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六がイカエビルに「十分待ってくれ」といったあと、フェイと穂乃華は彼に近くの木陰に連れてこられていた。
「……話があるっていってたけど、なんなの?」
「ああ、出会って早々に頼みごとってのも気が引けるんだが……」
六はいつから持っていたのか黒いアタッシュケースを開けて、なかから長袖のワンピースを二着とりだす。片方のワンピースはピンクの無地で、もう一方は同様に白の無地であった。他のちがいというのはそれだけで、共通しているのは二着ともゆったりした作りになっているということだ。
「二人に、この服を着てほしいんだ」
「なにこれ?」
フェイは思わず聞いてしまう。
「こいつは俺が開発した強化服の試作型だ。これを着ることで身体能力を飛躍的に向上させることができる」
その説明を聞いて、あからさま怪しいと思うフェイであったが、反対に穂乃華は目を輝かせながら六の話を聞いている。
「すごく、楽しそうですね!」
「そ、そうか?」
穂乃華の気迫に圧されて、六は思わず後ずさる。
「それで、これからどうすればいいんですか?」
「とりあえず、このワンピースをこのハイソックスと一緒に着てくれればいい。詳しいことはそのあとにでも説明する」
「それで、どこで着替えればいいんでしょうか?」
その問いかけに、六は大変申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ホントなら、室内で着替えてもらえればいいんだけど、いまは急を要するんで、悪いけど、その辺の木陰で着替えてくれないか?」
「いいですよ」
だが、穂乃華の返答は驚くほどにあっさりしたものだった。
そう答えた穂乃華は白いワンピースを手にとると、軽い足どりで近くの木陰に行く。
「随分とノリノリだな……」
それはそれで逆に不安を覚える六。というか、外で着替えるのに抵抗がまるでないことに驚きをまずは覚えた。
「……しょうがないわね」
穂乃華を見て、フェイも渋々だが、ピンクのワンピースを手にとる。
「いいのか?」
そんなフェイを気づかってか、六は声をかける。すると、フェイは苛立たしそうに――。
「こっちにも事情ってものがあるのよ」とだけいって、穂乃華とはべつの木陰に向かおうとする。
もちろん「覗いたら殺すわよ」という捨てゼリフも忘れない。
「事情、ねぇ」
あの二人は、どうやら見た目よりもずっと複雑な間柄のようだと、六はなんとなく感じた。
それから数分後、ワンピースに着替えた二人が六のところへやってくる。
「で、これのどこが強化服なワケ? ちっとも力がみなぎったりしないんだけど」
「ああ、これはどの強化服にもいえることなんだが、効果を発動されるにはカルドを服に挿入させる必要があるんだ」
いうより早いか、穂乃華は手からカルドを発動させ、ワンピースに挿入した。すると、いきなりワンピースから白い光が発せられ、穂乃華を包んでいく。
光が収まると、そこに立っていた穂乃華はワンピースではなく、純白のセーラー服を着ていた。
「……いったい、どうなってるの?」
「こいつには特殊な生地が使われていてな。カルドを挿入すると反応して、服が圧縮されるんだ」
「ふ~ん。……で、どうしてセーラー服なの?」
フェイは変質者を見るような目で、六に視線を向ける。
「これは俺の趣味とかは関係ないぞ。れっきとした研究成果だ」
心外だといわんばかりに、六は抗議する。
「その割に、スカート短い気がするけど?」
「スカートは短いほうが動きやすいだろ」
それはごもっともだが、セーラー服のスカートといえば膝まで丈を伸ばすものだと教えこまれているのがギネヴィア学園の女生徒である。太ももまで見えてしまうスカートには、さすがに気恥ずかしさを感じてしまう。
「そうですか? これはこれでいいと思いますよ」
そう思っているフェイがいる一方で、なぜか楽しそうにしている穂乃華。この違いはいったいなんなんだろうと、フェイは自問する。
「……いい加減、客を待たせるのも悪いしな。やるんなら、そろそろカルドを挿入してくれないか?」
しびれを切らせた六がフェイに決断を促す。しかし、急きたてられてもフェイの迷いは消えない。フェイは視線をちらりと穂乃華のほうへ向ける。見れば、相変わらずのんきそうな顔をしていた。
それはフェイが年がら年中飽きるほど見続けている顔である。そして、その顔を見ていると沸々と腹立たしさがこみ上げてくる。
その感情がフェイに覚悟を促し、六と顔を向き直らせる。
「……わかった。やるわ」
気づいたとき、その一言を口から発していた。
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