47.王宮から急いで離脱
議場で誰も反論しなかった。これが判決を確定させる。後で何を言っても抗議は無視されるわ。だって、人前で言えない根回しに該当するもの。
それに根回しって、後じゃなくて先に手を打つべきよね。そうならないよう、誰かが助けの手を差し伸べる形を整えてこそ、品のいい根回しだわ。エル様のように……。退場してすぐ、廊下で抱っこされてしまった。
控え室に戻るのかと思ったら、私を抱えたまま客間のある方角へ……。あれ? それとも違う。いつの間にかクロエやセリアは消えているし、何が起きたのか。きょとんとする私を抱いたエル様に、後ろから王妃殿下が声をかけた。
「アンジェル姫、私達はあなたを歓迎しているのよ。フェルナン殿下がこんなに大切にする姫君ですもの。また遊びにいらしてね」
大丈夫です。真に受けて浮かれたりしません。これはきっと『同盟のために今後も仲良くしてほしいわ。わかるでしょう?』という念押しだ。王侯貴族の婉曲な表現については、お母様に翻訳指南を受けているの。
実家に言いつけないでね、も含まれると思う。会釈してエル様の肩に頭を寄せた。綺麗な黒髪に手を触れる。階段を降りたエル様は、そのまま馬車に乗り込んだ。走らせるよう命じるから、慌ててしまう。
「クロエ達は!?」
「馬車を手配してある。君の荷物をまとめたら追いかけてくるよ」
ほっとして力が抜けた。エル様はどうしても、私を王宮に置きたくなかったみたい。国王夫妻は別だけれど、あの騒動の後で他の貴族が面会を求めるのではないかと。確かに渦中の人だったし、気になっている人はいるはず。
侍女や護衛を置いても、相手の爵位によっては突破される可能性もあった。常にエル様が一緒にいるのが安全だけれど、さすがに未婚なので同席できない場所もある。公爵邸となる予定の屋敷なら、他者の訪問は門の外で遮断できた。
「不快な場に同席させて悪かった」
「いいえ。私が望んだんですもの」
陛下と飲んで一晩泊まったことも後悔していて、今後は気をつけると言われたけれど。兄弟仲良しなのはいいことよ。しょんぼりした様子のエル様は幼く見えて、弟みたいで可愛いわ。弟も妹もいたことないけど。
「エル様、明日はお庭で一緒にお昼を食べましょう。それで帳消しです」
「……それでいいのか?」
「ええ」
大人びた仕草を真似て、エル様の手を自分の頬に当てた。お姉様が言うには、これで婚約者がイチコロだったとか。エル様にも効果があったようで、嬉しそうに笑ってくれた。
「明日が楽しみですね」
「ああ。仕事も砦に置いてきたから、ゆっくり過ごそう」
頷いた後で気づいた。それって帰ったら仕事が山になっているのでは? かつて夏休みに同行したお父様が、城に帰ってうんざりした姿で処理していたわ。懐かしく思いながら、もし同じ状況ならお菓子を差し入れようと決めた。あの時のお父様はすごく喜んでくれたもの。




