ゴールデンウィーク(下)
こちらでも一応、あけましておめでとうございます。(←だから、遅い)
<第八章>
バタバタと騒がしい中部。ここにナンバーやアニマルの人以外が集まれる場所があるんだ。つまり、大アルカナの名前の僕も、そこに行かなくちゃならない。
「失礼します」
もう先生やゼウスさんみたいな偉い人が揃っていて、大アルカナも五人ぐらいいた。『刑死者』『愚者』『節制』『恋人』『星』の人達。
「デス」
「お久し振りです」
13番の番号が振ってある椅子に座る。
「ったく、これしかいねぇのかよ。せめてワールドがいれば、少しはマシだってーのに」
僕の斜め前に座ってるフールさんを、隣に座ってるモデレートさんが窘める。
「デスもスターもハングもいるのに、何の不満がありますか。これで遠距離型の私達も安心して出来るって事です。・・・ですが、フール。貴方はどちらかというと近距離型ですよね?」
「うっせぇ。距離関係ないてめぇが言うな」
自分の使う武器について争ってるみたい。でも、そうしたら、僕はどっちだろう?
「あんた達、少しは黙りな」
「・・・ふん」
ハングさんとスターさんが初めて喋った。
と、パンパンと誰かが手を叩いた。向くと、ゼウスさんだった。
「第一種警報が鳴ったのは、全員知ってると思う。普通なら第三種から鳴るのが何故鳴らなかったのか、それは内部に裏切り者が数十人出てしまったからだ。外部にはおよそ数百人。そこで、私とロキ、及びその部下とマジシャンとデビルをこちらに割かしてもらう」
「はいはーい」
フールさんが手を上げる。
「デビルもマジシャンもここにはいねぇのに、どうやって割くんですかぁ?」
「あと三十分程でこちらに来るそうだ。他にも、三名」
「へーい」
三人・・・。誰だろう?
「そろそろ敵が来る。工作部隊はさっそく取り掛かってくれ。残りはそれぞれが作戦を立てるように。・・・以上、解散」
本部の外は夜だった。
初めて本部の外に出たんだけど、こんな所にあんなのがあっていいのかと思うぐらい、都会だった。もちろん、人も沢山いる。
人ごみの間を縫って、先生に指定された場所へ行く。
裏道に入った僕は、ポケットから携帯を取り出した。
「先生、着きました」
電話で連絡。
『よし、わかった。私達も行動に移すとしよう』
携帯の向こうから人の話し声が聞こえる。
『恐らく、最初に攻撃を始めるのはフール。爆発音が聞こえたら、動いてくれ』
「わかりました」
電話が切れた。
「ヒルリエ、今回もよろしくね」
ヒルリエは頷くと、銃に変わった。
周りに誰もいない事を確認して、大通りの方を伺う。人の気配が少しずつなくなってきた。ただ、いくつか残ってるのがいるから、それはたぶん敵なんだと思う。
僕の周りに人はいない。
銃を頭の横に構えて、いつでもここから出られるようにする。耳を澄ますと、遠くでドン、という音がした。
先生に指示されたルートを思い出しながら、少し早歩きする。初めての場所に行く事が多いけど、地理的なことは得意なんだ。
大通りと平行して進んで、人の気配がいくらか集まってる方へ行く。
「さっきからずっと、同じ場所を・・・」
「罠に嵌ったのか、それとも・・・」
三人、発見。
大通りをうろうろしているその三人は、僕の視線も気付かない。
「さっきまであれだけいた人も、全くいないよな」
新人さんだったのかも。僕の組織は、こうした細工をするので有名なのに。・・・でも、かわいそうだけど、バイバイ。
裏から表へ抜ける道。そこに立って、僕は三人をまとめて撃った。ちょうどルートだったのに、そんな所でうろうろされても困るから。
大通りに出て、次の曲がり角を探す。
「・・・デス」
「あ、スターさん」
投擲用小刀、って言えばいいのかな?細身のナイフを持ってるスターさんは、僕を見ると少し意外そうな顔をした。
「大鎌じゃ、ない」
銃を見た僕。
「銃も使えるので。先生が、銃使いだから・・・」
「・・・そうか」
なんかショックそう。
「こっちにいた!」
パンッと発砲されて、僕とスターさんは会話をやめた。その代わり、交わされたのは次の行動についての合図。僕が前衛、スターさんは後衛の指示。
相手は五人。全員銃を持ってる。他に装備は見当たらないけど、もしかすると防弾チョッキを着てるかも。
僕の耳を掠めて、一本のナイフが飛んでいった。
「がっ」
