表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

僕の理由

番外です。

過去の話なので、割とどのタイミングで読んでも平気かと。

(本編で出てきてすらいないキャラクターがいます)

僕が数字から死神になった日


 今日は一ヶ月に何十回とある訓練の日。先生は僕の近くで立ってて、僕はヒルリエを使って目標を倒してるところだった。

 防音の耳当てをして、動いたり消えたりする的を撃つ。あんまりモタモタしてると、先生が撃っちゃって的がなくなっちゃう。

 「よしっ。これで終わりだ。お疲れ様」

 先生が構えてた銃を下ろしたのを見て、僕は銃を元に戻した。耳当てを外す。

 「先生、どうしたらそんなに速く撃てるんですか?」

 僕の質問に、先生は微笑んだ。

 「慣れだよ。君は筋がいいから、その内できるようになる」

 ・・・僕、頑張る。

 部屋を出た先生に続いて、僕も部屋を出る。出た先には、タオルを持ったクレオさんがいた。

 「早いです。予定が狂うのでやめて下さい」

 壁に掛かってる時計を見た先生は、肩を竦めて近くの椅子に座った。

 どうしたらいいのかわからなくてヒルリエと睨めっこしてたら、頭の上に何かもさもさする物を載せられた。

 「十三番、汗を拭かないと風邪引くわ」

 クレオさんだ。

 「はい」

 タオルで顔とかヒルリエとか拭いて、僕は近くのテーブルに使い終わったタオルを置いた。

 「そういえば、クレオ。予定、と言っていたが、今日は何もないんじゃなかったかな?違うかい?」

 「あります。今日は午後から会議です。大アルカナを決める会議だ、とはしゃいでいたのはどこの誰でしょうね」

 クレオさんの答えに、先生は顔を引きつらせる。全く忘れてたみたい。

 「ちなみに、あと二分でここを出ないと遅れますがどうしますか?」

 時計を見ると、二時十八分。ちょうど。

 「さすがにこの会議に遅れるのはまずい。レピ・・・あぁ、帰省中か。クレオ、車を」

 のんびりと立ち上がった先生。きっと疲れてるんだ。僕の訓練のせいで。

 「行こうか、十三番」

 「はい」


 「遅い!!」

 「いやぁ、すまないね。息子と一緒にいると、時間が経つのが早い」

 結局、先生は間に合わなかった。それは道が混んでいたせいで、クレオさんや先生のせいじゃないんだ。ついでに言うと、ヒルリエのせいもちょっとあったり。

 先生を怒鳴り付けている人は、赤いツンツン頭を僕の方に向けて片眉を吊り上げた。

 「で?こいつがお前の推薦する奴?まだ子供じゃねぇかよ」

 口は悪いけど人は悪くなさそうなその人は、僕を見て、それからヒルリエを見た。

 「ほぉ・・・?お前、コードは?」

 僕はちょっと考えて、本当の事を言った。

 「ありません。十三番と呼ばれています」

 それにあの人は驚いて、先生を振り返る。

 「私としては、そろそろ名前をあげたいんだがね。それで来たんだよ」

 何かを納得したあの人は、もう一度僕を見てから腕を組んだ。

 「数字(ナンバー)か。ま、実力はありそうだしな。頑張れよ」

 「うっ」

 急に頭を撫でられて、それで反応した身体を抑えるのに大変だった。それで声が出たんだ。

 そんな僕を見ていた先生はあの人の手を僕の頭から退けると、怪訝そうな表情をしてるあの人に笑ってみせた。

 「それより、早くしないといけないんじゃなかったかな?ペンドラゴン」

 この人、ペンドラゴンっていう名前なんだ。

 「あ、あぁ」

 目の前にある大きな扉の向こうには、沢山の人が立ったり座ったりしてた。その中の一人――背の高い女の人が、先生に声をかける。

 「カエサル。また賭けに負けたじゃない。どうしてくれるのよ」

 「あぁ、イシス」

 先生がヨーロッパ式のお辞儀をする。

 「その埋め合わせは、食事でいいかな?」

 ・・・・。

 「いいわね。楽しみにしてるわ」

 「・・・話は終わったかね?」

 部屋の一番奥にいる初老の男の人が、そう先生に質問する。それと同時に、何故か部屋の中がしん、となった。

 「じゃあ、始めようか。皆ちゃんと連れて来たようだしね」

 連れて来たって、誰の事?

