44.全然反省してないわ
会議場は半円形をしていた。私達が入った扉は直線の端だ。そこから中央まで歩くのが国王夫妻、私とエル様は少し手前で止まった。陛下の姿が見えてから、貴族は直立不動で待つ。
無言で見回した陛下は、まず王妃殿下を座らせた。続いて自らも席に着く。と、人々の視線が突き刺さるように感じた。この場に残された王族は、王弟殿下と来賓の私。私を先に座らせたエル様が、ゆっくりと腰を落ち着けた。
近い方の席から、順番に腰掛けていく。どうやら爵位の順番みたい。鍛え上げられた騎士団の動きに似て、圧倒されてしまった。こういう厳格さは、アルドワン王国にないわ。騎士団や兵士はともかく、貴族にこれほど厳密な身分差はなかった。
だからこそ、不思議に思う。公爵家に年頃のご令嬢がいないからといって、一侯爵令嬢があそこまで増長した理由。何か裏がありそう。こういう推理は小説で覚えたのよ、ふふっ。大人になった気分だわ。
見下ろす議場は、陛下のいる最上段の下に議長席があった。周囲に文官や書記官がいるようだ。円形になった部分は貴族で、区分けがしっかりしていた。
陛下が合図を送ると、議長が口を開く。マルノー侯爵令嬢による、他国王族への暴言と暴力が主題だった。そこにエル様の婚約者を騙った不敬罪、相応しくない服装で風紀を乱した罪、それから……いくつか並べられたが覚えていない。
途中でエル様がそっと指を絡めてきたからだ。一本ずつしっかりと絡め、握り込まれる。外そうと思わないけれど、逃さないと主張するみたいに力が込められた。頬がぽっと赤くなる。
「膝に乗せて見せつけたいが、さすがに陛下に止められた」
陛下、さすがです。というか、耳元で囁くエル様の声は破壊力がすごい。私の理性やら落ち着きが完全に吹き飛んだわ。俯いてしまいそうな顔を、気力だけであげた。
侯爵令嬢に負けて俯く王女なんて、アルドワンの恥だもの。勘違いされたら訂正が面倒だった。微笑むエル様に見惚れている間に、罪状の読み上げが終わる。後半はほとんど聞いていなかったわ。
「罪人、言い分はあるか」
議長の声に、私が視線を向けた先……睨みつけてくるのは、あの女性だった。はしたないとエル様が一刀両断したドレスではなく、丸首のシンプルなワンピースだ。胸元が膨らんでるのが、地味に腹が立つわ。私だったらすとんと……いえ、何でもない。すぐに追いついて追い抜くんだから!
ワンピースは貴族令嬢が着用する服ではなく、侍女より地味な色をしていた。やや暗い灰色だ。この色ならいっそ黒の方が映えるかも。じっくり観察していたら目が合ってしまった。
「っ! お前のせいよ! お前が殿下を誑かしたから、こんなことに。私は何も悪くないわ!!」
びくっと肩が揺れた。驚いたのが半分、怖いのが半分だ。だって、理解できないわ。この状況で罪を突きつけられて、自分が悪くないと思える人の気持ちなんて。推し量る価値がない。得体の知れない生き物だった。
言葉が通じても、話が通じない人って存在するのね。




