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漆黒のサタン  作者: nurunuru7
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9、ユーロン川

漆黒のサタン9、ユーロン川


朝になり私とアスモデウスは着替えて施術協会へと向かった。

青毛のサラブレッドに乗りパカパカ町を歩く。


「やっと出発だ」

「随分楽しみにしてるのね」

「私が?楽しみに?そんなことはないぞ?」

「よく言うわよ。ウキウキしてるのがバレバレよ」


心待ちにしていたピクニックにはしゃいでいる子供みたいに言うとは。心外な。


施術協会の裏口には馬車の準備がもうできているようで、スカーレットとバーミリオンが白いペルシュロンの前で話していた。


「おはよー。いよいよ出発ねー。準備できてるからお馬さんを繋げたらすぐに出れるわよ」

「昨日も思ったが、なんで馬が剣をくわえてるんだ。お前が持てよ」


スカーレットとバーミリオンが言った。


「背中に背負うとサラが邪魔だろう」

「それでくわえさせてたの?妙なことしてるとは思ったけど、自然にやってたからそれが普通なのかと勘違いしてたわ・・・」


ピュースとバーミリオンが私のサラブレッドを幌に繋いで準備をしてくれた。

私とアスモデウスは後ろの幌に乗り込む。

当然ながらいろんな物が積まれている。

樽に箱にテントの布、武器も一応用意しているようだ。

内部に所狭しと並んでいる。

クリムゾンがそれを一応整理して片付けている。


「こ、これで準備は万全です。ドキドキしてきました」

「みんな初めての旅なのだな」

「そ、そうなんです。私はこの町から出たことがなくって」


頼りないが、大丈夫なのだろうか。

そこにスカーレットも幌に乗り込んできた。


「さーて、旅の途中あたしは落花生をバンバン弾いて実を取り出さなきゃいけないから、みんなどんどん食べてねー」

「まさか買ってきた食料とは落花生だけというわけではないだろうな?」

「あはは。まさかー。ちゃんとパンやチーズ、干し肉に缶詰めも大量に買ってあるわよ」


数日間、落花生の実だけ食べていたら鼻血が出てしまいそうだ。


「樽には水が入ってるのね」

「そうそう。10日分と考えると若干足りるか心配だけど、あんまり積むとお馬さんが大変かと思ってー」


アスモデウスにスカーレットが答える。


「それなら心配ないよ。前半はユーロン川に沿った街道を走る事になる。水はいつでも補充できるからね」


ピュースが御者席に座って会話に入ってきた。


「見晴らしの良いなだらかな街道だ。最初はのんびりドライブ気分で楽しめると思うぜ」


バーミリオンも幌に乗り込んできた。


「よーし、出発だ。一路グワランに向かって開発室一同しゅっぱーつ」


ピュースがそう言うと、馬の尻に鞭を打って幌馬車は動き出した。

町の外壁に向かってパカパカと蹄の音がこだまする。


中央にそびえるアーガマの王宮。放射状に大通りが八方に伸びて高い外壁にある門まで続いている。

現在明るいうちは門は開けっ放しになっていて、誰でも出入りできるようになっている。

私も何度か青毛のサラブレッドに乗って出入りした。

町は活気があり、人だかりがあちこちにできて、それぞれの生業に精を出しているようだ。


その中を白い幌布を被った我々の乗った馬車が駈けていく。


車内は横幅2メートル、縦4メートルちょっとと狭くもないが、5人と荷物でごった返していて快適というわけでもない。

ガタガタゴトゴトと不快に揺れて開始早々憂鬱になってしまいそうだ。

これが往復で10日間続くのか・・・。


町を出るまでに数時間はかかる。布で覆われているので外を見れるのは御者側か、後ろの出入口しかない。

つまらん。


アスモデウスの弾む胸をしょうがなく見ていると、スカーレットがアスモデウスに話しかけた。


「そうそう。この旅の目的にも関係することだから最初に言っておきたいんだけど、サラさんのパウダーを増殖する施術。これってあたし達が使ってもいいものなの?」

「と言うと?」

「これって相当利益が見込まれる施術だと思うのよ。あたし達施術協会は非営利団体でしょ?あたし達が自由に使ってもあなた個人には利益が入らない。もし、これを使って商売すれば莫大な利益が得られるかもしれない」


なんだと?莫大な利益とはいかほど・・・?