頭に命中。
「さすが、スターさん」
銃をまた別の形に変える。これが本当の僕の戦闘スタイル。鎌。
「なっ・・・。銃が!?」
驚いてる敵を殺してあげて、勢いそのままで隣の人も。
二人で相手をしたお陰で、特に何の問題も起きずに全員倒すことができた。
「僕はこれから先生と合流しに行くのですが、スターさんは?」
「・・・ダビデ」
何の事だか分らなかった僕は、首を傾げた。でも、スターさんはもう走り去った後。刃に付いた血を払うと、僕もルートを辿ることにした。
柄の長い鎌を地面に擦るぐらいにまで下ろして、少し早歩き。周りの音が、激しくなってきた。
合流ポイントに近付くと、沢山の発砲音とカエルが潰れた時みたいな音が聞こえてきた。たぶん、ペンドラゴンさんもいる。
目立つから鎌を銃に戻す。
気配を消しながら合流ポイントへ。すると、やっぱり先生とペンドラゴンさんだった。
「防弾チョッキとは、随分じゃないか。二度も同じ場所に当てないといけないとは」
「素直に頭を狙えよ!てめぇは俺を殺す気か?」
「全く同じ場所に当てるのは、とても難しいんだぞ?これは火器専門のジャッジメントでも難しい事だ」
「地味に自慢するんじゃねぇ!!」
「うわっ!?死人を投げるとは、なんと非常識な!」
・・・・。・・・うん。見苦しいとしか言いようが無い。
物陰から顔を覗かせてみると、敵の人達が発砲している真ん中で先生とペンドラゴンさんは喧嘩をしていた。当たり前のように弾が掠ってるのに、ものすごく余裕そう。
赤いツンツン頭の人が、もう一度ぐったりした人を投げる。先生が避けて、後ろの敵に当たった。
「一度ならず二度までも・・・。君は日本の心を理解したんじゃなかったのか?」
「んな訳あるか!俺はアメリカ人だと、何度言ったらわかる。日本のナショナル・リリジョンなんて知るか!」
「自然宗教と、ちゃんと言わないと何の事だかわからないぞ」
・・・今、いい事知った。
「黙れ!」
「うおっ」
フレンドリーファイア中。
見ていられなくなったから、仕方なく周りの敵を倒していく。だけど、二人はそれすら気付かない。一番いけないコンビを組んじゃったと思う。時々いいコンビになるけど。
とりあえず、全部倒した。でも、先生は眼鏡を外して本気モードだし、ペンドラゴンさんだってナックル嵌めてるし、もうどうしたらいいのか分からない。
「あの・・・先生?」
少し離れた場所から声を掛けてみる。
「お?」
まず、ペンドラゴンさんが振り返った。
「デスじゃねぇか。久し振りだな」
「久し振り」
「あぁ、デス。やっと来たか」
すごい。あれだけ熱中していてたのに。
眼鏡をかけ直した先生が、ペンドラゴンさんを押し退ける。
「遅かったから心配したよ。そろそろ交代の時間だったからね」
「何が交代だ。まだ三十分以上あるじゃねぇか」
僕は時計を持ってないから、時間については何も言えない。
黙って見ていると、また喧嘩をし始める。だから僕が仲裁していると、急に後ろから弾丸が飛んできた。
「チッ・・・」
「またか」
それに気付いて二人が同時に振り向く。そして、僕が止める間も無く、乱闘。
「あー・・・」
どうして大人はこうなんだろう?
気付くと、敵の人は全員倒れていて、また二人は喧嘩をし始めた。
「よし、これで安心だ」
ひしゃげた眼鏡を持った先生が、乾いた笑い声を漏らす。その横で、僕はロープでぐるぐる巻きにされたペンドラゴンさんが連れて行かれるのを見ていた。
「どうして?」
「ここはもう、本部の中だからだよ。・・・いや、だが、内部にもいるんだったか」
レンズも割れている眼鏡を先生はじっと見て、ため息をつきながら眼鏡を後ろに放り投げた。
「あたっ」
誰かに当たる。
「もう・・・酷いですね。終わった後なんですから、少しは労ってくださいよ。カエサルさん」
振り返ると、そこにはモデレートさんがいた。ただし、血まみれ。
「おぉ、せっちゃん」
「・・・あの、だから、そのあだ名はやめません?」
節制の“せ”を取って、せっちゃん。by先生。
「モデレートは言いづらいんだ。“もでれ”と呼んだら怒ったじゃないか」
あまりに酷いそのあだ名に、さすがの僕も表情を崩した。
「先生、さすがに“もでれ”はないです」
「わお、珍しいですね。デスの無表情が有表情になりましたよ」
自分の事なのに、どうして笑ってるんだろう?