 訳がわからなくてぼーっと男の人を眺めてたら、僕に気がついたみたいで手を振ってきた。

 「ゼウスだよ、十三番。この組織の、一応トップさ」

 「・・・そうなんだ」

 組織の事はよくわからない。わかるのは、僕が一番下っていうことだけ。だって数字だから。名前ですら、ないから。

 「ここにいるのは、ちょうど二十二人のはず。名前の希望を聞こうか」

 「希望?そんなの、今まであったかの?」

 いつの間にか僕の隣にいた白髪の人が、首を傾げてる。

 「どうかしたのですか?」

 「ん?わしの知ってる限りで、大アルカナというのは|名前そのものに意味がある《・・・・・・・・・・・・》と言われてるんじゃよ。それを適当に、本人の希望で決めて・・・」

 「何か、意図がある気がします」

 「そうじゃのぉ」

 顎に手を添えて考えてる。

 「・・・ところで、わしはおぬしに会った事があったか?」

 「いえ、全く」

 目立つ格好をしてるけど、本部内では見た事がない。と思う。

 何人かの人が手を上げたり話してる中で、僕も先生も、更に隣の人も何もしない。

 「ゼウス、こんな決め方でいいのか?最初からこうだとわかっていたら、俺もカーリーも他の奴らだって来なかった」

 「そうだな。ロキの言う通り、お前の独断で決めるなら、私達はいらない」

 右の壁に寄り掛かってる男の人と女の人が口を開く。

 「まぁまぁ、なんかあるんとちゃう?黙って見てようや、なぁ?」

 位的には先生と同じぐらいの人達が、ゼウスさんを挟んで議論し始める。

 「・・・あれ?」

 二十二人いると思ったんだけど、そういう訳でもないみたい。

 「そうか!おぬしは十三番か。すっかり忘れとった」

 いきなりそんな事を言ってきて、僕は首を傾げた。

 「そっちの二人は、どうなのかな?」

 ゼウスさんが僕と白髪の人を見て微笑む。

 「わしは何でもいいぞ。自分の事は、ようわからん」

 「・・・・」

 首に巻き付いて寝てるヒルリエに触れて、僕は何も言わなかった。わからなかった。

 しん、となった部屋の中、ほとんどの人が僕を見ていることに気が付く。それが漠然とした何かを僕の中に生み出して、思わず近くに立っていた先生の手を掴んだ。

 「カエサル、その子は?」

 「私の息子さ。ヒルリエのパートナー、と言ったらわかるかな?」

 先生の大きな手が僕の頭を撫でる。

 「名無しの子ね。ハデスの一件後、何の情報もないと思ってたら・・・」

 「そいつは秘匿事項だろう?」

 「そんなのがアルカナになれると思ってるのかよ。まだ子供なのに、何か勘違いしてないか?」

 周りの人が、ヒルリエがいるってわかった途端に喋り始める。

 「あ、ヒルリエ」

 むくっと頭をもたげたヒルリエが、するすると床に下りる。そして、女の人になった。

 「黙って聞いていれば・・・」

 怒ってるらしいヒルリエは、部屋を見渡すとふん、と鼻を鳴らした。

 「また、この人達ですか。たかだか人の分際で何をごちゃごちゃと」

 ヒルリエは(よく覚えてないらしいんだけど)人が嫌いなんだって。嫌いな物って、一生変わらないのかな?

