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見せてもらおうか、アメリカのアンドロイドの性能とやらを

 体育館中に、大きな声が響き渡る。敷き詰められたマットの上で、乱取りをする(やわら)の道を歩む若者達。その中で、ひときわ大きな体躯を誇る、ミク・キャサリン・クラーク。組む相手が呆気なく倒され、投げられ、ねじ伏せられてゆく。誰も、彼女を止めることはできない。

 プリヤンカは、なかば飽きれた表情でその乱取りを見ている。

「あたしの監視、いらないんじゃない?」



 全員、並んで挨拶をする。今日の練習は終わる。やっと終わったと、浅いため息をつく。その時、ミクをコーチが呼び止め、控室に入って行った。

「なにごと?」




 囲碁教室の前で、彩が出てくるのを待つ龍之介。

 時間になり、出てきた彩の跡をつける。なんのトラブルもなく、家に着く。ほぼ、同じタイミングでミクが帰って来る。期せずして、プリヤンカと龍之介が合流する。

「問題ないね」

「気が抜けるぐらい、なにもないわね」

 その時、ふたりにメッセージが届く。

 『追加任務。横田ハウスで同居を初めた、デイフィリア・ディックについても、保護観察せよ』

「人使い、荒いな」




 龍之介が自宅マンションに帰る。部屋には、複数のPCとモニターがある。キーボードを叩き、今日の業務報告をする。そこへメールが届く。

 『アンのハッキングに成功した。システムへ侵入し情報を入手せよ。必要なコードを添付する』

 ニヤリと笑う。

「見せてもらおうか、アメリカのアンドロイドの性能とやらを」




 夕餉の時。ミクが言う。

「今日、クラブの先生に言われたんだけど、あたなは当クラブで指導できないくらいレベルが高い。体育大学に紹介状を書くから、そこへ通ってみないか? って」

「いよいよオリンピック選手か」

「遅かれ早かれ、この日がくると思ってたけど、意外と早かったね」

「ミクさんは寮生活になるから、ここを出て行くんですね」

「ちょっと! なんで行く前提で話しが進んでるのよ」

「行くだろう」

「行かなきゃもったいない」

「お元気で」

「行かないよ!」

「行かないの?」

「なんで?」

「是非、行くべきでしょう」

「みんな、あたしを追い出したいんだね」

「まさか」

「こんな機会、めったにないよ」

「いなくなればいいのに」

 ボソ。

「彩、今なんか言った?」

「別になにも言ってないわよ」


「まじめな話、才能があるんだったら、行くべきだと、俺は思うよ」

「あたし、オリンピック目指して柔道やりたい訳じゃないんだけどなあ」

「遊びだというのなら、本気で柔の道を歩んでいる人に失礼な話ね」

「遊びで囲碁をやってる彩も、本気で棋士の道を歩んでいる人に失礼ってことね」

 ミクと彩は、バチバチと火花を散らす。

「まあ、ふたりとも。習い事へ姿勢は人それぞれだから」

「ミクさんはそんなに強いの?」

「道場の先生より強いかも」

「それは、先生の立場ないね」

「一度、見学してみたら良いんじゃないかな。行く、行かないは、その後、決めればいい」

「それじゃ、今度行ってみようかな。誠、付き合ってよ」

「え? 俺が。柔道のことは門外漢だよ」

「誠が一緒に行ってくれたら心強いし」

「まあ、そう言うなら、いいよ」

「やった」




 アンは夕食の後片付けをしていた。普段どおり、食器を軽く洗って食器洗い器に入れる。ただ、それを繰り返すだけ。黙々と、繰り返すだけ。


 パリン!


 皿を落とした。試験運用では、それこそ山のように割っていた。

 一瞬、なにが起こったのか理解できなかった。足元で砕け散る皿を見て、初めて自分が、実地運用でミスをしたことに気がついた。実地運用が始まって一ヶ月を過ぎている。こういうこともあるのだろうと、気持ちを切り替えて、割れた皿の掃除をする。

 掃除をしながら、どうしてミスをしたのか、自己修正プログラムを走らせる。エラーは発見されなかった。エラーが発見されないことが、一層気持ちを混乱させた。




 ミクと誠は、体育大学の道場にやって来た。道場では、オリンピック養成選手が寸志の時間を惜しんで訓練にいそしんでいる。

「本格的ですね」

「マジだね」

「帰りましょう」

「なんで!?」

「別に、オリンピック選手になりたい訳じゃないし」

「でも、せっかく来たんだから」

「気乗りしないなぁ」


 道着に着替え、同じランクの人と軽く組み合わせる。さすがのミクも、本場で鍛えられた強者には敵わない。負けず嫌いに火が点いて、このまま通うことになりそうだな。


「いやー、まいりました。やっぱり、あたしはクラブで遊んでるくらいがちょうど良いです」


 あれ?




