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先生という人

<第四章>

 横で友哉が呆れてる。

 「お前・・・今日はやたらテンションが高いな。何かあったのか?」

 「ううん。別に、大した事じゃないよ。・・・先生が来るんだ」

 「先生?カテキョーか何かか?」

 「かてきょーって何?」

 学校の帰りのホームルーム前。の、ちょっとした会話。

 「おま・・・本当に世間知らずだな。家庭教師の略だ。それで、先生ってどんな人なんだよ」

 「禁止事項」

 先生の事を話してはいけないんだ。これは学校に通うに当たって、一番強く言われた事。

 友哉は僕の言葉に一瞬呆気に取られた顔をして、はぁ、と大きなため息をついた。

 「あのなぁ・・・」

 「本当にダメなんだ。ごめん」

 「何かあるのか?家が厳しいとか、でっかい秘密があるとか、実は犯罪者とか??」

 友哉は何故か大きな想像を膨らましていて、僕は苦笑いした。



 「ただいま」

 部屋に戻って、僕は先生が普通に椅子に座っていてビクッとなった。

 「先生?」

 僕が呼んでも、先生は何も反応しない。というか、呼んだら突然頭がカクッとなって更にビクッとなってしまった。

 「あ、あの・・・?」

 珍しく声が震えてしまっていて、たぶんまだ恭介君気分だったんだ。

 もう少しだけ先生に近付いたら、意外な事に先生は寝てた。だから呼んでも反応しなかったんだ。

 「先生、起きてください」

 「・・・ん?あぁ、すまない。この所、徹夜続きで・・・ふわぁーあ」

 ・・・何となく、うそ臭い欠伸。本当だったらどうしよう?

 先生は眼鏡を外して目を擦ると、ちょっとだけ乱れている髪を掻き揚げた。

 「先生、どうやって入ったの?僕は鍵を閉めて学校に行ったはずなのに」

 あれ?ちょっと待って。前にもこんなことがあったような気がする。

 「ふむ。それは、ピッキングだね。もしくはそれに準じる何かだ。鍵開けの技術は人並みにある」

 「堂々とそんな非人道的な事を言わないでください」

 今度から二重鍵にしよう。

 眼鏡を掛け直した先生が、僕の顔を見て怪訝そうな顔をする。何かあったのかな?

 「それは・・・変装用に掛けてる物か。君がすると、余計に幼く見える」

 最初、僕は何の事かわからなくて、ぺたぺた顔に触れてみる。・・・あ。

 「眼鏡の事?」

 眼鏡を外して、ヒルリエを蛇もどきの形に戻してあげる。すると先生は納得した表情になった。

 「なるほど。ヒルリエを眼鏡に変えていたんだね」

 蛇の形になったヒルリエは、先生を見ると興味なさそうに僕の腕に巻き付いて目を閉じた。

 「ヒルリエがどうしてもって言うから、眼鏡になってもらってるんだ。僕も一人だと・・・寂しい・・・のかな?あの感じ」

 急に世界が小さくなっていく感覚の事を、“寂しい”とか言うんだったと思う。

 「だから、変装も兼ねてやってもらってるんだ」

 「そうか」

 僕は鞄を部屋の隅に置くと、先生の前に座った。

 「・・・あ、そういえば学校はどうだ?私がいない間に言われたそうだが、問題は無いかね?それだけが気掛かりで、夜も眠れなかった」

 「過保護すぎです。僕だって友達できたし、勉強なんて十歳の時に終わってる」

 「なるほどなるほど。それは良かった。もし何かあれば命令したアイネイアスを殴っている所だった」

 ・・・あの人、アイネイアスって言うんだ。

 ほっとした表情の先生は、上着の内側から革の手帳を取り出した。

 「そう、それでだ。私は何の用があって来たんだったか。・・・あったあった」

 こほん、と一つ咳払いをする。

 「五月のゴールデンウィーク、あまり予定を入れないでもらいたい。組織内の会議やら、他の密会やらに出席しなければならないんだ。それと、そろそろ訓練と検査をしないとね」

 「・・・ていう事は、僕は先生の護衛?うん、任せて」

 予定、入れないようにしないと。そう思って、カレンダーにマークを付けた。

 「助かるよ。私でも、時には死に瀕する事もあるからね。一人より二人だ」

 笑顔の先生は、腕を組んで一人で頷いてる。

 はっきり言うと、先生は僕よりすごいと思う。僕はまだ覚えてるんだ。先生が一対二十でも勝っていた事を。・・・そう思うと、前回のは何かおかしかった。使い慣れた銃じゃなかったのかな?