 呆気に取られてる周りの人の一人が、「あっ」と声を漏らした。

 「たまにいる・・・名簿に名前がない人・・・」

 少しお辞儀をしたヒルリエ。

 「ヒルリエと申します。どうぞ、お見知りおき下さい」

 知ってる人だったんだ。よかった。

 「ヒルリエ、珍しいじゃないか。どういう風の吹き回しだい?」

 先生が、少し笑った風に言う。

 「あまりに怯えていたので、つい」

 笑ったヒルリエは、ゼウスさんを見据える。それを見て、先生は肩を竦めた。

 「・・・私のせいかね?」

 「この子が答えられない問いをしないで。あなた、少し特殊な目を持ってるそうじゃない。見ればわかるでしょう?」

 何が言いたいんだろう?

 「そう、確かにわかる。だけどそれだけじゃあ、面白くない。・・・ならヒルリエ。あえて貴女に問おう。その子は何だ?」

 僕を見たヒルリエ。そして、近づくと僕を抱き締めた。

 「決まってるわ。・・・“死神”」

 この発言には先生も慌てた。

 「それは不味いんじゃないかな?」

 「どうして?ぴったりよ、ね?」

 ヒルリエの質問に、僕は首を傾げる。意味がよくわかんなかったし、どうでもよかった。そもそも名前が必要かどうかも怪しい。理解できない。

 「何しろ、タロットの十三番には決まった名前がないの。いいじゃない」

 横暴かもしれないヒルリエの言動に、周りが黙った。

 明らかに僕のせいなこの状況。

 「・・・えっと」

 僕は、ゆっくり真っ直ぐ右手を上げる。

 「発言しても、よろしいでしょうか?」

 誰からの返事もないけど、とりあえず喋ってみる。

 「僕、帰って寝たいです」

 ・・・更にしん、となってしまった。

 「・・・っ、くくっ」

 先生だけは笑ってたけど。

 「そうだね。帰ろうか、十三番。私も、久し振りに本気を出したら疲れてしまったよ」

 そういえば、訓練の時全部真ん中に命中してた。・・・やっぱり、すごい。

 「そう」

 ヒルリエは蛇に戻ってしまった。

 


 あれからどうなったのかわからないけど、僕はいつも通りな生活を送っていた。つまり、訓練八割の実戦二割。実戦といっても、ただ人を殺してあげればいいだけのことなんだけど。

 「こっちは終わりました。帰還します」

 『了解』

 耳に付いてる無線機を切ると、僕は後ろを振り返る。そこには真っ二つのなり損ない人間が沢山倒れてる。皆、僕が楽にしてあげた人達。

 血塗れの大鎌(ヒルリエ)をどうすることも出来なくて、とりあえず担いで歩く。だって血を払うには少し狭すぎるんだもん。

 僕は、今とある外国の廃墟ビルにいる。ここに沢山の人が集まってるから、何をしているのか探って来いっていうのが始めの命令だったんだけど、気が付いたら掃討命令が下されてた。

 柄を抱えながら階段を下りていると、途中で普通の人に会った。しかも日本人。

 「あれ?こんな所に子供?」

 無視して通り過ぎようとしたら、動く気配がした。

 「うおっ」

 「・・・次、動いたら殺します」

 伸びた腕を引っ張って、蹴りを鳩尾へ。大きく咳き込みながらしゃがみ込んだ相手を見て、僕はまた階段を降り始めた。

 「ま、待ってくれ」

 無視。

 やっとビルの外に出れて、ヒルリエを蛇に戻してあげる。だけど、巻き付くのは遠慮してもらった。血塗れは危険だから。

 不満そうなヒルリエは、蛇じゃなくて猫になる。巻き付けなかったのが嫌だったみたい。

 僕とヒルリエはゆっくりと寂れた街中を歩く。ここから支部は歩いて三十分ぐらいなんだ。

 ここら辺はものすごく治安が悪いから、僕達みたいなのが普通。表通りはまだいいけど、一本裏に入ったら血生臭くて・・・そんな感じ。正直、こんなのはどこでも一緒なんだけど、たまたまここだけ死体が転がってる。ただそれだけ。

