43.正式なエスコートで議場へ
国王陛下と王妃殿下に呼ばれた私は、エル様と一緒に顔を出した。控え室のような部屋で、低いテーブルと長椅子だけ。書棚はなく、代わりに窓際に花瓶と台が置かれていた。
上質な家具なので、やはり控え室として使うのだろう。ということは、また移動しそうだわ。
「急にごめんなさいね。でも折角だから、アンジェル姫も知りたいかと思ったのよ」
王妃殿下にそう切り出され、何の話かわからずエル様を見上げる。変わらず私を膝に座らせた婚約者は、髪や頬にキスを始めた。何か不安でもあるのかしら。
「嫌なら断っていい」
エル様はそう言うけれど、何が起きるか分からない。素直に尋ねた私に、国王陛下が答えてくれた。
「貴族院の会議が行われる。来賓への無礼を働いたマルノー侯爵令嬢を裁く予定だ」
ああ、なるほど。裁判ですね。我が国にもある制度なので、すぐピンときた。言い訳をして逃げないよう、エル様が事前工作をしたけれど。その効果が確認できるなら、気になるわ。
「他国の王女が参加できるのですか?」
「もちろんだよ、被害者だからね。私達と一緒に結果を確認し、満足できなければ抗議してほしい」
国王陛下の言い方だと、処罰が軽くなりそうだから反論してくれと聞こえる。渋い顔のエル様は、私が傷つくと思っているみたい。だから、こそりと囁いた。
「大丈夫です、私、こういうの平気ですから」
傷ついたりしないし、先日も怖かったのはエル様を奪われる方だ。貴族に言いがかりをつけられた程度で、怯えたりしない。そう伝えたつもりなのに、エル様はぎゅっと抱き締めてきた。嬉しいけれど、ちょっと苦しい。
「あの女も出席する。また暴言を吐くかもしれない」
「言い返してやります! エル様は私の婚約者ですもの」
取られる気はない。ぐっと拳を握って明言したら、王妃殿下が感極まった様子で何度も頷く。陛下は目頭を押さえていた。泣くような内容だった?
「よし! では参ろう」
すくっと立ち上がった国王陛下は、王妃殿下に手を差し伸べる。スマートな仕草だわ。受ける王妃殿下は、厳しい表情を作った。すぐに陛下も顔を引き締める。この辺の切り替えは、さすが王族だ。
エル様は迷って、私を一度長椅子に下ろした。膝をついて手が差し出される。
「アンジェル王女殿下をエスコートする栄誉をお与えください」
騎士が姫に忠誠を誓う姿に似ていて、私は舞い上がった。ようやく抱っこを卒業だわ。いえ、抱っこも好きだけれど……やはり婚約者に淑女として意識してほしい。
「お願いいたします。フェルナン王弟殿下」
アンと呼ばれなかったから、エル様と返さない。エスコートの手を重ね、国王夫妻の後ろに続いた。扉を数枚通り過ぎ、侍従長が開く扉の中へ入る。
中は静かで、大量の視線が注がれた。ごくりと喉を鳴らし、私は笑顔を浮かべる。このくらい、こなしてみせるわ。怯んだりするものですか。私はアルドワン王国の末姫なのですから。




