表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/97

66.寂しくても嬉しくても涙が出る

 エル様が出発して、もう二週間も経った。手紙のやり取りは続いているけれど、昨日の分の返事がまだ届かない。いつもより遅い時間だったから? 不安を無理やり押し潰して、私は朝の支度を整えた。


 見てくれる婚約者がいないのに、頬に粉を叩いて髪を結う。褒めるエル様の声が聞こえないのに、服を選んで袖を通した。鏡の中の少女は憂鬱そうで、大きな溜め息を吐く。


 並んだ朝食は美味しいが、喉を通らなかった。もしエル様に何かあったら。帰ってこなかったら。想像するだけで涙が溢れそうだ。滲んだ涙を誤魔化すために紅茶に口をつけた。普段より蜂蜜をたっぷり。


「大変です、お嬢様! いま、玄関にっ!」


 落ち着いて何でもこなす執事が、大慌てで駆け込んだ。息を切らした姿に、何があったのかと首を傾げる。彼はまだ息が整わないので、立ち上がって玄関へ向かった。残した食事は申し訳ないけれど、言い訳にちょうどいい。


 玄関へ向かう途中で、数人の侍女が涙を拭いていた。悪い知らせなの? 怖くなって足が竦む。一歩が怖かった。


「姫様、俯いてはなりません」


 クロエが厳しい口調で、前へ進めと促す。深呼吸して顔を上げた私は、最後の角を曲がった。見えた人影を凝視する。目の奥が熱くなり、視界が揺れてよく見えなくなった。


 鼻を啜って数歩、そこから全力で走る。前が見えないけれど、そんなこと問題じゃなかった。だって、今……!


「お、かえりっ、なさい! エル様、える、さまぁ」


「ただいま戻った、アン。安心してくれ、皆は無事だ」


 転びそうになった私をエル様が抱き上げる。この腕はエル様だ。この砦に来て三日で覚えた、大好きな人の香りと腕。温かいエル様の腕が私を抱っこしている。


 髪を撫でるエル様は、髪飾りが取れてしまったと苦笑いをしたみたい。でも泣いている私の目にはよく見えなかった。髪飾りをクロエに預け、頬をぺたりとくっつける。ただただ嬉しくて、ケガがないか確かめるために触れる。


 少しして落ち着いてきた。何度も瞬きした目から涙が落ちて、玄関の扉が開いたままなのに気づく。外で待つ騎士や兵士から丸見えだった。恥ずかしいと思うけれど、また同じ場面になったら同じように抱きつくわ。


「アルドワン王国の家族も無事だ」


「あり、がと……ござい、ます」


 しゃくりあげながらお礼を告げ、執事に促されて食堂へ移動となった。まだ朝食を食べていないのね。


「急いで飛ばしていたので、昨日の返事が出せなかった。すまない」


 首を横に振る。帰ってきてくれたのが嬉しいから、それ以上は何も求めない。食堂でもお膝の上から降りず、ずっと抱きついていた。騎士や兵士にも料理が振る舞われ、給料をもらったら解散となる。中には先に給料をもらって、家族の元へ走っていく人もいた。


 どの家も、今夜は安心して眠れる。大切な家族が帰ってきたんだもの。


 豪快に朝食を平らげるエル様に、私がご飯を残したことを告げ口された。クロエも執事も酷いわ。食後の果物を多めにもらい、エル様の手で食べさせてもらう。すごく美味しくて、幸せで、また泣きそうだったわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