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漆黒のサタン  作者: nurunuru7
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19、グワラン6

漆黒のサタン19、グワラン6


ドレスとジュエリーを見繕ってもらった私とアスモデウス。

ジルとミリーに再び別れを告げて、今度は馬車に乗せられどこかに連れていかれている。


「あの服と宝石は我々がもらっていいのか?」

「いいよ」


服はいつもの普段着に着替えている。買ったものは宿の部屋に運んでもらって週末にあるというパーティーまでお預けというわけだ。


私の質問にマゼンタが興味なさそうに答えた。


心なしか笑顔が溢れる私とアスモデウス。

まったく関心が無かったはずのものなのに、もらえると思うとついつい嬉しくなってしまう。

私もやっぱり女子ということなのか。


ジルとミリーのお店から遠く離れた南西に進んでいるようだ。

途中モーリンが落ちたという道の段差を行き来するリフトにも乗った。

馬車から一旦降りて、渡し守が操作しゆっくりと動く大きな鉄の板の上で戦々恐々とする。

高さは1.5メートルほどなので飛び降りてもなんということはない。

こんなところでよく落っこちて足を挫いたな。


一回の運行で結構な人間が乗り込んでいた。横に階段もあるので歩きならそれを使えばいいのに、よほど物珍しいのだろうか。

昇り降りでそれぞれ5分くらいかかるようで、最速で次乗るには10分の待ち時間がかかる。

大きな通りなのでそれくらい待たされれば、それなりに順番待ちの人も増えるのもやむなしか。


「次はどこに向かっているんです?まだパーティーの準備があるんですか?」

「そうだ。次はクィーンアメリアスというサロンに行ってもらう」

「サロン?」

「髪と爪の手入れだな。綺麗に整えてもらえ」


アスモデウスと私の質問にそれぞれマゼンタが答えるが、ますますもって興味がないものだ。

閉口してしまうが、こうなっては最後まで付き合ってやらねばならんらしい。

もうどこにでも連れて行けという気分になっている。



町の正門近くに宮殿のような建物が建っていた。

一見何の建物かわからないが、これがヘアサロン、ネイルサロンだというから唖然とする。

そこでふかふかのソファーに座らされ髪と爪の手入れを同時に受ける。

まるで王女様という待遇に、よもやここまでするのかと呆れ果てる。


うやうやしくスタッフに送り出されると、更に馬車に乗って別の場所に移動だ。

東へ一直線、今度はマッサージとアロマで癒しの時間だという。

ガーディダンサーという店らしい。

マット台にうつぶせに寝かされて、薔薇の香り漂うアロマに尾行を刺激されながら、マッサージの施術を全身くまなく受ける我々。


普通の女子ならばこういうのを喜ぶのだろうか。

まあ大げさとは思うが、悪くはないか。


途中昼食をはさんで腹ごしらえをしたが、それは別段豪華というわけではなく、その辺の普通の定食屋でがっつり皿うどんを食べた。

不味いというわけではなく、むしろ野菜やエビ等の具が大きく、食べごたえがあって美味しかったのだが、朝から一連の夢のような待遇からすると、ギャップで冷静さを取り戻しそうになる。

食に関してはパーティーまでお預けということなのか。



買い物、サロン、マッサージと移動を合わせて時間をかなり費やした。

マッサージを終えて馬車で帰路につく頃には空は紅く染まっていた。

今日1日無駄に過ごしてしまった気がしてもどかしくもなる。

これも魔法の粉というやつのためだが、いったい私達になにをさせようとしているのか?

今日は水曜日。週末にあるというパーティーまでまだ日にちがある。

今日はもう終わりのようだが、それまでどうするつもりなのか。


北西に向かって馬車はすすむ。

リフトの昇りも一回はさんだ。このまま行けば元の宿のグロムリンに戻る計算だ。


「宿に戻るのか?」

「いや、タイタニアに行く」

「え?パーティー会場にですか?まだパーティーはやってないんじゃ?」

「パーティーは週末だが、そこも宿泊はできる。安い部屋ではなくゆっくりできるだろう」


私とアスモデウスの質問にそれぞれ答えるマゼンタ。


グロムリンでカジマが理事長は数日戻ってこないと言っていたが、出ていく先はパーティー会場とやらだったのか。

宿に泊まっているのになぜ別の宿泊先に寝泊まりする必要があるのだ?