 結局、本気でやるなら寮住まいになるので、不定期だが、練習生として通うことにした。それ以外は、いつものクラブで、コーチとして働く。期せずして、アルバイトにつくことができた。

「これからもずっと、誠と一緒に住めますね」

「言い方」




 アンは、毎日のルーティーンどおり、朝食の後片付けをし、洗濯と掃除をして、正午過ぎに家を出た。頭の中にお買い物リストを作り、スーパーへの道を歩いていた。そこに、星龍之介が現れる。

「こんにちは」

「こんにちは」

「アンさん。ちょっとお話があります。ご同行願えますか?」

「はい」

 何の疑問も抱かず、アンは龍之介に着いて行く。行き先は龍之介が住むマンション。部屋には、何本ものケーブルが接続されたマッサージチェアがある。

「そこに座ってください」

「はい」

 座ったとたん、眠るようにアンは気を失った。




 遠くで誰かが呼んでいる声が聞こえる。

「アン」

 呼ばれてる。なぜ、私を呼ぶの? 私はここにいますよ。

「アン」

「アン! 起きて」

 ハッと、アンは目を覚ました。

「こんなところで寝て、風邪引くよ」

「めずらしいね。アンが寝落ちしてるなんて」

 その時、初めて、自分がソファーで寝ていることに気がついた。

「申し訳ございません。どうやら寝てしまっていたようです」

「だいじょうぶ?」

「はい。大丈夫です」

 アンの周りを、誠、陽子、ミク、彩、デイフィリアが取り囲み、凝視している。

「ご飯、まだ?」

「申し訳ありません。今から作ります」

 時刻を確認すると、18時32分。

「今から作ると、遅くない?」

「申し訳ありません」

「昼寝ぐらい誰でもするさ。今日は外で食べよう。みんな、なに食べたい?」

「ピザ」

「肉」

「寿司」

「バラバラだなぁ。キャンディは残業だし、ファミレスに行くか」

「「「オー!」」」


 みんなで外出の準備をしている時、アンだけがそのままソファーに座っている。

「アンも行こう」

「私は、遠慮します」

「別に、みんな怒ってないよ。お腹減ったでしょ」

「私は、その…」

「なに?」

 その時、デイフィリアに言われた言葉を思い出した。

「はい。行きます」




 暮れなずむ道を歩く女5人と男ひとり。誠の両隣を、ミクと彩が歩いている。

「ちょっとミク。誠に近づきすぎなんじゃない?」

「そう?」

 ミクはおもむろに、誠の腕に、腕を絡める。

「ちょ!」

 ニヤニヤと彩を見るミク。

 彩もやりたいが、そこまでの勇気はない。



「ねえ、妹ちゃん」

「妹ちゃん? なんですか、デイフィリアさん」

「ミクと彩って、仲悪いよね」

「あー、それはですね。なんというか」

「誠でしょう」

「どうしてわかるんですか」

「見てればわかるよ。私はお父さん。横田優人さんにすごい助けられたから、その息子君ってどういう人なのか、興味あるんだよね」

「兄は父ほど頭は良くないですよ」

「人柄なのかなあ。一度、デートでもしてみようかな」

「え!?」

「なにぃ。妹ちゃんとしては兄の彼女が気になると」

 ニヤニヤ。

「別に、気にならないです」

「そういう妹ちゃんは彼氏いないの?」

「いません」

「そうなの? 美人なのにもったいない」



 ファミレスでも、誠を中心にして三人が並んで席に座る。前の席に、陽子、デイフィリア、アンの三人が座る。

「さて、何食べようかな」

 五人がメニューを見ている時、アンは言った。

「みなさんに、お話があります」

「なに?」

「私は、アンドロイドです」

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