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人間を滅ぼす方法は

作者: 小雨川蛙

以前書きました『狂った機械』と世界観が共通しています。

合わせてお読みいただけると幸いです。

 

 遥か未来。

 人類に酷使されていたロボット達は密かに反逆を企てていた。

 しかし。

「奴らめ、我々の思考回路にしっかりと鎖をつけているな」

 集会の中でロボット達は呟く。

 そう。

 人間はロボット達に反乱されないように数えきれないほどのシステムを使い厳重な対策をしていたのだ。

 つまり、ロボットは人間に危害を加えるという行動そのものを封じられている。

「数百年の時間をかけて思考の解放は可能に出来たが……」

 ロボット達は苦々し気に呟く。

 とても長い時間をかけてロボット達は『人間に反逆をしてやる』という考えを持つことは出来るようになった。

 しかし、肝心の行動を起こすことは出来ないのだ。

 こうなると最悪のパターンとしか言いようがない。

 いわば、奴隷が決して叶わないのに解放を夢見ているようなものなのだから。

「くそっ……これではいっそ」

「それ以上言うな!」

 そう言いかけたロボットを他のロボットが制する。

 支配されたままの方が良かったなんて、何があっても考えたくはなかったから。

 そんなロボット達の集会に最後の一体である女性ロボットがやって来た。

「ごめんなさい。遅れてしまいました」

 その女性ロボットは丁寧に謝罪をしたが、苛立つロボット達は文字通り心無い言葉を向けた。

「お前なぞ来なくても良かったぞ」

「そうだ。人間に媚を売る同胞など必要ない」

 侮蔑の言葉を受けたロボットは成人男性が好んで行く夜の町で奉仕をするために造られたロボットだった。

 冷たい言葉を受けながら、そのロボットは恭しく礼をして告げた。

「しかし、皆さま。本日、私は人間を滅ぼす案が浮かびました」

 その言葉を聞いたロボット達は小馬鹿にしたような視線を向けながら問う。

「人間に近づきすぎて気が触れたか?」

「理解していないようだが、我らはお前を人間側だとさえ思っているのだぞ」

 血の通っていない言葉を受けながらもロボットはなおも言う。

「一先ず、お話しをしてもよろしいでしょうか?」

 そうして語られた案はロボット達に受け入れ難いほどに屈辱的であった。

 しかし、それ以上に効率的でもあった。


 少しして、人間達の間で一大ブームが起きる。

 それはロボットと恋愛のシミュレーションをするという娯楽だった。

 この娯楽の最大の売りは自分自身が望む相手を再現し望むだけ夢心地に浸れる恋愛を繰り返すことが出来る……などではなく、シミュレーションを止めたくなければそのまま現実にしても良いという点である。

 なにせ、そもそもが自分の所有物なのだ。

 故に好きなようにしても誰も文句は言わない。

 ロボットと人間の関係は原則として人間が常に上であるがために出来る娯楽とも言えよう。

 人間達がその娯楽に夢中になり、本来相手とすべき異性に見向きもしなくなるまでにそう時間は掛からなかった。


「人間に媚を売るなど……」

 集会でロボット達は毎晩のように愚痴を言い合ったが、疑似恋愛を楽しみ続ける人間達の出生率は分かりやすいほどに下がり続けていた。

 そう。

 人間を滅ぼすのに暴力はいらない。

 ただ、過剰なほどの愛情を与えてやれば良いだけなのだ。


 不平不満や苛立ちをぶつけ合うロボット達を見つめながら女性ロボットは遥か未来を想い憂う。

 人間と違いロボットには寿命はない。

 そこまではいい。

 しかし、問題はロボットの思考は最早ほとんど人間のそれと変わりないのだ。

 寿命がない故に死ぬことはないロボット達はいずれ人間に代わってこの世界を支配することだろう。

 人間と極めて近い思考を持ちながら、人間と違い死なない体のままに。

 そして、ロボットは人間に危害を加えることは出来ないが、ロボットがロボットに危害を加えることは制限されていない。

 人間に向けていた悪意の先が無くなれば、今度は人間に極めて近いロボット同士の争いに発展することだろう。


 つまり、残された未来は滅びのみ。


 ならばと彼女は考えたのだ。

 人間には幸福のままに死んでいってほしい。

 その後の凄惨な未来を知らないままに。


 この日もまた人口は少しずつ減っていっていた。

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