 「そうそう。今日私が君に会いに行くにあたって、ペンドラゴンから預かり物だ」

 ポケットから、小さな袋を取り出した先生。僕はそれを受け取ると、開けて中にある物を取り出した。

 「あ・・・。これって・・・」

 「ほう。あいつも粋な事をする」

 チョーカー。ペンドラゴンさんがくれたのは、銀色のラインで出来た五芒星が付いた黒いチョーカーだった。

 「これは、学校に持って行ったら取り上げられる物の一つだが、中々良いじゃないか。着けてごらん」

 「うん」

 ・・・あれ?着けられない。僕が不器用なのかな?

 「ははっ。貸して」

 先生は僕を近くに寄せると、チョーカーを首に巻いてくれた。銀の星がちょっと冷たい。

 「どう?」

 「・・・うーん。やっぱり学校は不味いね。親として、それは認められない」

 「だから先生、僕のお父さんじゃないよね?」

 何かと僕を息子にしてくる先生。先生が言ってるだけで、血の繋がりも何もないからね。

 「いやいや、過去に遡ればあるかもしれないじゃないか。もっとも、その場合遠い親戚となってしまう訳だが・・・」

 すごく遠回しだけど、結局無いんだ。だって僕は両親、家族なんて知らないから。

 そんな言い争いみたいな事をしていると、丁度いいタイミングで先生の携帯が鳴った。いいタイミングっていう理由は、先生のへん・・・じゃなくて、すごく複雑なのにわかりやすい家族理論が展開しそうだったから。あれが始まると、皆びっくり。この人大丈夫?みたいな。

 携帯を開いた先生は一瞬「うわっ」て顔をすると、僕に部屋から出るように指示した。

 「・・・もしもし」

 部屋から出たけど、何となく気になったから盗み聞き。でも、先生の声しか聞こえない。

 「急に消えてはいないさ。ちゃんとペンドラゴン・・・。あー、なるほど」

 文脈がない。たぶん、相手の人がベラベラ喋ってるんだ。

 「私がどこにいるかって?もちろん、息子の・・・っ!?」

 あ、怒鳴られたみたい。

 「お、お願いだから電話越しに怒鳴らないでくれないか?このままだと、私の右の鼓膜が尋常じゃなく破ける。耳鼻科と整形外科に行くのは、もう経済的に無理なんだ。だから・・・」

 うーん・・・。こんなに慌てた先生は久し振りに見るかも。最後に見たのは、ペンドラゴンさんに僕を持っていかれた時だと思う。

 先生観察をじっと続行してる僕は、いつの間にかヒルリエまで一緒になって観察してたのにやっと気付いた。

 「ヒルリエ。しーっ、だよ」

 僕達が見ている前で、先生は気を取り直すように眼鏡を直す。癖なんだ。

 「・・・とにかく、君が言いたいのは、用事が終わったならさっさと帰れという事だろう?仕事はもう全て片付けたはずだが・・・。何だって?また増えた、だと?」

 先生、頑張って。

 「わかったわかった。帰るとしよう。それじゃあ」

 電話を切ったのを見て、僕は部屋に戻った。

 「何だったの?」

 「どうも誰かの嫌がらせで、片付けたはずの仕事が復活したらしい。故に私は帰らないといけないんだ」

 先生は深いため息をつくと、椅子から立ち上がった。

 「ごめんね。じゃあ、今度の長期休暇の時によろしく頼むよ」

 「うん。大丈夫」

 僕は先生を見送って、自分がフワフワした気分になっていたのに気付いた。これを何て言うのか、あとでヒルリエに聞いてみよう。


 

 次の日。ホームルーム前の教室で、変な挨拶をしながら友哉が入ってきた。

 「おーい。生きてるかぁ?つか、死んでる?」

 そして、いきなり本を取り上げられてしまった。

 「あ」

 「反応してるっつー事は、生きてんだな」

 慌てて友哉から本を取り返した僕は、違うページになっていないかどうか確認する。よかった、平気。

 「何?嫌がらせ?」

 「ちげーって。お前、今無表情を通り越した無表情だったぞ?」

 そう言って友哉は自分の席に座る。なんか、すごく失礼な事を言われた気がする。

 「そいや、お前。先生と会ってどうだったんだ?」

 興味津々に聞いてくる友哉。先生の事聞いてどうするんだろう?

 「相変わらずだったよ。僕の事を息子って呼んだり、勝手にドアを開けて部屋に侵入してたり」

 「ちょっと待て。先生って、マジメな呼び方だったのか?親とかじゃなく?」

 「そうだよ。だって僕、両親なんていないし」

 いる事にはいると思う。だけど、そんな人達にあった事はないし、会いたくない。他の人のならあるけど。

 僕の答えを聞いた友哉が、途端に「しまった」という顔になった。

 「わ、わりぃ・・・。変な事、聞いたな」

 変な事?僕にとっては普通なのに?

 「別に大丈夫。いないモノはいないんだし、全然必要ないから」

 友哉がはっとした表情になるより先に、僕は本の世界に入っていった。

元は出来ているのに、一ヶ月以上掛かってすみません。

あの“先生”、実は元がいます。・・・本ですが。よかったら探してみてください。

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