『好き』と言えた回数
教会のお祈りで一緒になった回数 7回。
親友と遊んでいる所に乱入してきた回数 15回。
隣でご飯を食べた回数 6回
不良に絡まれている所を助けられた回数、4回。
夢に出てきた回数 18回。
尻ぬぐいで謝ってその後喧嘩した回数、89回。
□
「あの、カノン。それは何を描いているのですか?」
休憩時間、後ろの席に座る親友を見るとノートに何やら奇妙な絵と様々な情報を書きなぐっていた。
「この生物は『ダチョウ』という異世界の鳥なの」
「ダチョウ?異世界?鳥?でも飛ぶような感じには見えないのですが……」
彼女、カノンは異世界転生者の娘。
親から異世界の事を色々聞く機会があるらしく興味を持つとそれにのめり込む。
今回はこの『ダチョウ』なる鳥に興味を持ってしまったらしい。
「そう!この生物は平均2.5m、体重も150kgはあるという巨体を誇るの。こいつはね、走るのよ」
「走る……えーと、ニワトリみたいな感じ?」
それにしては脚が長い。
こんなのモンスターじゃない。
異世界って怖いなぁ。
そうして私は親友から嘘の様なスペックを持ちながらバチクソ頭の悪い生物、『ダチョウ』の生態を聞かされる羽目になった。
途中でベルが鳴り教師がやって来てからもそれは止まらず、私達は揃って廊下に立たされた。
それでも彼女の語りは止まらず最終的には中庭へ追いやられることに。
「ごめんね。つい止まらなくて……」
語り終えて満足したカノンちゃんはがっくりと肩を落として謝っていた。
「別にいいですよ。授業など一回くらい聞かなくても問題ありません」
たまにはこういうのもありだろう。
事情を話せばお母様もわかってくださるはず。
「よぉ、カノン。こんな所でどうした?サボリか?」
制服の前をはだけた筋骨隆々な男が首を鳴らしながら近づいてきた。
彼はホクト。カノンの異母兄であり幼馴染でもある男性。
「ちょっとやらかしてねー。教室追い出されちゃったんだよ。お兄は?」
「いや、ちょっと昼寝してたら寝過ごしてよ」
けらけら笑う彼を見て、私は思わず言葉が出てしまった。
「寝過ごした!?ホクト、あなたは生徒会に所属しているというのに何という態度ですか!!」
「おいおい、また説教か?」
「生徒会とは生徒の規範となるべく正しい生活態度を示さねばなりません!だというのにあなたという人は……昔から教会のお祈りで居眠りはするし」
「だ、だってわけわかんねぇ呪文唱えてるしよ」
祈りの言葉でしょうが!!
「入試でも居眠りしていたと聞きました」
「首席で入学できてんだからいいだろうが!問題早く解けて暇だったんだよ!!」
そう!
この男は昔からがさつな癖に人並み以上に勉強も出来て!!
「というか、お前には関係ないだろ。本当に口うるさいやつだな」
「口うるさいとは何ですか!そもそもあなたが生活態度を改めないからでしょうが!!」
「余計なお世話なんだよ!」
彼はそう吐き捨てると憤慨しながら中庭を後にした。
そして私は……
「ああ、やっちゃったぁぁぁぁ」
頭を抱えてうずくまっていた。
「あのさ、ミズキ。いい加減、お兄の事好きなら素直にそう言えばいいのに」
「ううっ、わかってます。わかってるのに……」
何で彼と顔を合わせるとこうなっちゃうのだろう。
つい小言が口から出てしまい喧嘩になる。
「まー、大体がお兄のせいでもあるんだけどさ。ミズキももうちょっと素直になればいいのにね」
「はぁ……」
本当、もっと素直になれたらどれだけいいのだろう。
□□
帰り道、校門までやって来たところでカノンが足を止めた。
「あ、やば。ちょっと忘れ物しちゃったかも。探しに行ってくるからここで待っててねー」
「え?あ、はい……」
足早に校舎へ戻っていく親友を見送る門の前で待つ。
だが待てど暮らせど帰ってこない。
もしや何かあったのか?例えば不良に絡まれて困ったことになっているとか……
「……いや、ないか」
細っちょい身体をしているがカノンはその辺の男子よりもはるかに強い。
剣聖を目指しているという冒険者養成コースの先輩を入学早々潰した事がある。
まあ、無理にナンパする先輩が悪いのだがおかげでカノンは『やべ―やつ』という烙印を押されることになった。
いい娘なのにな……
となると考えられるのは途中で何か別のものに興味を持ってしまいのめり込んでいる、か。
「探しに行きましょうか」
やれやれ、と後者の方へ戻ろうとすると……
「あれ、ミズキじゃねぇか」
「うっ……」
ホクトだった。
まさかこんな所で会うとは。
「ひとりでどうしたんだ?迷子か?」
「あのねぇ。何で学校で迷子にならなくちゃいけないのよ」
「だってお前、方向音痴じゃん」
「ぐっ……」
否定できない。
確かに私は方向音痴。これまでも通い慣れている教会へ行く時ですら迷うという偉業を成し遂げた事がある。
「だ、だとしても今回は違うわ。カノンを待ってるの。忘れ物を取りに行ったらしいんだけどまだ戻って来なくて……」
「カノン?あいつなら帰ったぞ?」
「はぁ!?」
「何か俺んとこ来て、『今日は早めに帰ったら』って言った後、『ちょうちょ』を追いかけて塀を乗り越えていくのを見た」
「はぁぁぁ!?」
意味が解らない。
いや、でも彼女ならやりかねないか……
「はぁ、本当にあの娘は……」
「それじゃあ、帰るか。送ってってやるよ」
「え?何で、そんな私……」
「お前は方向音痴だからな。ウチの妹が迷惑かけたっぽいし。ほれ、行くぞ」
彼がゆっくりと歩き出す。
「方向音痴だけどだからって……」
ふと、気づく。
もしかしてカノン。私がホクトと帰れるようにわざと変なムーブを?
「おい、どうした?帰らねーのか?」
「……うん、帰る」
私は彼の隣に並び歩き出す。
やばい、ちょっと心臓がドキドキしてる!
まさか二人きりになるなんて想定してなかった。
「あー、えー、あー」
何か、何か話題を切り出さないと!
その後、世間話を振ったはいいが話が続かなくなり心が折れて黙り込んでしまった。
ああ、私のバカ。
何でこんなに口下手なのよ!!
「なぁ、ミズキ。実はずっと気になってたことあるんだがな」
「え?な、何よ急に」
まさか私の好意が気づかれてしまった!?
わー!わー!だめぇぇ!!
「お前、胸がでかくなったか?」
カチンッ!!
気づけばニールキックを彼に叩き込んでいた。
その後はいつも通り口喧嘩。
ああっ、本当に私のバカぁぁぁ!!
教会のお祈りで一緒になった回数 7回。
親友と遊んでいる所に乱入してきた回数 15回。
隣でご飯を食べた回数 6回
不良に絡まれている所を助けられた回数、4回。
夢に出てきた回数 18回。
尻ぬぐいで謝ってその後喧嘩した回数、89回。
思わず蹴ってしまった回数 32回 更新。
『好き』と言えた回数 0回
その頃のカノン
「あれ、ここ何処かな?」
ちょうちょを追いかけた末迷っていた彼女だが次は犬が自分の尻尾を追いかけている姿を目にした。
「実に興味深い!」