2.ハッピーエンドの物語(完結)
歴史の長い国にはわからない苦労がある。外交をすれば侮られ、戦に強いために距離を置かれる。まだ若い国は、周辺国に比べ街道の整備も遅れていた。
開拓中の農地だけで国民を食わせることはできない。外から物が入らなければ、飢えて滅びるしかなかった。状況を打破する方法として、隣国アルドワンに相談を持ちかける。貴国の貴族令嬢を紹介してほしい。すでに王妃のある身だが、幸いにして弟は独身だった。
国を守る戦に明け暮れ婚期を逃した弟だが、顔立ちは整っているし体も鍛えていた。やや歳の離れた夫婦になるだろうが、政略結婚にはよくある条件だ。持ちかけた話に、思わぬ提案が返ってきた。
古きルドワイヤン帝国の直系であり、どの国より歴史深い王族。その王女が嫁いでくれるという。代わりに、自国の国境を脅かすロラン帝国から守ってほしい、と。破格の条件すぎて、何度も確認した。
この時点で、私は勘違いしていた。妙齢の王女という先入観で、カトリーヌ第一王女だと思い込んでいたのだ。まだ十二歳の末姫と知っていたら、同年代の貴族令息を探しただろう。公爵家にちょうど釣り合う年齢の令息がいた。
向かった弟が連れ帰ったのは、アンジェル姫。途中で連絡を受けて、頭を抱えて唸った。王妃にも散々叱られた。彼女自身は恋愛結婚だが、姉が政略結婚している。苦労した姿を知るから、まだ幼いと表現できる姫に重荷を背負わせるのでは? と心配した。
さすがに十五歳の差はひどい。断らずに受けた王女の覚悟に感嘆するも、政略結婚にも限度があった。ほぼ親子ではないか。いくら弟の性格や地位に瑕疵がなくとも、残酷だろう。
フェルナンには誰か探すとして、先にアンジェル王女の相手を探そうとした矢先、とんでもない手紙が届いた。一目惚れしたので、この婚約に感謝している。赤裸々に想いを綴った弟の手紙に固まった。
「……まずい」
フェルナンは国一番の騎士であり、国内の兵士から圧倒的な支持を受けている。上手に説得して諦めさせなければ、国を二つに割る最悪の事態を招きかねない。焦る私と逆に、王妃は徐々に冷静さを取り戻した。
「一度会ってみましょう。判断はその後で間に合うわ」
「あ、ああ。そうだな」
まだ十二歳なのだ。婚約は解消できるし、ひとまずフェルナンに預けよう。王城へ顔を出すよう手紙を出し、深呼吸した。
なんだかんだ理由をつけて先延ばしにしたフェルナンが、ようやく動いた。婚約者を連れて、馬車で来る。あのフェルナンが、おとなしく馬車で? 騎乗してとんぼ返りが通常仕様なので、かなり驚いた。
二人に会ってさらに驚く。まさか、両思いなのか?! 王妃とひそひそ話し合い、余計な口出しはやめようと決めた。アルドワン王国側はどう思っているか。手紙を出して探れば、一目惚れの文字がついて返ってきた。
二人とも一目惚れ、奇跡のような出会いだ。王妃は両手を組んでうっとりと「素敵」と呟く。この奇跡が幸せな結末に繋がるように。頑張り屋で恋愛に不器用な弟の恋が実り、アンジェル王女と仲のいい夫婦になれるよう。
祈る私の思いを汲んだのか、両国の結びつきは強くなり……二人の愛も成就した。膝に乗せた甥マリユスの頭を撫でながら、目の前の幸せな光景に目を細める。あの日の選択は、間違っていなかった。
一目惚れの政略結婚は、物語になりそうだ。同じ思いを抱いた王妃が、こっそり物語を書かせた本を手に取るのは、数ヶ月後――フェルナンにバレないよう隠したのに、本を送るよう手紙を貰って唸る。幸せな葛藤ののち、再びの催促に負けてハッピーエンドの物語を送った。
終わり
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完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。また新しい物語でお会いできますように。




