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【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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50.抱っこはまだ続く

 私を凝視したままのエル様が、ぎこちなく動く。まず私の手を下させて、大丈夫だと首を横に振った。それから目元や額を手のひらで覆う。


「アン、私は君を重いと思ったことはないよ。軽くて心配なくらいだ。不安にさせたなら悪かった」


「い、いいえ。不安とかじゃなくて……その、ご飯が美味しくて食べすぎちゃったので」


「では、まだ抱き上げて過ごしていいだろうか」


 こくりと小さく首を縦に振る。ずるい、そんな声と顔でお願いされたら、断れないわ。


 本心では抱っこを卒業して、淑女らしくエスコートされたい。でも必要な時はしてくれるから、今のまま距離が近いのも悪くないかな? なんて。はしたない考えが浮かんでしまう。


 エル様も重く感じたら、エスコートに切り替えてくれるわ。それまで婚約者の特権だと思って、楽しもう。うん、それがいい。


 深く考えるのをやめて、微笑んで会釈した。お部屋の前なので、一度離れる。持ち帰ったお土産を、セリアやクロエと分けた。誰がどのお菓子か、忘れる前に名前の紙を挟んでおかなくては。忙しく過ごし、窓の外が暗くなる頃ようやく終わった。


 食堂へ向かった私は、小さな円卓でエル様と食事をとる。向かい合っても手が届きそうな円卓は、中央に大きな蝋燭があった。捩れ模様で彩色が施された蝋燭は、甘い香りがする。


 街でお菓子も摘んだので、軽めの夕食にしてもらった。ワインを飲むエル様は、同じ色の果汁のグラスをくれる。こういう気遣い、子ども扱いと違って嬉しい。食後のお茶も一緒に過ごし、部屋の前まで送られた。


「はやく寝るんだよ、アン」


「はい、おやすみなさいませ。エル様」


 挨拶も終わったのに、エル様は私の左手に触れたまま動かない。何か言いたそうで、でも呑み込んで、また口を開いた。それでも言葉は出てこなくて、私から尋ねてしまう。


「どうなさったのですか」


「陛下と謁見した上、貴族すべてが揃っている場で婚約者だと明言した」


「はい」


 あの判決の議場の話ですね。頷いて続きを待つ。


「アンは……その、嫌じゃなかったか?」


「はい、嬉しいですわ」


「そうか。よかった」


 エル様はお休みのキスを手の甲にくれた。膝をついたエル様に抱きついて、頬にキスを返す。もう一度おやすみなさいを言い合って、部屋の中に入った。クロエがすぐに着替えを用意し、セリアとデジレがお風呂を準備する。


 汗を流して温まって、着替えた私はベッドに横たわった。彼女らが退室して、上掛けを頭の上まで引っ張る。潜るようにして顔を隠した。絶対に顔だけじゃなくて耳や首も赤いわ。じわじわと嬉しさが込み上げて、興奮した声で「うわああぁぁああ!」と叫んでみたい。


 さすがに騒ぎが大きくなるので我慢だけれど。エル様ったら、どこまで私を惚れさせるのかしら。あの状況で発表したことを気遣って、言葉を選びながら尋ねた。こんな人、他にいないわ。


 暑くなって我慢できず、ぷはっと顔を出す。


「大好きです、エル様」


 小さな声で呟いたら恥ずかしくて、ごろごろと転がってしまった。明日、クロエが来る前にシーツを引っ張って誤魔化さなくちゃ。

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