表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

死神の不幸

<第十二章>

 文化祭休みで月曜日もお休み。

 僕はパエリアをお昼に作ってヒルリエと食べる。またくてんくてんになっちゃう気がしたけど、ヒルリエはけろっとしてた。

 「ごちそうさま」

 お皿を洗っていると、電話が鳴った。

 「――もしもし」

 『仕事だ。少し遠いから、今から連絡しておく』

 びっくりした。昼からやるのかと思った。

 『対象は三人。他組織の幹部だ。心して掛かるよう』

 切れた。

 「ヒルリエ。仕事だって」

 他の組織の人か。初めて、仕事で会うかもしれない。

 普通の服から仕事用のに着替えた僕は、ふとペンドラゴンさんにもらったチョーカーが目に入った。

 「おい、デス」

 ホークスが不法侵入してくる。

 「今、行く」

 やっぱり、二重に鍵を掛けた方がいいかもしれない。・・・先生は開けて入ってくるけど。

 玄関のところに立ってるホークスは、なんか変な黒い板を操作してた。

 「・・・いない、か」

 「どうしたの?」

 「いや、何でもない」

 板を二つ折りにしたホークス。

 「行くぞ」

 「うん」

 いつも通りの流れ。車に乗って、僕は仕事をしてまた帰る。たぶん、今回も一緒なんだ。

 そんな事を考えながら車の外を見てると、ホークスが話し掛けてきた。

 「その首輪、どうした?」

 「首輪じゃないよ。・・・ペンドラゴンさんがくれたんだ」

 ホークスの方を見ないで答える。

 「・・・何かあったか?」

 「別に」

 「そう、か。なんか怖いぞ?」

 まだ明るい外は、夜とは違って賑わってる。まだ三時過ぎだから、普通なら学校がある時間帯。当たり前だよね。

 「ちょっと、何となく、イライラする」

 何故だかは、わからなかった。

 

