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恋愛未遂  作者: 猫じゃらしポン吉
さよならから始まる物語
8/12

02 悩み

 朝起きると頭痛と気持ち悪さが収まらず、柚希は午前中の講義を欠席してしまった。

 午後になり、幾分体調が戻ると大学へと向かったが足取りは重い。

 酷く憂鬱な気分だが、どうしてもやらなければならないことがあった。

 迷惑をかけた人への謝罪を早くしたかった。

 律儀な柚希らしい。

 

 先輩達はよくあることと気にも止めていなかった。

 寧ろ、心配され気遣ってさえもらえた。

 それがどんなに柚希の心を楽にしたか。

 そして、最後に謝罪を後回しにしてしまった遥斗の元へと向かう。


 何故最後にしたか。

 酔っ払っていたとはいえ、醜態を晒したことで恥ずかしさがあった。

 だが、理由はそれだけではない。

 遥斗にどうしても聞いてみたいことがあった。


   ◇   ◇   ◇


「あ、いた。えーと、鳴海君」


 キャンパスを数人の友人と歩く遥斗に柚希は恐る恐る声をかけた。

 立ち止まった遥斗は柚希の元へと近づく。


「昨日は迷惑かけてごめんなさいっ!」


「酒癖悪い人だったんだね」

 

 遥斗は笑みを浮かべながら頭を下げる柚希に言い放つ。

 もちろん、からかい半分の冗談に過ぎない。

 この辺は上辺だけの付き合いを好んだ頃の名残がまだ残ってる。

 柚希の顔色が露骨に変わった。


「嘘、嘘。冗談だよ。午前休んでたみたいだったけど大丈夫だった?」


「……一応」


 そもそも柚希の遥斗への印象はあまり良いものではなかった。

 教室で誰とでも仲良くしてる軽薄そうな感じが少し鼻につく。

 普段の飄々とする態度が、自分とは違い楽しく人生を謳歌してるように映っていた。

 柚希は苦手なタイプだと感じていた。

 それでもどうしても確認しておきたかったことが柚希にはあった。


「あの、ちょっといい……かな?」


「うん。別にいいけど」


 友人達と別れると、遥斗と柚希はキャンパスを当てもなく歩き出す。

 自分から誘ったにも関わらず、一向に何も話さずただ歩き回るだけの柚希を遥斗は訝しむ。


「長瀬さん、そこ座ろっか?」


「え、あ、うん」


 一体どこまで連れてかれるのか。

 痺れを切らした遥斗はベンチに腰掛けようと促した。

 

「……」


「……」


 遥斗は気不味い空気を感じていた。

 腰掛けてもいつまで経っても柚希は押し黙ったまま。

 さっきの遥斗の軽い冗談が柚希を緊張させていた。

 聞きたいことを聞いても素直に答えてくれないかもしれない。

 柚希はそう思っていた。

 

 遥斗は遥斗でからかったことが尾を引いてるのを察する。

 まだ柚希のことをよく知らない遥斗。

 案外気を使う人だったと感じると初動を失敗したことに気づく。

 仕方なく遥斗の方から話し始めた。


「あの、さっきはごめん。冗談だったんだけど。それで俺に何か用事あった?」


「あ、ううん。こっちこそ、ごめんなさい。昨日迷惑かけてしまって。せっかく今も友達といたのに……」


「友達っていうか、クラスメートかな。まだ友達にもなってないよ」


「あ、そうなんだ」


 すぐに会話は止まる。

 柚希の緊張は遥斗にも伝わっていた。

 

 ――面倒臭い。


 そう思ったものの、昨夜の酔っ払った時の様子を目の当たりにしてる遥斗は、邪険に扱うべきではないと感じ取っていた。

 そして、勘付く。

 そのことを話しに来たのではないだろうか、と。


「もしかして昨夜のこと?」


「え?」


「何か色々言ってたよね? 人に言われたことしかしないとか、やりたいことが分かんないとか?」


 渡りに船とは正にこのこと。

 遥斗の方から柚希が聞きたかった話を振ってくれた。


「う、うん。それで探せばいいって言ってくれたよね?」


「そうだっけ? んなこと言ったっけか?」


「言った。言ってくれたの」


 急に前のめりになって話し出した柚希に遥斗は驚く。

 やはり聞きたいのはその件だった。


「あれってどういう意味で言ってくれたのか、知りたくて」


「どういう意味も何も。そのまんまだと思うんだけど……」


「私、あれで何だか気づけたような気がしたんだよ。だから、どうしても理由っていうか真意っていうか、それを聞きたくて……」


 遥斗は答えに困ってしまった。

 その悩みは自分が以前抱えてたものと酷似していて、それを解決してくれたのが他でもない花音だったからだ。

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