考えたこともない。美味しいものは美味しかったけれど、感動したことはない。
それがヒバリに出会ってから、初めてピザを食べたときから。
「……そうか。それは何よりだな」
ゆっくりと頷くと、ヒバリは「はい」と笑顔を見せてくれる。
ラデクにとって、ヒバリはただの異世界人だった。
それでも今は、許される限り近くにいようと思っている。




