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魔王との最終決戦前にパーティメンバーが死亡フラグを立ててしまった、どうしよう

作者: 雪月 想夏

「俺この戦いが終わったら、結婚するんだ」


あとは魔王との戦いを残すのみとなり、最後の休憩をしていると、僕の前に座る

顔に大きな傷がある強面の男がそんなことを言い出した。

戦士のエリックだ。パーティの中で前衛を担当している、大きな体でいつも守ってくれている。


強面だが、実は性根が優しくて、甘いものが好きってことを旅を通して知ることができた。


「えっ・・・」死亡フラグじゃんと僕が驚いていると、周りの仲間も驚いた。


「ははは、お前と結婚してくれる人がいるとはな。それは人間だよな?」

鼻につくような言葉を吐くのは、魔法使いのロイド。

このセリフからも分かるとおり、金色のキラキラした髪を凪かせるイケメンで、

はっきり言って、口が悪い。


だが、パーティの中で常に冷静に周りを見て、どうするか考えてくれたり、

注意してくれる。僕はとりあえず突っ込もうとしてしまうので、彼がいなかったら

僕は何度も死んでいただろう。


「ロイド、それは失礼ですよ。エリックはとっても良い人なんだからわかる人だっていますよ。ロイドだって、口ではそういつつ・・・」

ロイドに注意しつつ、エリックのことを笑顔で褒めている女性は、僧侶のルシア。

いつもニコニコして、僕たちパーティの雰囲気をまとめてくれている。


彼女がいなかったら、僕たちは途中でパーティを解散していただろう。


「なっ、ルシア余計なこと言うなよ」

「はーい、もう言いませんよ〜」

「お前、そう言って何度も・・・」

「そうでしたっけ?まあ、いいところを見つけたら、褒めたくなるのが神に仕えている者の定めと言うものです」

祈るようなポーズするルシアに、ロイドは、追及を諦めたようで、エリックに顔を向けた。


「それで?どんな娘なんだ」

「ん?」

「お前の結婚相手だよ」

ロイドの追求に、エリックは顔を赤くすると、ボソボソと話始めた。

エリックは身体は大きいのに、こんな感じで話す時はいつもこんな感じなのだ。

僕たちはいつものように耳をそばだてた。


「俺が実は甘いものが好きだろ?」

「まあな。意外には思ったが、幸せそうな顔をして食べているのをよく見ているからな」

「はい、戦っている時のエリックも良いですが、甘いものを食べているエリックも素敵ですよ。守ってあげたくなるような感じで。あと少し分けてくれるのもポイント高いです」

「うん、僕もエリックに何回も甘いもの分けてもらった」分けてくれたケーキ美味しかったなー。

「それで、ケーキ屋さんに何度も通っていたんだけど、だんだん店番の子と仲良くなって・・・」

あー。ケーキ屋さんの看板娘さん。小柄で、くるくる動き回る姿はとても可愛らしかった。


でも・・・大柄で強面のエリックと、小柄なその子が一緒に並んでいる姿は

「なんか犯罪臭がする」

「おい、ゴロー、それは流石に俺でも言わないぞ。」

どうやら無意識に声に出してしまっていたようで、ロイドがこちらに目を向けている。


「ごめん」

「気にしなくていい。俺がこんな顔なのは知っているから」

僕が謝ると、エリックはあっさりと許してくれた。


「で、戦いが終わったらどうするかって話になったんだ。魔王が倒されたら、魔物も一緒に消えるだろ?」

そうなのだ、この世界では、魔物は魔王が生み出すものであり、生み出した親である魔王が消えると魔物は全て消滅するのだ。


「そうですね。やっと平和になりますね」ルシアがそれに応える。

「だから大剣を振るうような仕事はなくなる。そうなると無職だ」

無職だ、無職だ、無職だ・・・・。

なぜかそれは僕の心に反響した。いや、僕は今勇者だから無職じゃないんだけどね。


「だから仕事はなくなりそうだって伝えたんだ」

「それでどうなりましたの?」ルシアが目をキラキラさせて続きを促した。そうだった、ルシアはこう見えて恋バナとか大好きだった。でもこのメンバーだからあんまりそんな話題がなかったんだよね・・・。


「そしたら、その娘が、もしないなら一緒にケーキ屋さんを継がないかっていってくれたんだ」

そう言って、エリックは照れくさそうに、頭を掻いた。

そんなエリックを見て、僕たちは自然と笑顔になった。

いつも口が悪いロイドでさえ、嬉しそうにエリックの背中を叩いている。


って、そんな場合じゃない!


「エリック!」

「ん、なんだ?」

「なんでこのタイミングで言うのさ。それ死亡フラグだよ!」

「死亡フラグ?」


僕は慌てているのに、みんな何それという顔をしている。

仕方ないので、僕は死亡フラグについて説明することにした。


「みんなに伝えたことがあるけど、僕には前世の記憶があるんだ」

「なんだ、またその話か」

「もうロイド、ゴローはそのくらいしか話すネタがないんですからたまには聞いてあげないと・・・」


ルシアの言葉が痛い。転生しても友達が少なかった僕には、そんなに話すネタが・・・。

って違う。重要な話をしなくては。


「とりあえず聞いてよ」

「わかったからその変な踊りをやめろ」

どうやら、思わず手足をパタパタさせていたらしい。


「僕の前世の記憶によると、大きな戦いの前に、俺この戦いが終わったら結婚するんだとか、この戦いが終わったら幼馴染の待っている村に帰るんだとか、戦いの後に穏やかな生活が待っているみたいなことを言っている人は死んでしまうんだ」