「現在理事長一人が独占しているパウダーの供給を二分するようなことになれば、施術開発に携わる業界から引く手あまたになるかもしれない。施術協会からの供給は無償だけど、供給量と頻度に不満を持っている大きな部所からは注目されるのは間違いないわ。適当に4人でやってるあたし達でさえ正直不足がちなんだから。そういうところはお金も有るだろうから、お金で買えるなら飛び付くかも」

「私はそういうのに興味無いから、自由にしてもらって・・・」


アスモデウスが考えもせずに答えようとするので私は飛び付いて胸を揉んだ。


「待つのだ!少しは考えるのだ!」

「キャー!!なにするのよ!?」


アスモデウスからハラパンが飛んできそうだったが、スカーレット達の目を気にして途中で止めた。


「はっ!・・・もうなにすんのよ」

「なにすんのよ。ではない。よく考えろ。お金が儲かれば宿の家賃どころか、町の一角ごと買えるかもしれないのだぞ?」


私は手に力を込めて胸を揉みしだいた。


「いい加減離してよ!」


アスモデウスは体をよじって私の手を振りほどいた。


「魔王の玉座どころの話ではない財産が産み出せるかもしれんのだぞ!?」


私はアスモデウスの耳元で囁いた。


「あまり人目に触れると、施術ではなく魔王の娘の能力だってバレるかもしれない危険もあるでしょ?」


アスモデウスも私の耳元で囁いた。


「魔王に娘がいることは世間には知られていまい。勘ぐられても知らん顔をしていればいい」

「昨日も言ったけど、いつどこぞに魔王の城に似た私達の城が発見されてもおかしくはない。娘かはともかく、魔王の仲間や親族が隠れ住んでる憶測が飛び交っても不思議はないと思う。それに例え私が大儲けしたってあなたには関係ないでしょ!」

「そんなー」


アスモデウスは大儲けするつもりは無いというのか。

口をつぐんで耳元から離れるアスモデウス。


「まあ、タダで使わせてもらえるなら俺達はありがたいがな」

「理事長に会うまでにまだ日にちがあるんだし、会うまでに一旦考えてもらって、答えはその時に報告してもらいましょうか」

「そ、そうですね。じっくり考えてみたほうがよいかと、お、思います」


私達がこっそりひそひそ話をしていると、バーミリオン、スカーレット、クリムゾンがそう言った。


「そうですか?それじゃあ、もう少し考えてみます」


アスモデウスが申し訳なさそうに3人を見て、最後に私をキリッと見つめた。


とりあえずは馬鹿正直にタダでくれてやる真似を防げた。

私はホッとした。



暇なのでクリムゾンに崩袈裟固の押さえ込み技などをかけて遊んでいた。


「うわーっ!な、なにをするんですかー!ぎ、ギブで、すぅーっ!」

「もうギブアップするのか?張り合いが無いではないか」


私は苦しんでいるクリムゾンをさらに締め上げた。

脇をクリムゾンの胸に押し当ててクリムゾンの右腕を左脇でロックし、右手で首筋を掴む。


「突然なにやってるのよ。狭いんだから暴れないでよ」


アスモデウスが冷静に突っ込んだ。


「クリムゾンちゃんも大変だけど、ルーシーちゃんもスカートの中が見えそうになってるわよー」


スカーレットが私に注意した。


ハッとして私とクリムゾンがバーミリオンを見ると、サッと目を逸らした。

ミニスカートを履いているのだから足を広げれば見えてもおかしくない。が、それを横目でジロジロと見ていたとはいやらしい奴だ。


「行動が10歳の男児みたいだな。暇だからってじゃれるなよ」


バーミリオンが目を逸らしたまま言い放った。



「なにして遊んでんだい?いよいよ町を出るよ」


御者席のピュースが我々に話しかけた。どうにか大きな外壁の門に到達したようだ。

私達は御者席側の幌から顔を出して外壁の門を見た。

私は何度か通ったので感慨というものは無いが、やっと旅が始まるのかという安堵はある。

門には衛兵が暇そうに2人立ってはいるが、通る者は多くはなく、活気があるとは言えない。開けっ放しの門を何事もなく通り抜けると一面見渡せる平原。西には大きな大河、ユーロン川が流れている。


