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昼休み、学内食堂で穂乃華は友人たちと一緒に昼食をとっていた。
「穂乃華さま、宇尾海寮へ入寮なさるという話は本当ですか?」
メガネをかけたおかっぱの少女が意味深な表情を浮かべて訊ねてくる。
「ええ。それがなにか?」
「なにか? じゃ、ありませんよ! 知らないんですか、あの寮の噂を?」
穂乃華は目をぱちくりさせながら、首をかしげる。
「噂、ですか……」
穂乃華はコップの水を一口つけて、おかっぱ少女に向き直る。
「でるんですよ、あそこ」
「でる?」
「なにがです?」と聞こうとすると、もう一人の隣にいた短髪のボーイッシュな少女がおどろおどろしい表情で話しはじめる。
「もちろんナニに決まってますよ。夜な夜な聞こえてくる悲鳴、徘徊するミイラ女、暗闇を飛びまわる火の玉などなど、他にも噂をあげていけばキリがないんですから」
ボーイッシュ少女は迫真の演技で穂乃華を怖がらせようとするが、穂乃華に怖がるようすはない。それどころか、柔和な笑みを浮かべている。
「まあ、怖い」
しかし、口ではそんなことをいう少女であった。
「穂乃華さま、本当にわかってます?」
ボーイッシュ少女が呆れ顔で訊ねてくる。
「ええ。でも、宇尾海寮って学園から結構近いんですよ。それって魅力的だと思うんですが」
「そんなこといってて、三日で宇尾海寮から逃げだした人がいたって話も聞きましたよ」
ボーイッシュ少女がずいっと顔を近づけてくるも、穂乃華は鉄壁の笑顔を崩さない。
「あら。そうなんですか。わたしは楽しそうだと思いましたけど。なんかお化け屋敷みたいで」
そういって、穂乃華は「うふふ」と笑う。どこまでが本気なのか、まわりの少女たちはただ首を傾げるだけであった。
すると、少し離れた席でイスの動くがする。気になって穂乃華は視線を向けると、フェイが鞄を持って立ちあがるところであった。
「バーナルさん、お帰りですか?」
穂乃華が笑顔で問いかけると、フェイはいまにも襲いかかってきそうな表情で睨んでくる。
「悪い?」
「いえいえ。ただ、随分と早いお帰りだと思いまして」
別に悪気があったわけではなかった。だが、フェイにはこの言動が気に入らなかったらしく、もともと険しかった表情がいっそうに険しくなる。
「あなたねぇ……!」
フェイは顔を真っ赤にして、右腕をわなわなと震わせる――が、すぐに嘆息をしたかと思うと、がっくりと肩を落とした。その姿は糸の切れたマリオネットのようだ。
「どうかしました?」
そんなフェイの情感をまるで感じとれない穂乃華は、ただきょとんするだけであった。
「……なんでもないわ」
先ほどより大きい嘆息をついて、フェイはとぼとぼと教室をあとにする。穂乃華は、そんなフェイを不思議そうに見送った。
「バーナルさん、どうかしたのかしら?」
穂乃華はまわりにいた少女たちに訊ねてみる。が、まわりの少女たちは気まずそうに首を横に振るだけであった。
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