やっとゆっくりできるかと思ったが、かえって気がおけない感じがするではないか。



辺りは暗くなり、馬車は5階建ての宿グロムリンを通り過ぎる。

そのままとまらずに北上する。


スカーレット達はなにをやっているだろうか。

カジマが護衛の手配をすると言っていたが、まさかもうアーガマに帰っていたりするのだろうか?

もしそうなら、週末のパーティーで粉の秘密を知りさえすれば施術協会にはもう用はない。

あいつらとももう会うことはないだろう。


浮世離れした今日の1日と合わせて、随分遠く離れてしまったように感じてしまう。

だが、そもそも私とアスモデウスは偽名を使って潜入してきた赤の他人だ。

もともと無関係な存在だったのだ。

とはいえ最後に別れの挨拶くらいはしておくべきだったか。

少し心残りができた。


そう考えていると、程なくして馬車はとまった。

高い塀に囲まれた大きな邸宅。そう表するのが適当だろう。

高い鉄格子の門が開き、馬車が入っていく。

広い敷地の中の芝生を駆けていく馬車。後ろを見ると入ってきた門が警備員によって閉じられていく。


我々が次ここから出られるのはいつになるだろう。

得たいの知れぬ絢爛甘美な檻のなかに閉じ込められてしまった気分になる。


アスモデウスも私の顔を不安そうに見ている。

私はそのアスモデウスの手を握った。


所々に植えられているブナの木の列を通り過ぎると、白い屋敷が見えてきた。

円形の池垣と正面玄関の間に、我々の乗る馬車とは違ったもう一台の馬車がとまっていた。

構わず我々の馬車は正面玄関の前にとめられる。


マゼンタが降りていく。


「さあ、着いたぞ。降りようか」


我々もそれに習う。

やっと足が地につけられた感じで背伸びでもしたい気分だ。


見ると、屋敷は2階建てだがかなり広いようだ。白を基調とした壁で清潔感がある。

と言うより、まるでオモチャのようで生活感がない。


我々が馬車から降りたのを見計らってか、とまっていた馬車の車のドアが開き、使用人らしき男達の手で荷物が下ろされた。


我々が朝一番に買ってもらった衣装や宝石、他にも我々の手荷物が見受けられた。


「我々の荷物ではないか。持ってきていたのか」

「そうだ。運ばせるからほっとくといい」


私にマゼンタが言う。

見るともなくその様子を眺めていたが、私とアスモデウスはハッとしてその馬車から下ろされていく荷物を注視した。


我々の荷物と共にアレがここに運ばれていたからだ。


そう、マゼンタの部屋に置いてあった木の箱。破邪の剣が入っていた例の箱だ。


いつどこでなにに使うつもりなのかはいまだ不特定だが、意外にも本番とやらは近いらしい。


荷物は数人の使用人によって屋敷の中に運ばれていく。

我々もそれを追うように屋敷へと入る。


玄関を入れば大きなホールが待っていた。

左右に部屋の扉がいくつかあり、正面には二階に続く階段が蛇行して伸びている。

その蛇行した階段から一人の若い女が降りてきていた。


「ようこそタイタニアへ。土曜の夜にいつものパーティーを催します。それまでこの屋敷でごゆるりとお寛ぎ下さい」


若い女は妙な感じがする。

着ている服は清楚な感じのふわりとした白い長袖のシャツ、青いロングスカートとお屋敷住まいの女性という出で立ちなのだが、薄い紫の長い髪が左右に広がってそれが目を引く。