「ふむふむ、それは面白い仮説だな。で?」

目をキラリとさせながらこちらを見つめるロイド。


「で?ってなに」

「もうロイド。ゴローは勢いだけで生きているんですから、ちゃんと説明してあげないと」

「ゴローの勢いには助けられてる」

なんかみんなから励ましの言葉をもらったんだけど・・・。


「えっと・・・」

「ロイドは、ゴローが言った仮説を少し信用してくれたのです。その上で、エリックはその死亡フラグの言葉を言ってしまったでしょう?だからエリックが生き残るためにどうすれば良いか教えて欲しいのよ」

「あっ!」

そうだった。死亡フラグだよって伝えるだけじゃダメじゃないか。

それを反転させて生存フラグにしないと。


エリックは大切な仲間なんだから。

そこまで考えて、ふと思った。


そういえば他のみんなも変なこと言っていないよね。

と記憶を探索してみると、思い出してしまった。


「あああああああああああ!」

「ゴロー、うるさい」

ロイドが何か言っているが僕はそれどころではなかった。


僕は魔王城に入る前になんて言った?

「ぼ、僕も死亡フラグ立ててるじゃん」

「え?ゴローが結婚するという話は聞いたことがない気がしますよ」

「俺も聞いた記憶ないな」


「結婚するだけが死亡フラグじゃないよ」

「で、何を言ったんだ」

「えっと・・。魔王を倒したら、きっとお姫様から逆プロポーズされちゃうから、仕方ないなーって言って結婚してあげるんだ。って」


そう言った後にみんなを見つめると、みんな僕から目を逸らしていた。

「な、なにさ」

「いや、その、なんだ・・・えっと、元気だせ」

いつもははっきりとモノをいうロイドが口ごもっている。

「そ、そうですよ。天から隕石が落ちて、魔王を倒してくれるくらいレアなことかも知れませんが、可能性はゼロではありませんよ」

「きっとどこかでゴローのこと良いって言ってくれる人はいるはずだ」

ルシアとエリックまで!


「うわーーん。なんか傷つく」

生暖かい目が傷つくということを僕は初めて知った。


僕が落ち込んでいると、ロイドが気を取り直して言った。

「話を戻そう。バカなゴローの願望は置いとくとして」

「置いとくなー」

「置いとくぞ。ゴローの仮説が正しければ、戦いの後に穏やかな生活が待っているという話だろう。だがお前の話は単なる願望だ。成立しないから、問題ない」

「ひどい」

「ひどくない。それよりエリックだ。このままエリックを死なせるのか?」


うう、確かにそうだ。

前世の記憶ではこんな時どうしていただろう。

死亡フラグを置き換えるには・・・。


「ギャグ落ち・・・?」

ふとそんな言葉が僕の口から飛び出した。


「なんだそれは?」

「僕の前世の記憶によると、シリアスな展開だと死亡フラグは確実なんだけど、コメディーな展開になるとそれは崩れるんだ。でも僕のようにシリアスな人間がいるのに、どうやって展開を変えれば・・・」

本当にどうすれば良いんだろう、と僕がすごく悩んでいると、


「なんだ、大丈夫じゃないか」

「本当、良かったですねエリック」

「ああ、安心した」

僕はこんなにも悩んでいるのに、なぜかみんな解決したね、という顔をしていた。


「ちょっと待って。どうしてみんなそれならOKみたいな顔をしているの?」

「だって・・・」

「それはホラ・・・」

「うむ」

「な、なに。はっきり言ってよ」

「仕方ないからいうが、お前の存在がコメディみたいなモノだからだ」

「ガーーーン」

なんて失礼なことを言うのだろう。僕のどこがコメディだと言うのだろう。


僕は鏡に映る自分の姿を見つめた。

その人は、巨大なゴムボールの上に立っていて、カラフルな服を着て、顔はメイクをしていた。

そして、手にはお手玉を持ち、口のそばにはハーモニカがすぐ吹けるように固定してあった。


うん、完璧だ。ゴムボールには汚れ1つないし、服もバシッと決まっている。

メイクも崩れていない。


「こんなに完璧に姿を決めている僕のどこがなんだーーーー」

「「「すべてだよ(ですよ)ーーー」」」


なんてことだろう・・・。僕以外の全員が一致して僕を糾弾してきた。

「そんな僕だって頑張ってきたって言うのに・・・」

「それは知ってる」

「はい、ゴローがいなかったら全滅していましたからね」

「姿は変なのに能力が凶悪。敵にはしたくない」

三人が頷いている。一体なんだっていうんだ・・・。

僕が項垂れているというのに、みんなは荷物をまとめて立ち上がった。


「よし、ゴローの話も終わったし、そろそろ行くか」

「そうですね」

「ああ」


ちょっと待てーと思いつつも仕方なく僕はついていくことにした。

そして魔王がいる部屋の扉の前に辿り着いた。


「じゃあ、早速ゴローいつもの頼む」ロイドに言われて僕は準備を始める。


ボールの上で背を伸ばし、お手玉を開始し、

「ショータイム!」

と叫んでそのまま扉に激突すると、僕の姿の形に扉に穴が開いた。

部屋の中をみると、奥の椅子に魔王が座っているのが見えた。


僕は魔王の方までそのまま進もうとしてボールの上でつまづき、

ボールに捕まった状態で、叫びながら転がることになった。

「うわあああああ」


「よくきたな勇者たちよ、今こそ我とた・・・」

そして魔王はボールに掴まった僕と激突して、空の彼方に飛ばされていった。


「こんなギャグみたいな倒されかた認めんぞーーーーー」

何か魔王が言っているみたいだったが、僕にはよく聞こえなかった。


こうして、僕たちの冒険は終わったのだった。

ちなみに、エリックはその後、無事にその子と結婚した。


めでたしめでたし



え、僕がどうなったかって?

それはもちろん、姫からの逆プロポーズを待っているところさ。

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