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リリース!  作者: あかつきp dash
第三章 「下着ドロボウは誰? 恐怖のユウレイイカ」
18/25

3-7~8

   7。


 ――さて、まずはどこから捜索をすべきか? 


 そんなことを考えながら、部室棟のそばを通りかかろうとした六とフェイであったが、その部室棟がやけに騒がしいことに気がつき、二人はふと足を止める。


「なにかあったのかしら?」

 問いかけてくるフェイに六は「わからん」と短く答え、それからすぐあとに「ちょっとようすを見て行こう」と誘った。


 部室棟の正面口まで近づいてみると、そこではさまざまな服装をした学生たちで人だかりが作られている。そして、その中心には生徒会役員の面々と会長の樹の姿があった。


 これは間違いなく事件だと踏んだ六とフェイは互いに顔を見合わせると、歩調を合わせて人だかりのほうへまっすぐに向かっていく。


「生徒会長、なにかあったんですか?」

 六は困り顔の樹に話しかける。


「おお、君か。ちょうどよかった」

 すると樹は救世主の如く崇める表情で、六を歓迎した。それと同時に部室棟から「イカカカカカッ」という笑い声が響きわたる。これで、いま部室棟でなにが起こっているのか――そのあらかたの見当がついたのであった。


「ひょっとしなくても、イカエビルの仕業か」

「そうだ。いま、部室棟は謎のイカ男によって制圧されている。悔しながら、我々の力を結集してもヤツには歯が立たないのが現状だ。だからこそ、君たちの助力を仰ぎたい」


「まあ、それはそれで光栄なことなんですが……」

 鼻息を荒くしながら頼みこんでくる樹に、六の返答は歯切れの悪いものであった。

「なにか問題でもあるのか?」


「それはですね――」

 そんな六を訝しながら訊ねてくる樹に、六が口を開けた矢先であった。

「行くわよ」


 六の隣にいたフェイが「ふふふ」と狂気を含んだ笑みを浮かべて、部室棟のなかへゆっくりとした歩調で向かいだしたのである。


「……彼女は大丈夫なのか?」

「これはまずいぞ……!」


 フェイを見て、なにやら危ないものを察知した六は、フェイのあとを追いはじめる。

「ま、待ちたまえ。ここの指揮は私に一任されているんだ。勝手な行動は許さないぞ!」


 樹は先走る二人に呼びかけるが、そんな呼びかけなど耳に入ってないかのように二人は部室棟内へ消えていった。


(……これでは事件が解決しても私の手柄にならない)

 それは樹としてはよろしくない。とあれば、次に移されるべき行動は自然と決まっていた。


 樹は他の役員へ引き続き周辺の警備を怠らないようにという指示をだすと、彼もまた部室棟へ向かっていったのであった。



   8。



 部室棟のなかへ踏みこんでみると、そこに待っていたのははたまたイカエビルであった。

「イカカカカカッ! こんにちわ皆さん。今日も騒ぎの仕掛け人、その名はイカエビルでございます」


 十本の足を広げた仰々しいポーズでフェイたちを出迎えてくれる。といっても、まるで嬉しくもないものであったが。


「やっぱり、アンタか。答えろ。こんなことをして、なにが目的なんだ?」

 六の問いをイカエビルは鼻で笑いながら、こう返してくる。


「それは以前にもいったはずです。私の目的はイカの楽園を創ること。そのために邪魔者はすべて消す、とね」


「……それと下着ドロボウがどう関係するっていうんだ?」

「さあ? 私は彼らに思うがままに行動せよとしかいってないのでね」


 どういうことだと、六は眉をひそめる。それでもイカエビルは不敵な笑みを浮かべて佇んでいるだけだった。


「お話が過ぎたようですね。これ以降は力を持ってして、私から聞きだしてはイカがですかな?」

 足を広げて挑発してくるイカエビル。それになにかあると感じる六であるが、フェイにはそういった思慮は欠けていた。


 フェイは「いわれなくても、そのつもりよ!」と叫びながらイカエビルに突貫していく。

「バカ。簡単に相手の挑発にのるんじゃない。これは罠だ」


 六の警告はフェイの耳に届くことはなかった。だが、仮に聞こえたとしても彼女はその警告は聞かなかったであろう。それほどまでに彼女の頭には血がのぼっていたのである。


 フェイが拳を突きだすと同時、すぐそばの窓ガラスを突き破ってもう一体のイカ男が現れる。

「イカエビルさまには指一本触れさせん!」


 イカ男はそういいながら足を使って、フェイの拳を弾きかえす。

「またイカか……」


 あのイカエビルといい、昨日のスルメイカといい、そしていま目の前にいるイカ男といい、なぜこう事件を起こすのはイカなのだろうか。こればかりは自問自答してもどうしようもないのだが、それでも自分の胸に聞かずにはいられなかった。


「またとは失礼な。私はスルメイカよりスマートで、遥かにインテリジェンスを放っている存在だぞ!」


 憤慨するイカ男であったが、よくよく見れば昨日のイカよりは若干ほっそりして見える。それで自分はスマートだと主張したいのだろうか。


「あなたの個性なんて知ったことじゃないわ。重要なのは、あなたが下着ドロボウの犯人でないか、ということよ」


 フェイはイカ男を指さしながら問いかける。すると、イカ男は最初は小さく、やがては「イカカカカカッ」と愉快そうに笑いだした。


「イカにも! 私こそギネヴィア学園下着盗難事件の犯人――ユウレイイカである!」

 自ら犯人を名乗りでた割には、やけに誇らしげで、偉そうである。その姿からわかる事実は、彼が罪の意識などという高尚な心意気からはほど遠いところにいるということであった。