 夕方の六時半。町の郊外に、僕の標的はいた。

 「ここなら、何をやっても平気そうだ。周りの護衛を殺してもいいらしい」

 「そっか。援護、お願い」

 護衛もって事は、一対多数。本当は、アルカナがもう二人いるのが一番安心するけど、今回は仕方ないんだ。

 二階建ての大きな家の裏に回って、カーテンの閉まってない窓を探す。

 「あった」

 傍に誰もいないのを確認して、中へ進入。するとそこは、小さな応接間だった。

 ヒルリエを銃に変えた僕は、気配を辿って応接間を出た。

 「誰だ!?」

 あ、見つかっちゃった。

 銃声で他の人が集まらないように、相手の撃鉄を押さえてあごを思い切り蹴る。ついでに、銃は奪っておいた。安全装置を掛けておこう。

 しばらくその場にとどまってみる。だけど、誰も来ないし、首を捻挫した人は全く動かなかった。たぶん、一階にはあまり人がいないんだと思う。

 二階へ上がれる階段を探して、広い廊下を歩く。

 「だから――」

 人の話し声だ。

 「だから、言ってるだろう?どうして俺達が必要なのか。絶対必要ないって、さっきから・・・」

 音の大きさから、あんまり遠くはないみたい。

 廊下の突き当たりでその先を窺う。そこには話してる人達がいて、しかも階段もあった。・・・一番嫌いなパターン。銃が使えればいいのに。

 「じゃあ、どうするんだよ。逃げるのか?それこそアウトだろう」

 「・・・ったく。俺、ちょっとあいつの方見てくる」

 足音が近付いてくる。銃を鎌に変えた。

 曲がってきた一人を喋れないようにして、奥にいる人も同じようにする。

 「ふぅ・・・」

 鎌に付いた血を払って、二階へ行く。明るいフロアには、機関銃や散弾銃を持った人達が五人ぐらいいた。ある扉の前に二人、その周りに三人。

 さっき奪った銃の安全装置を外して、暴発するように細工をしてからその人達の前に投げる。あ、この銃はマシンピストルだったから、フルオートにしておいた。

 壁とかがコンクリートじゃないから跳弾はしないけど、相手の人達を翻弄するのには十分だった。

 鎌を振り回して一気に始末すると、投げた銃を拾う。弾は空っぽ。弾倉ももらっておけばよかった。

 たぶん、護身用に持ってきていたナイフを動かない人から借りて、扉を開ける。

 「えっ・・・?」

 「外が騒がしいと思ったら、別の奴か。さっさと帰れ。ここは貴様のフィールドじゃない」

 ナイフの付いた銃を持った人が、真っ赤な部屋の真ん中に立っていた。

 「誰?」

 (ヒルリエ)を構えた僕を見た相手は、驚いたような顔をした。

 「それが得物か?まさか」

 驚いたんじゃなくて、呆れてるみたい。

 「いや・・・待てよ?お前、どこかで・・・」

 かと思ったら、急に考え始める。何となく、回れ右して帰った方がよさそうな気がしてきた。

 僕は考えを実行して入ってきた扉から出ると、相手の人もついてきた。

 「おい。何故、行く?」

 「帰れって言われたから」

 うーん・・・ヒルリエどうしよう?元に戻したいけど、この人ついてくるし。

 鎌が引っ掛からないような出口を探してみたら、玄関の扉を見つけた。これなら、引っ掛からないで通れる。

 「・・・十三番」

 扉を開けかけた僕に、相手の人はそう呼んできた。

 「そうだ、十三番。あいつが連れてきた子供。じゃあ、それは・・・」

 振り返る前に、僕は横に跳んだ。

 パン、という音から逃げるようにして、相手の人の脇に回る。

 「俺が追放された原因!」

 もう一度。

 床スレスレを鎌が薙いで、だけどあっさり避けられる。次は上から。・・・銃の先にあるナイフで受け止められた。

 刃に引っ掛かったナイフを、思い切り引いて外す。

 「今度は死神気取りか。面白い」

 相手が僕の間合いに入ってくる。これはちょっとした弱点。

 突き出されたナイフを紙一重で避けた僕は、鎌を銃に変えて撃った。これも避けられる。

 僕も相手の人も、最後の一手が決められなくて長期化してくる。攻撃も防御もパターン化する。ゆったりとしたリズムのように。

 「僕の名前、もう十三番じゃない」

 唐突にそう言われて、相手の人が少しだけ動揺する。

 「大アルカナ、序列十三番のデス」

 「忌み名、だと?とうとう奴ら、気がふれたか」

 ナイフを避けて、リズムを保つ。

 「“死”なんていう概念を背負うのは、人として破綻している。俺の代にだって、死神はいなかった」

 信じてはくれないみたい。だけど、信じさせてあげる。

 「・・・残念。そういえば、気付いてる?もう時間がない事を」

 僕は、鎌を大きく持ち上げて構える。そして、振り下ろした。



 あーあ。二度目の仕事失敗。なんかモヤモヤする。

 報告書を書き終えた僕は、壁に掛かってる時計を見上げる。夜中の二時。

 結局、あの人は怪我をしながらも逃げちゃったし、どの組織の人だったのかわからずじまい。きっと、あの人はすごく運がいいんだ。その代わり、僕は不幸。

 初めての報告書で頭を使ったから、すぐに眠くなってくる。ホークスが報告すれば、それで済むのに。

 とりあえず、ありのままを書いた報告書はホークスに渡す事にした。本部の住所、知らないから。

 完全に寝てるヒルリエを布団の上に寝かせてあげると、僕はシャワーを浴びに行く。その時、ある事に気付いた。

 「いつの間に・・・」

 着けてたチョーカーのベルトが裂けてる。ちょうど、頚動脈の辺り。きっと、あの人だ。

 幸い、チョーカーのベルトは丈夫な()でできてたから、直すのは簡単そうだった。たぶん、ペンドラゴンさんはこういうのを見越してたんだと思う。

 手早くシャワーを浴びて、髪の毛を乾かしながら明日の予定を見る。・・・あ、今日の。そこには“学校”とだけ書かれていた。つまり、あと四時間しか寝れない。

 下ごしらえだけでもしようと思って冷蔵庫を開けると、中身がいつもの三分の一しかなかった。・・・今日はいい事がない気がする。

 夜明けまで、あと二時間半ぐらい。

 包丁を持ったまま寝そうになって、危うく指を切り落とすところだった。

 食材を冷蔵庫にしまって布団に横になる。暑いから、そのまま寝る事にした。


 気が付いたら、もう十時だった。

 「・・・えっ?あれ?」

 横を見るとヒルリエはいなくなってて、一応掛けてあった目覚ましも止まってた。

 慌てて布団から跳ね起きると、台所に()が立ってた。

 「あ、おはよう」

 「・・・ヒルリエ」

 (ヒルリエ)はにっこり笑うと、姿を変えて女の人になった。

 「疲れているみたいだったから、学校の方に連絡しておきました。休みます、と」

 「それで、僕だったんだ。ありがとう。大遅刻するかと思った」

 時間的には二時間目。でも、学校に着いたら三時間目。火曜日だから、体育。

 朝ごはんの準備をしようとヒルリエの傍へ行くと、もう出来てた。

 「たまには、やらないと腕が落ちるので」

 焼いたパンとスクランブルエッグとサラダ。あと、牛乳。

 「・・・僕のそのままなのにね」

 僕が言うと、ヒルリエは悪戯っぽくウインクした。

一体、あの人は何だったのか。自分でも決めてないという、すばらしい結果に・・・。

あ、そういえば。銃の知識についてですが、あれは全くの付け焼刃なので本気にしないでください。最近の銃は、滅多に衝撃で暴発はしないそうなので。

ついでにいうと、前回出てきたサイプレッサー(消音器)も、大きい物であれば音がほとんどなくなるそうな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