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ギネヴィア学園の校内に荘厳な鐘の音が三回響く。
これは入学式を終えて、各々の教室に戻っていた学生たちに、ホームルームの開始を告げるチャイムの音であった。
そうなると先ほどまで弛緩していた教室の空気は一新され、教室にはある種の緊張感が漂いはじめる。
そんな空気を感じながら、廊下を一人で歩いている少年が一人。
この少年は宇尾海六。栗色の髪を短くまとめ、体格などは至って平均的。一見、なんの特徴もない普通の少年なのだが、それはあくまで後ろから見たときの姿である。
彼と初対面の人間は、そのほとんどが彼と視線をかわそうとしない。したとしてもすぐに目をそらしてしまう。なぜ、そんな現象が起きるのかというと、すべては彼の目つき原因があった。
いまにも睨め殺してやろうかといわんばかりに、鋭い目つきであたりに睨み散らしている――とまわりからは思われがちだが、本人からすれば、それは不本意このうえない誤解である。
生まれてこのかた、まわりの人間に睨みを利かしながら道を歩いたことなどないし、誰彼構わずにケンカを売ろうと思ったこともない。本人は、至って善良な一市民のつもりなのだ。
六の鋭い目つきは親譲りで、本人にとっても悩みの種であった。その対策として数年前からメガネをかけはじめたわけだが、特に視力が悪いわけではなかったので、普通のメガネをかけるわけにはいかない。つまり、彼がかけているのは伊達である。ちなみにメガネをかけることで、まわりにあたえる印象がやわらかくなったのかどうかについては、よくわかっていない。
六がふと足をとめて、うえを見あげる。そこには『1年B組』と書かれたプレートがさげられていた。
「ここか……」
もらったメモと見くらべながら、独りごちる。
ノックをしようとするのを躊躇して、代わりに耳を澄ましてみる。たしかに教室内からは話し声が聞こえて、結構な人の気配を感じる。が、六の知りたいのはそんなことではなかった。
しかし、いまはあれこれ考えてもしょうがないこと。六は思いきってドアにノックをした。
「どうぞ、お入りください」
教室のなかから聞こえたのは女性の声である。その返事があまりに普通であったことに、六は思わず拍子抜けした。
「失礼します」
それでもなかに入るとなると、さすがに緊張する。実際、教室に足を踏みいれるときに体は震えていた。
「ようこそ、一年B組へ。あなたが宇尾海六さんね?」
一瞬だけ眉根をひそめたものの、すぐに笑顔を浮かべて、少女が歓迎してくる。少女は銀色の髪を結いあげていて、なんとも清楚な雰囲気を漂わせていた。
「私はシンディー・アークライト。このクラスの学級委員長です」
シンディーは短く自己紹介をすると、六を自分のすぐそばまで招き寄せる。
「彼が新しい仲間の宇尾海六くんです」
その名前を聞いてクラス中の視線がいっせいに六へと集まる。ある者は尊敬、ある者は羨望、そんなさまざまな感情が複雑に絡まりながら、六を囲いこんでいく。だが、六は眉一つ動かさず、冷静にいなしている。それは気にしていないというより、対処に慣れているという類のものであった。
「自己紹介、お願いできますか?」
シンディーの問いに、六は無言でうなずくと、チョークをとって、自分の名前を黒板に書いていく。
「宇尾海六です。よろしくお願いします」
六の短い挨拶のあと、クラスメイトたちは彼を盛大な拍手で迎える。こうして、六の学校生活の第一歩が幕を開けたのであった。
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