「……なんで下着ドロボウなんだ?」

 そんなユウレイイカに頭痛を覚えながらも、意を決して訊ねてみる六。


「イッカッカッカッカッ。別に貴様らのような下等な人間に、私の崇高な理念を理解できるとは思えんが、どうしても聞きたいということなら教えてやろう」


 その割にはいいたくてうずうずしているとしか思えないはしゃぎぶりだとも思ってしまうが、ここはあえてなにもいわないのも優しさだろうと思い、六は黙って彼の崇高な理念とやらに耳を傾けることにした。


「私はいままでさまざまな映像を撮り続けた。人、建物、動物、運河、……、ムーンウォールに存在するあらゆるものを撮ってきた。だが、そんな私でも唯一撮ってないものがあるということを気づいたのだ」


 そこまでいっておいて、ユウレイイカは含み笑いをはじめる。正直、不気味である。


「そう。それが女性の神秘――スカートのなかにあるモノなのだよ。私はそれに気づいてから、女性のスカートのなかばかりが気になるようになってしまった。だが、直接にスカートのなかを見せてほしいと面向かって頼む勇気など私にはあるはずもない」


「頼まれても張り倒されるのが関の山でしょうけど」

 フェイがさりげなく突っこむが、完全に自分の世界に酔ってしまっているユウレイイカの耳には届かない。


「そんなときに出会ったのがイカエビルさまだった。イカエビルさまは私に力を授けてくださり、私はユウレイイカとして生まれ変わった。そして、その力を使って女性のスカートの中身を探るためにスカートめくりからはじめたのだ」


 どこかの英雄が成し遂げた武勇伝を紹介するかのような口調で、自分史を嬉々と語るユウレイイカ。それとは対照的にフェイと六は冷めた表情を浮かべている。


「だが、何度もそんなことをやってるうちに、スカートめくりだけでは自分の内から溢れでてくる熱いパッションを抑えることはできなくなっていった……。次第に私は部屋一杯に敷き詰められたパンツの風呂に自分の身を埋めたいと思うようになり、その夢をなんとしてでも叶えたいと望むようになった。それが女生徒のパンツを盗みだしたいきさつだ」


「……くだらない。パンツがたくさん欲しければ、お店に買いにいけばすむ話でしょ。そんな理由で他人様のものを盗むなんて、はた迷惑なだけよ」


 熱い語りをするユウレイイカをフェイはその一言で一笑に伏す。それがユウレイイカの怒りを買ってしまった。


「そんなことはない! 女子のスカートのなかを覗きたいというのは、まだ見ぬ世界への探求心と憧れがあるからだ! そして、その中身が欲しいという欲求は、次へのステップへと、自分をさらなる高みに持っていこうという向上心の現れ! そんな男のロマンを否定するような発言――私のイカの尾っぽははち切れたぞ!」


 ユウレイイカは全身をマグマのようにたぎらせながら、感情にまかせてフェイに襲いかかってくる。


 フェイはユウレイイカとの間合いを計算しながら、この体勢から避けるのは不可能と判断する。だったらと、フェイはユウレイイカの攻撃を受け止めるために迎撃態勢をとった。


 さて、それが果たして功を奏したのかというとどうだっただろうか。

「イカスピア!」


 ユウレイイカがそう叫びながら、一本の足を突きだしてくる。受け止める気でいたフェイは、その足を右手でつかもうとした――が、足は手からすり抜けてしまう。


 しかし、本当に驚かされたのは、それからである。本来であれば、鋭い足の突きが顔に痛打をあたえるのかと思われた。だが、顔面に広がったのは予想に反して、痛みではなく、生ぬるいどろりとした液体の感触であった。


「ぎゃああああっ! 目が~! 目が~!」

 フェイは顔を両手で押さえながら、あたりを転がりまわっている。これがまた身体能力が無駄に向上しているだけに質が悪い。振りあげられる腕は壁を壊し、足はあたりに転がっているものを片っ端からすさまじい力で蹴飛ばしていくのだから。おかげで、六は物陰に隠れなくてはならなかった。


「なんなんだ。あの白く濁ったイカがわしい臭いのする液体は……」

「イカカカカッ! 貴様に説明してやる義理はないが、冥土のみやげに教えてやろう。あの白い液体はイカスミだ。本来ならイカの吐くスミは黒いのだが、究極進化を果たしたイカの吐くスミは白くなるのだ!」


 それがどういう究極進化なのかはよくわからないが、いまがゆゆしき事態であることはよくわかる。


「くっ。バーナル――いや、コーラル落ち着け! ここは一旦、後退して体勢を立て直すんだ!」

 現状のままで戦うのは非常に厳しいだろうと判断した六は、フェイにそう呼びかける。すると、フェイにもその声が届いたのか、よろめきながらもかろうじて立ちあがり、ユウレイイカに背を向けて敗走をはじめた。


「イカカカカッ! ここは冷静でいい判断だといっておこう。だがしかし! この私から逃げられるかな?」


 勝ち誇ったようなユウレイイカの口調に、フェイは悔しさのあまり下唇を噛んだ。

「いまは耐えろ」


 六のところまでよろよろな足どりでやってきたフェイにそう語りかけると、六は彼女の腕をつかんで走りだした。


 かくして、ユウレイイカとの第一回戦はムーンプリンズ側の負けという結果になったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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