「またお邪魔させてもらうよ。しかし・・・君は?」

「ウフフ。申し訳ありません。当主イズナリオは病床のためベッドに伏せております。夜には出られると思いますが、普段の応対などは私が請け負っております」

「そうだったのか。この数ヶ月でなにかやらかしたのかな。しかし・・・君は・・・」


私達と同じようにマゼンタもこの女を不自然に思っているのか同じ言葉を投げかけた。


「私を覚えてくれていましたか?そうです。以前お会いしたときは私はここの使用人の一人でした。ですが当主イズナリオに見初められ娘としてこの家に迎えていただきました」

「養女・・・に、なったのか」


女を見て目を丸くするマゼンタ。

我々の知らないところでなにやらいつもと違う出来事が起こっているらしい。


「私の名前はバエル。以後お見知りおきを」


女がそう言ってお辞儀をした。

私とアスモデウスはハッと目を合わせる。


バエル・・・。聞いたことのある名称だ。

かつてどこかの王が72人の悪魔を従えたという伝説があった。その悪魔の中の一柱。


我々7人の魔王の娘とべリアル、アスタロトという隠し子たち以外の若い娘で悪魔の名前を名乗る者がそうそういるはずもない。

もしかするとコイツも魔王の隠し子の一人だというのではないだろうか。


「部屋に案内します。どうぞこちらへ」


バエルは降りてきた階段を上る。

それについていく我々。と荷物を持つ使用人たち。


「このグワランにはアーガマのように王族というものはいない。ソロモン山脈の資源を求めて集まった集落が町のはじまりだからだ。そして集落ができる過渡期において様々な分野で活躍した者たちがこの町の礎となり、各職の長として代々役割を担うことになった。このタイタニア当主イズナリオはグワランにおいて政治を統括している。他に6人いる七星老のトップとも言えよう」


階段を歩いていると誰も聞いていないのにマゼンタがつまらない説明をはじめた。


「現在は当主イズナリオではなく私の兄であるマクギリスが表舞台に立ち、執務を行っております。お忙しいようで遅くにまで帰ってこないことがままあります。今日もまだのようです。夕食までには帰られると思いますのでそのとき挨拶してあげてください」


先導するバエルが言う。


使用人から養女となり、それまで仕えていた人間を兄と表するのはどんな気持ちなのだろう。


「マゼンタ様はこちらのお部屋をお使い下さい。お連れのお二方は向かいの部屋をどうぞ」

「悪いな」


階段を上がるとすぐに奥まで長い廊下が伸びている。その左右にドアがあり、かなり広い間隔で奥まで部屋があるようだ。

マゼンタは我々が案内された向かいの右の部屋に入っていく。破邪の剣の入った箱を抱えた使用人たちもそれに続く。

左には我々の荷物を持った使用人達が入る。

破邪の剣を横目に見送りながら我々もそれに続く。


そこでは広い部屋が我々を出迎えた。

グロムリンの我々の部屋どころか、マゼンタの部屋よりも大きな部屋だ。

奥にテラスもあり、寝室、リビング、トイレと浴室とこの部屋だけで生活できそうなくらいだ。

調度品も白を基調としたゴシックなものを取り揃えているようだ。


「お気に召しまして?」


バエルも部屋に入ってきていて、唖然としている我々の感想を聞いた。


「凄い部屋ですね。こんな部屋使っていいんですか?」

「もちろんです。お客様ですから」


アスモデウスが社交辞令的に感想を述べ、バエルが返す。


「聞きたいのだが」

「はい。なんなりと」

「お前の名前は本名なのか?」

「は、はひぃ?」


私が質問すると、淑女然とした態度だったバエルが妙な声をあげた。



「バエル。ちょっと周りには聞かない変わった名前だな?確か悪魔の名前だったかに同じ名前があったが、そんな名前を親に付けられたのか?」


私は自分のことを棚にあげて興味津々というふうに聞いてみた。


「さ、さあ、親は知りませんの。幼い頃に捨てられたもので。でも名前だけは付いていたようで、もちろん本名として名乗っておりますわよ」


変な名前を付けられている事には私も同様なので同情するが、それよりもかなり焦っているような態度が気にかかる。

とりあえず偽名や通称といった類いのものでないということと、やはりアスタロトとべリアル同様捨てられたということがわかったので、かなり高い確率で魔王の隠し子である可能性が出てきた。



いったい何人の隠し子がいるのだ。

突然意表を突かれて登場してきた妹に驚きを禁じ得ない。





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