 夕方になってきたこの町では、露出の多い服のお姉さんとか、変な物を売ってるお兄さんとか、明らかな敵意を向けてくるおじさんが少しずつ出てくる。でも、僕の方には来ない。僕が勢い余って殺しちゃった人達の話を、知ってるからかもしれない。

 「ただいま帰還しました」

 この町ではよく見かけるボロボロなビルの中、そこに支部はある。

 「ん?お前・・・ワールドは?」

 「えっ?誰ですか?」

 思い当たる人が一人もいない。これはどういう事だろう?

 支部長のシンさんは、僕の反応に苦笑いを浮かべる。

 「あー、酷い目にあった」

 某ワールドさんのことを聞こうとしたら、別の人が支部長の部屋に入ってきた。

 「あ」

 あれ?さっきの普通の人だ。

 「うわっ、さっきの子供!?何でこんな場所に・・・」

 「ワールド・・・。そりゃあ。十三番もわからないな」

 「この人がワールドさんなのですか?」

 ワールド。大アルカナ序列二十一番。その位しか知らない。

 猫型ヒルリエは、素早く尻尾を振ると鼻を鳴らした。

 「シン、俺なんか悪いことしたか?別になんもしてないよな?」

 たぶん、僕の攻撃について言ってるんだろうけど、どうでもいいや。

 「うるさい、黙れ。・・・まぁ、こいつがワールドだ、十三番。お前、カエサルの推薦でアルカナ志願してただろう?」

 僕はワールドさんを見て、それからまた目線をシンさんに戻す。

 「でも、名前はもらえてません」

 「それを決めに来たんだよ、こいつは」

 もう一度ワールドさんを見る。

 「いやー、まー、その、ね?」

 よくわからない。

 「俺ってば、ゼウスのおじさんから十三番を視てくるように言われたんだ。もうほとんどのアルカナは席が埋まってて、残りは三つ。『正義』『節制』『塔』・・・いや、あと『死神』か」

 三つじゃない。

 「そうですか」

 「そうですかって、お前素っ気無さすぎ!」

 「別にどうでもいいので」

 僕の一言に二人が固まる。しばらく経った後、シンさんがため息をついた。

 「・・・俺、これから旅に出てもいい?」

 何故か泣きそうなワールドさん。僕、悪い事した?

 「ヒルリエに『死神』がぴったりって言われたのですけど、実際どうなのですか?僕としてはそんな大仰なのはやめて欲しかったりします」

 誰も聞いてなかった。

 「と、とりあえず、ワールド。明日、こいつに仕事をやるからその時に決めてしまえ」

 「はーい・・・」

 僕の言葉は届かない。どうしてだろう?それだけ僕の存在が薄いのかな?


 昨日話していた通り、今日も僕は実戦だった。しかも人数増えてる。

 「ここからかなり遠くでやる。だからワールドに送ってもらえ」

 シンさんはそう言うと、ちょっと間を空けてからこう付け足した。

 「・・・あいつの運転は荒いが、我慢してくれ」

 僕は首を傾げるだけにとどめて置いた。あんまりいい予感がしなかったから。

 「ん、来たか」

 「よろしくお願いします」

 オープンカー。

 「あれ?それ、この前の猫?」

 腕に巻き付いてるヒルリエを指差して、ワールドさんが言う。

 「そうです」

 助手席と運転席しかない。

 「おじさんの言っていたアレがソレね。うんうん」

 とりあえず、助手席に座った僕。運転の仕方なんて習ってない。

 なんだか楽しそうなワールドさんは、車に乗るとエンジンを点けた。

 「十三番、しっかり掴まんないと落ちるからな?」

 「えっ」

 タイヤが空回りする音が聞こえたと思ったら、すごい勢いで車が走り出した。

 「・・・!」

 それから、ちょっとよく覚えてないんだけど、僕は何度か死に掛けた記憶がある。対向車にぶつかりそうになったとか、ドリフトしすぎとか。・・・意外と覚えてた。とにかく、目的地に着いた時、僕は手摺りから離れられなくてしばらく固まってた。