「理事長は一昨日ここを通って南下したのね」

「しばらくは見晴らしの良い平原の街道を進むんだったな。ユーロン川沿いの」

「問題のソロモン山脈まではね」

「こ、このユーロン川はソロモン山脈から流れているので、ず、ずっと川沿いの街道を行くことに、な、なるんですね」


スカーレット、バーミリオン、ピュース、クリムゾンが口々に旅の道筋を話す。


「150キロメートルを2日かけて走らせる。走るのは明るい時間だけ、昼には食事もかねて1時間馬は休ませる。それを越えれば件のソロモン山脈だね。と言っても険しい崖を通るわけではなく、麓を通る蛇行した山道を大きく回って行く事になる」


ピュースが付け加えた。


「問題はソロモン山脈にいると思われる山賊ってやつだな。理事長に2日遅れて通る事になるが、理事長の隊は6人の護衛付きだ。今までの事も考えると襲わない可能性もある。だが俺達は護衛らしい護衛もなく、男2人に女4人。そいつらにとっては襲いやすい鴨が葱を背負って歩いてるようなものだ」

「なのでソロモン山脈では水場には留まらずに最短で抜ける道を歩きたいね。一番狙われる場所だろうからね」


バーミリオンとピュースがさらに続ける。


「怖いですね」

「私が護衛しているのだ。気にせずにのんびり行っても構わん」


アスモデウスと私が言う。


「腕は確かでも見た目が女じゃあ、山賊にとってはご馳走みたいなもんだろ」


バーミリオンが私の体をなめるように見て言った。


「おおー怖い。お前も私の足をジロジロ見ていたものな。お前にとっても私はご馳走なのか?」

「ば、馬鹿なこと言うなよ!」


バーミリオンが顔を赤くして否定した。

クリムゾンがふくれたような顔をしてバーミリオンを睨んだ。


ん?待てよ。なぜクリムゾンは今バーミリオンに対して怒ったのだ?

呆れるとか、軽蔑するとかではなく、怒りを露にした。


そうか。バーミリオンはクリムゾンの出したモチを焼くことができる。

二人はモチ焼きコンビなのだな。


納得した私は一人で頷いた。



見渡す限りの平原に見飽きて幌の中に引っ込む一同。

幌の後方に見える高い町の外壁が徐々に遠ざかるのを見送りながら、いよいよ出発したのだなと身震いする。

スカーレットはゴソゴソと馬車の端に寄せた箱から落花生の入った紙袋を取り出した。


「お仕事もしなくっちゃー」


底の深い陶器の皿に落花生を山盛りに盛って、それを床に置き、手のひらをかざし念を込めるように落花生の殻をパンパンと割っていく。

床が殻も実も弾けて溢れるように散らかってしまった。


「おいおい。その術は本当に役に立つのか?床が散らかるだけではないか」

「うーん。おかしいわねー。爆散しちゃって実を取り出すのが面倒だわ。次は殻と実を分別する施術を開発しなきゃ」


そんなものを作る手間があるなら手で殻を割った方が早いような気がする。

まあでもセットで使えたら便利なのだろうか。


それはともかくガタガタゴトゴト揺れるだけで、暇なことこの上ない。

初めての集団での旅に期待していたが、移動中はただ退屈なだけだ。

私は早速眠くなってしまった。

まだ町を出て時間も経ってもいない、昼前だというのに。

見晴らしの良い平原だし、ここで襲われる事もなかろう。


私はちょっぴり眠ることにした。



zzz



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