「そうか。そこまで言われると、さすがの私も傷付くな」
やれやれと、肩を竦めて首を振る先生。
「ところで、せっちゃんはどうしてここにいるんだい?まだじゃないかな?」
「・・・まぁ、いいです。そろそろ、私の出番だと思いまして。反乱者が、ここまで来ているんですよ」
その言葉を理解するより先に、この建物の奥の方。遠くの場所で悲鳴が上がった。
「ほら」
モデレートさんは、ポケットから何かを取り出した。
「・・・誰か、死んだのか?」
「はい。でも、私が認めなかったモノですし、生きていても無駄かと。コードネームは・・・覚えてませんね。その程度だったということでしょう」
話している間にも、敵の人がどんどん近付いてくる。だから僕は銃を鎌に変えた。
奥行きは、大体五十メートル。よく見ると、駐車場だ。所々に見えるブロックに気をつけないと。
「デスは、行きますか?」
「はい。先生をお願いします」
敵味方の判別は、つけない。だって、同じだもん。
僕が走ってると、敵の誰かがマシンガンか何かを使ってるみたいで、時々顔に弾が掠る。だから、鎌を盾にしながら接近。すると、相手が弾切れになった。その隙を突いて、鎌を振り上げる。
たまたま味方だとわかった人だけは残して、他は皆倒してあげる。
刃が色んなモノで鈍り始めた時、ようやく敵全員がいなくなった。
「・・・あれ?」
後ろを振り返ると、僕が味方だと判断した人達が全員バラバラになってた。
「あ、すみませんね。ただの取り残しかと思いまして。違いましたか?」
「・・・・」
「・・・あのぉ、何か反応してくれません?」
モデレートさんを敵に回したら最悪かも。
僕はヒルリエをどうするか、考える事にした。だって、戻したら最悪だもん。
「せっちゃん。とりあえず、ここから離れたいんだが」
「あぁ、すみません。今解きます」
そして、本部内。下部。
「もう、あらかた片付けられてるか」
ゼウスさんは最初反乱者数を数十人と言っていたけど、もしかしたら百人以上いたのかもしれない。そう思うぐらい、目の前は荒れていた。
「これは・・・修理が大変そうで」
さすがのモデレートさんも、乾いた笑いだった。
「舜がカンカンに怒るな。・・・はは」
先生もだった。
本部はビルなんだけど、下部だけが廃墟同然の状態。工作部隊の人、大変そう。
先生はポケットから携帯を取り出して誰かに電話する。たぶん、ゼウスさん。
「・・・わかった」
携帯を閉じる。
「終わり、だそうだよ。内部も外部も、掃討終了という報告が集まってるらしい。二人とも、お疲れ様」
そう言って、先生はにっこり笑った。
「・・・えくすとりーむな休暇だった」
「えっ?おぉ!?これ、ちょーうめえ!!」
ゴールデンウィーク終了。帰る前にロキさんと一緒に作ったパウンドケーキを、約束した栗原君と高山君に渡したんだ。だけどその場で食べ始めちゃって、今、僕と二人と友哉の周りには人が沢山いる。
「何これ?黒谷君が作ったの?」
「え?うん、そうだよ」
沢山持ってきてて良かった。
あの本部での反乱事件。犯人は他の組織のスパイだったんだって。下部の人達を煽って起こしたのが、あの事件。先生は「人員が多すぎるから、こういう事が起きるんだ」と、ぼやいてた。
被害は建物と周りの建造物と、死傷者六十七人。何故か、僕もその内の一人に数えられた。肩の傷がいけなかったのかな?
「おーい、お前ら!チャイム鳴ったぞ?席に着け!」
あ、先生だ。
僕は、余ったけど後で無くなるケーキ達を紙袋に入れて、理科総合Bの教科書を出す。
「あ、先生!教科書取ってきます!」
「俺も!」
「さっさと行け」
理科の伊勢先生は出席を取ると、大きなため息をついた。
「休みが終わって舞い上がってるのはいい。しかしな、再来週には中間だ。そこんとこ、しっかり覚えとけ」
一瞬にして教室が静かになる。けど、すぐに騒がしくなった。
「ねぇ、友哉。真ん中がどうしたの?」
「真ん中じゃねぇよ。中間試験だ。・・・勉強しないと」
試験・・・。
「じゃあ、ほら。さっさと試験範囲終わらせるぞ。・・・教科書、二十三ページ開け」
なんだか不思議な気分。試験ってことは、百点取らないとダメなんだよね?すごく、久し振り。
「えー・・・地震と、この前やった断層についてだな。休みボケしてないか、ちょっと確かめるか。黒谷」
「はい」
あれ?どうして、僕?
「断層の種類、三つ。教科書見るなよ?」
「あ、えっと・・・」
断層、だよね?
「正断層、逆断層。これらは総称、縦ずれ断層で、あとは横ずれ断層があります。その他特徴による分類だと、震源断層、伏在断層、構造線・・・」
「わかったわかった。詳しい分類まで言うな」
まだ途中だったのに、伊勢先生は僕を座らせる。
「ったく。教科書見てないのに、これか。・・・そう、黒谷の言った通り、正断層と・・・」
何がいけなかったんだろう?
「ちょ、恭介」
友哉が僕に話し掛けてくる。
「教科書載ってないことを、どうしてわかるんだよ。またあれか?先生に教えてもらったとか」
「ううん。これは別の人」
そういえば、どうして先にある試験より後の文化祭の方に力が入ってるんだろう?何か理由があるのかな?僕、知ってたらケーキ作らないで、そっちの方を優先させてあげたのに。
この時、僕は試験がどの程度の物なのか予想しておけばよかった、と後で後悔した。
前後編のくせに、一ヶ月すっ飛ばした作者が通ります・・・。
それはさて置き、随分ぐだぐだな感じになってしまい、本当にすみません。
本当なら、あの反乱事件後も一応あったんですけど・・・あまりに長すぎるのでカット。それでなくとも遅かったので・・・。
次こそは元の感じに戻します。