 「あらら・・・やりすぎちゃった?」

 ヒルリエがワールドさんに威嚇してる。

 「・・・だ、大丈夫だと思います」

 無理矢理ドアを開けて降りると、今度は足を引っ掛けて転んだ。

 「いたっ」

 あれ?立てない?

 「怖かったんだ、お前・・・」

 しばらく経って、ようやく立てるようになった。何となく腰が痛い。

 「十三番は、今日の概要聞いてる?」

 目的地といっても、少し離れた場所に車を止めたみたいで、僕とワールドさんは歩いて向かうことにした。

 「はい。概要といっても、大体が同じなので」

 「同じ?なんで」

 ワールドさんは、僕の事何も調べないで来たんだ。

 「僕の仕事は、殺してあげる事です。それだけの為に、僕はここにいます」

 顔を引き攣らせるワールドさん。もしかしたら、昨日の僕を思い出したのかもしれない。

 「か、カエサルは何を教えたんだ・・・?」

 「技術全般です」

 「いや、そうじゃなくて」

 そんな話をしている内に、目的地である建物が見えた。

 「僕は仕事に行きますが、ワールドさんはどうしますか?」

 ヒルリエを銃に変えた僕は、一応聞いてみる。たぶん、ワールドさんには戦闘技術はない。

 「あー、とりあえず付いていくよ。邪魔にならないとこで観るからへーきへーき」

 「そうですか」

 じゃあ、頑張ってね。

 遠くから建物の様子を伺ってみると、どうやら言われた人数しかいないみたいだった。つまり、殲滅。間違ってワールドさんを倒しちゃいそう。

 「僕、先に入ってます」

 ここは銃所持OKな国。周りは住宅とかが密集してる。あんまり騒がない方がいいかも。

 ヒルリエにサプレッサーも作ってもらうと、僕は見張りの薄い場所から中へ。見せてもらった見取り図を思い出しながら、物陰に隠れる。たしか、この建物は三階建てのアパートと似た構造だったはず。丸ごと一棟占拠してるんだ。

 僕がいるのはそんな建物の一階、寝室になるはずの場所。人はいない。

 扉を開けて廊下に出た僕。

 「・・・はぁ」

 どうやら、一階は物置みたい。だから人もいないんだ。

 ワールドさんはどうしたのかな?って思って、近くの窓から外を見る。まだ遠くにいた。どうしよう?

