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07.抱き上げていたいのだが、嫌か?

 お風呂を用意すると言われたけれど、時間がかかるし眠くなりそう。何より、エル様をお待たせしてしまうわ。寝る前にしますと断りを入れ、クロエが用意したドレスに着替えた。


 旅支度のワンピースより裾が長く、レースやフリルも多めだ。色は淡いピンクで、子どもっぽくないデザインが気に入っている。腰をきゅっと細くみせるのに、実際はゆったり着られる。色の濃淡を使った切り替えデザインのお陰よ。


 お母様も愛用するデザインで、これならコルセットなしでも細く見えるの。淑女必須アイテムだと思う。着心地が良いので、アルドワン王国で流行していた。先日遊びに来たルナン大公領の奥様も、すごく気に入って注文したくらいよ。


 柔らかな印象を与える琥珀の首飾りを選び、耳は何もつけない。代わりに金髪を結って、小花のピンをたくさん飾ってもらった。最後に蝶々のピンを一つだけ差し込む。気づいた人はくすっと笑ってくれるし、気づかなくても花に悪い印象を持つ人は少ない。


 愛される末っ子にも、コツや秘密の作戦はあるのよ。鏡の前でくるりと回り、おかしなところがないか確かめる。侍女の一人が扉の外へ出た。私の準備が出来たことを伝えに行くのね。


 エル様に手を差し出し、エスコートされながら城を歩く。素敵だわ。うっとりしながら待った。


「アン、なんとも可愛らしい花の妖精だ。こちらへおいで」


 褒められて微笑み、呼ばれて素直に近づく。が、数歩も行かないうちに抱き上げられた。先ほどと同じ右腕に腰掛ける形だ。内側の長いペチコートのレースが覗き、靴が隠れてしまった。


「あの……歩けますわ」


「私が抱き上げていたいのだが、嫌か?」


 そう尋ねられたら「嫌じゃないです」と答える。本心からそう思ってくれている? 本当は重いんじゃないかしら。心配になって顔を覗くと、柔らかな笑顔が向けられた。信じていいのよね。私、馬車の中からずっと歩いていない気がする。


「それに私が抱き上げていれば、遠くまでよく見えるぞ」


「ふふっ、落とさないでくださいね」


 任せろと請け負うエル様に抱えられ、城の中を回った。二階は当主一族や客人の部屋が並ぶ。使用人は地下と屋根裏に分散するのだとか。朝早い仕事の料理人などは半分地下になった部屋が都合がいい、そんな話に驚いた。


 騎士は本館の脇にある別館に住んでいる。本館から見えないけれど、別館の裏には訓練場があった。土、石畳、芝生と地面の状態が違うのは、どんな環境でも戦えるように訓練するためと聞いて頷く。集まっていた騎士は、黒や焦げ茶の髪色が多かった。


 アルドワン王国は淡い髪色ばかりで肌は日焼けしている。逆にモンターニュでは、濃い髪色と白い肌が主流だった。一階の食堂や執務部屋、来客用の応接室も見て、最後に不思議な庭に案内される。レンガ造りの壁に薔薇が伝い、とても美しい空間だった。


 ところどころに窓に似た穴があり、日差しが差し込んだり外が見えたりする。完全に隔離された場所ではなくて、でもプライベート空間のような。


「素敵」


「ここは私の母が作らせた。もう主がいないので、アンに管理してほしい」


 お母様が作ったのに、もういない? 引っ越しされただけならいいけれど、まさか?

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