 「・・・いいや」

 先に終わらせよう。

 階段を見付けた僕は、一気に駆け上がると通りかかった人を撃った。

 「えっ」

 状況を把握できてないもう一人を撃って、あと九人。

 バタバタ騒がしくなった建物の中で、階段の方に出てきた人を順繰りに殺してあげる。全員倒れたと思ったら、やっぱり十一人だった。あ、もちろん外にいた人も含めてだけど。

 「は、嘘、早っ!?」

 「何か用ですか?」

 「用っておまっ・・・さっきまで一緒だった気がするんだけど?」

 やっと来たワールドさんが、顔をしかめながら階段を上ってくる。

 「こりゃ、ひでー・・・」

 胸の前で何かをして、指を組むワールドさん。その意味がわからなくて、僕は首を傾げた。

 「早く帰らないと」

 血に濡れなかったヒルリエを蛇に戻した僕は、ワールドさんの服の裾を引っ張って起こしてあげた。だって、目を閉じてたから。

 「・・・あ、あぁ」

 目を覚ましたワールドさん。

 「警察来る前に、逃げないといけないな」

 建物から出た後も、ワールドさんの様子がおかしい。何かを考えてるみたいだったし、僕の事をよく思ってないみたいだった。何が悪いのか、僕にはわからないけど。

 車の所まで戻った僕とワールドさん。

 「あの、今度はもうちょっと・・・」

 「お前、何も思ってないのか?」

 「えっ?」

 急にそんな事を言われた。

 真顔のワールドさんは、僕に向き直るともう一度言った。

 「何も、思ってないのか?」

 「何をですか?」

 思う事は何もないはずなんだけど。

 「あれだけ殺しておいて、何も思わないのか?」

 その質問に、僕は首を傾げながら答える。

 「何故ですか?僕は、人間はいつか死ぬ生き物だって聞いたのですけど」

 「は?」

 「僕はそのいつかを今に変えただけです。死ぬ時期なんて、どうでもいいと思うのです。未来の行き着く先が死なら、どう死んだって同じでしょう?」

 その程度の事を、どうしてそこまで引っ繰り返すんだろう?何か意味でもあるのかな?

 「それとも、ワールドさんは死なないと思ってるのですか?」

 複雑な顔をして黙り込むワールドさん。

 何故か得意げな顔をしてるヒルリエを撫でて、僕は車に乗った。

 帰りは普通の速度だったけど、たぶんそれはワールドさんが運転に集中してないからで、僕の為じゃない。

 支部に戻った時も、ワールドさんは僕の方を見さえしなかった。でも、とりあえずシンさんに報告しに行かないといけないから、何も言わないでワールドさんから離れた。

 いつも通りの報告をして、僕は自分に宛がわれた部屋に戻る。

 「ねぇ、ヒルリエ。僕、何か間違った事を言ったのかな?」

 ベッドに腰掛けた僕は、ヒルリエに話しかける。

 「時々黒い服の人達が死体の周りで泣いてるのを見るけど、ワールドさんもその手の人なんだろうね。泣いたって何も変わらないし、意味なんて全くないのに」

 ヒルリエが頭で僕のほっぺをぐりぐりする。

 「でも、ヒルリエは僕が生きてる限り死なないもんね」

 周りが皆死んでも、ヒルリエだけは生きてる。

 「・・・んー、痛いよ」

 何となく疲れを感じるようになった僕。そのままベッドに横になると目を閉じた。



 本部に戻った僕が最初に会ったのは、やっぱり先生だった。

 「おかえり」

 「ただいま戻りました」

 先生は相変わらず。

 着替えとかが入ったバッグを部屋に置いた僕は、すぐに先生の部屋へ。途中で色んな人とすれ違った。

 「先生、何ですか?」

 デスクに向かってる先生は、ずっとペンを走らせてる。

 「あー、えっと・・・ちょっと待ちたまえ。私はそこまで器用じゃない」

 という訳で、待つこと十分。

 「さてと」

 ペンを置いた先生が、指を組む。

 「ワールドがものすごい泣き言を言ってきたよ。何を言ったんだい?」

 あ、あれの事だ。

 「僕の持論を話したんだ。それだけです」

 当たり前のことなのに、先生とヒルリエ以外誰も理解してくれない。それどころか憤慨される。

 うんうん、と頷きながら含み笑いしてる先生。

 「それは、泣き言の一つも言うだろうね。彼は無神論者ではなく有神論者な上に、人殺しなんてした事がないんだろう。アルカナには、そういう人も入れるからね」

 アルカナ・・・。

 「そもそも、大アルカナって何の集まりなの?」

 「ん?説明してなかったかな?ある能力に特化した人間の集まりだよ。今回は少々間違ったメンバーもいるようだが」

 僕が首を傾げると、先生は肩を竦めた。

 「テンパ・・・いや、モデレートは明らかに節制しない。プリースティスは知恵遅れの彼女。更に、ハングは女性と来た」

 ・・・あ、吊るされた男。十二番の。確かに変かも。

 「他も、何となくおかしいね。二十二人しかいないはずなのに、挙げたら切りがない。まぁ、ゼウスのやる事だ。何かしっかりした理由があってやっているんだろうが」

 タロットの事は、本部にある図書室の本で何となく知ってる。でもそれは何となくであって、ぱっとカードを見せられても説明できないと思う。つまり、僕のタロットに関しての知識はその程度だった。

 ため息をついた先生は、指を組むのをやめると原稿が積んである机から一枚の紙を取り出した。

 「うん、まぁ、とりあえず愚痴は止しておこう」

 聞くこっちの身にもなって欲しいと思った。

 はい、と先生が手に持った紙を僕に差し出してくる。僕は紙を受け取ると、書いてある事を読んでみた。

 「これ、本当ですか?」

 「そうだよ」

 あー。

 「名前、ですか」

 「そうなるね」

 うん。

 「持論で墓穴掘りました」

 「・・・ふふっ」

 口元を手で隠してるけど、声で笑ってるのがわかる。

 僕はもう一度内容を確認して、何かが遠くなるような気分になった。

 「おめでとう、デス」

 大アルカナ序列十三番、『死神』ことデス。Got of deathの略みたい。

 他の項目を見てみたけど、元のコードネームがわからないから意味がなかった。この前会った、あの白髪の人はどうなったんだろう?

 「死神は私の代にも、その前にもいなかったから、これは異例な事だよ」

 「僕で、本当にいいの?」

 紙を先生に返した僕は、いつもいるヒルリエに触れようとして、ヒルリエがいない事に気が付いた。また本部内を散歩してるのかもしれない。

 「今なら辞退できるよ」

 先生のその言葉に、僕は首を横に振った。せっかくもらった名前を、無駄にしたくない。

 「君には殺しの仕事しかこないだろうが、それでもいいかい?」

 「はい。やります」

 それ以外の答えは、僕の中にはなかった。

 「よし、わかった。なら私からゼウスに伝えておこうか」

 「お願いします」

 これは、僕が十四歳ぐらいの出来事だった。



 名前をもらって一年後。先生は、僕が名前をもらった直後に外国へ行ってしまった。だからずっとヒルリエと二人きりで、レベルの上がった仕事をずっとやってた。

 「デス、じぃが呼んでる」

 そんなある日の事、別のアルカナであるムーンさんが急に僕を部屋から連れ出した。

 「どうしてですか?」

 「知るか」

 素っ気無いのはいつもの事。

 廊下を歩いていると、他のアルカナの人にも会った。ソルさんだ。

 「にぃ、どたの?」

 兄弟の話には首を突っ込まない事にして、僕は寝てるヒルリエの頭を撫でる。そんな時に、気配を感じて僕は無意識の内に相手を攻撃した。

 「・・・すみません」

 乾いた笑いを漏らすソルさん。

 「し、死ぬかと思った・・・」

 目を突こうとしてたみたいで、とりあえず手を引っ込めるとソルさんから離れた。

 「お前が余計な事をするからだ」

 どんどん歩いていってしまうムーンさん。

 「にぃ!そりゃないって」

 「連れてきました」

 完全無視だ。

 僕を先に入れたムーンさんが、思い切りソルさんを締め出した。

 「相変わらず、仲がいい兄弟だ」

 酷く嗄れた声が聞こえて、僕はびっくりした。この前の集まりに、こんな声の人はいなかったはず。

 「初めまして、デス。私が君を呼んだアイネイアスだ」

 えっ・・・?

 ゼウスさんよりも高齢の男の人。どうして?なんで僕を呼んだの?

 ヒルリエがアイネイアスさんに対して無言の威嚇をする。

 「何もしないから安心して欲しい。頼み事があっただけだ」

 「頼み事、ですか」

 車椅子に座ってるアイネイアスさんは、僕を見ると少しだけ笑った。

 「ソルでは出来そうになくて、デスならと思ってな。しばらく外で生活してくれないか?」

 ・・・はい?

 「カエサルから、まだ許可は取っていないがどうかね?」

 僕はしばらくあちこちを見てたけど、最後に小さく息をついた。

 「命令なら従います」

 外なんて、実戦と訓練以外で出たことないのに。

 「ありがとう。ところで、デスは何歳だ?」

 「十・・・五か六だと思います」

 「そうか」

 あ、嫌な予感がする。

 考え込んでるアイネイアスさん。口を開こうとした時、僕の後ろにあるドアが開いた。

 「失礼しま・・・あ」

 なんか外国人みたいに鼻が高い人が来たと思ったら、ホークスだった。

 「どうしたんだ、デス。こんな所で」

 「それはこっちの台詞。アイネイアスさんに用があるの?」

 大アルカナになった後の仕事で一緒になってからの付き合いで、なんだか知らないけどよく本部内で会って、何となく仲良くなった。そういう感じ。別に悪い人じゃない。ヒルリエは嫌いだけど。

 「・・・ホークス」

 苦笑いしてるアイネイアスさんは、車椅子を操作してホークスの方へ。

 「割り出せたのか?」

 「あ、まぁ・・・。大体の位置は」

 ホークスから地図のような紙を受け取ったアイネイアスさんは、しばらくそれを眺めた後僕に渡してきた。

 「ここの辺りでどうかな?」

 「えっと、隣の県ですか?別に、いいですけど・・・」

 地図を見てもよくわからない。

 「は?まさか、デスにやらせるつもりなのか?いくらなんでも不味いだろうが」

 険を含んだ声でホークスが言う。

 「大丈夫だ。有事の際は、君が何とかしろ」

 「あぁ・・・そういう・・・はい!?」

 うるさい。

 「ちょ、待て。今なんつった?俺がこいつのお守り?マジで?こっちどうするんだよ」

 「ロキがいるだろう」

 「ロキだけにやらせるのか?どこに綻びが出来ても知らねぇぞ」

 二人のやり取りを眺めてるだけの僕。

 「その時はその時だ」

 渋い顔のホークスがしばらくアイネイアスさんを睨んでいたけど、何かに負けたみたいで目を逸らすと深くため息をついた。

 「わかりました。俺、まだ仕事あるんで失礼します」

 ホークスは出て行った。

 「監視ですか?」

 「そうともいう」

 僕が持ったままだった地図を、アイネイアスさんはそっと取るとまた眺めた。

 「詳細はまた今度追って連絡する。よろしく頼む」

 「はい」

 僕は、失礼しました。と言ってこの部屋を出ていった。



 「って言う事があったわけで・・・」

 学校の夏休み。宿題を片付けてる途中で昔のことを思い出してしまった。

 「はぁ・・・集中できてない」

 「大丈夫ですか?」

 「全然ダメかも」

 国語嫌い。大嫌い。

 だって、やらなくてもいいらしい漢字の練習とか、一学期にやった随筆の感想文とか、なにこれ。しかも、冊子の問題集配られてやれって言われた。意味わかんない。本は好きだけど、これは嫌だ。

 「国語は慣れだからって言うのは知ってるけど、僕は別に必要ないし。やったって意味ないし」

 じゃなきゃ百点取らないし。

 机に顎の乗せてうだうだしてると、僕の目の前でコトン、という音がした。

 「休憩したらどうですか?」

 目だけ動かして見てみると、高そうなチョコケーキがあった。

 「えっ?どうしたの、これ」

 上体を起こしてヒルリエを見ると、にこってされた。

 「あなたの代わりに買い物に行ったら、帰っている途中にケーキ屋があったので」

 「いつの話?」

 「ついさっきです」

 あれ?・・・まぁ、いいや。ありがたく頂戴しちゃおっと。

本編の繫ぎとして投稿しました(笑)

ひたすらぐだぐだですみません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