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漆黒のサタン  作者: nurunuru7
18/20

18、グワラン5

漆黒のサタン18、グワラン5


私とアスモデウスとクリムゾンで朝食を終え、まだまだ時間もあるがやることもなし、やはり時間まで部屋で休むことになった。


部屋のベッドでそれぞれ横になっている私とアスモデウス。

急とも言える状況の変化に心の整理を付けていたいところなのだが・・・。


私は大浴場での一件でふと昔を思い出す。


魔王の城の最奥に壁が崩れて外の湖と一体となった水場がある。

城の裏は断崖絶壁に囲まれて、北側からは何者をも侵入させない天然の要塞となっていた。

そこが我々の水浴びの場所だったのだ。

よくみんなで入って遊んだものだ。


「なあ、私達7人はまた魔王の城で一緒に暮らせんのかなあ?」

「さあね。昔と違ってもうみんな大人なんだし、それぞれ違った生活もあるんじゃない?」

「そうか」


少し横になるだけのつもりだったが、うつらうつらしながら眠ってしまったようだ。感傷に流されてしまったのか、昔の夢を見た。





ベルゼブブ「なあ、この湖の先、どうなってるんやろうな?」

ルーシー「どうって。ただの湖でしょ?」

ベルゼブブ「そやけど、誰も見たことあらへんのやろ?」

アスモデウス「先が見えないくらい広いようだしね」

ベルゼブブ「気にならへん?外に繋がってるかもしれへんで?」

マモン「ぜんぜん気にならない。めんどくさっ!」

ベルフェゴール「ブブは・・・気に・・・なるの・・・?」

ベルゼブブ「見てみたいやんか」

サタン「好奇心というやつか」

アスモデウス「相当広いみたいだから泳いで行くのは難儀ね」

リヴァイアサン「あら、私は泳ぐの得意よ」

ベルゼブブ「ほな競争する?」

ルーシー「競争?」

サタン「ほう、やるというのか?」

マモン「あー、バカ。めんどくさいことになりそうじゃない」

アスモデウス「あはは。そうね。私は得意じゃないからやめとくけど」

マモン「私もやんないって」

リヴァイアサン「じゃあ5人で湖の向こう側まで競争ね」

ベルゼブブ「うっふっふっふ。ほな行くでー!」



結局、私とルーシーが同着、ベルゼブブに続いてベルフェゴール、ビリでリヴァイアサンが到着。得意と言ったくせにお前が最後かと笑ったものだ。

潜水の長さなら私やルーシーに一勝できたかもしれないのに、思いつかなかったのだろうか。

湖の先には特に何もなく、断崖絶壁が垂直に伸びているだけだった。


そんなしょうもない記憶を夢に思い出していた。





9時30分頃、待っていても退屈なだけなので、いつもの服に着替えて宿のラウンジに出てみることにする。

マゼンタはまだ来ていないようだが、カジマとその仲間の護衛隊の一同がゾロゾロ出揃っていた。


「さあて、本日から3日間お休みをいただくわけだがぁ、ここを離れる場合、一応理事長の動向は日に一回様子を見て、各自判断してもらおう」


リーダー各のフィリップという男が残り5人の男に説明していた。


「特にカジマぁ。お前は戦績が良いからってサボってんじゃねぇぞ」

「え?俺サボってたことなんてありましたかね」

「とぼけんじゃねぇ。一昨日お前どっかにほっつき歩いてただろう。待機だって立派な命令なんだ、命令違反は厳罰に処されるんだぜ」

「なんだ、バレてたのか」

「なんだ、じゃあぁねぇ!どこほっつき歩いてやがった!?」

「ちょっと町にね」


ばつが悪そうに頭をかくカジマ。

そうこうしているとマゼンタもラウンジに降りてきていた。


「まだここに残っていたのか。私達はもう出るぞ。お前達も羽を伸ばしてこい」

「一応お見送りだけはと思いましてね。それではハムスター隊本日より休暇をいただきます。お疲れさまです」

「フン、暑苦しいな。それより、もう来ているようだな。ちょっと早いが歩くと距離もあるし我々も出ようか」


私とアスモデウスを見ながら話しかけるマゼンタ。

頷く我々。



宿を出て隣の大きいお店へと足を運ぶ。

看板にはセンチュリオと書かれてある。天使の銅像が屋根の上に立っていることは前にも書いた。

3階建ての大きな建物だが、横に広く、更に広い敷地の真ん中に聳えているので、結構な距離があった。

普通は馬車で近くまで寄るそうだが、隣の宿からでは馬車の手配の面倒さとどっちもどっちだろうか。

敷地のほとんどは馬を繋いでおける馬屋のような社屋が並んでいて、馬車で来た客を御者が見ておけるように施されているようだ。


列のように並んでいる社屋は馬車何台分置いておけるのかという広さだ。

開店前だという今現在もあちこち馬車が駐車して社屋のスペースを陣取っている。


それを横目に歩道として作られた端の細い道を我々3人歩いている。


「かなり大きいお店なのね。ここのどこかにジルとミリーが働いているそうだけど、探せるかしら?」

「昨日は暗かったし距離感が掴めなかったが、こうして近くに寄ってみると驚きだなぁ」


アスモデウスと私が感嘆の声をあげる。


「敷地は3万㎡くらいある。食品、家具、衣類、装備に雑貨。なんでもある。ここで揃わないのもを探す方がコトだな」


なぜかマゼンタが自慢気に説明する。


なんということだ。私の知らないうちに世間はこんな大規模な商業施設を有するまでに発展していたのか。

なるほど。これも施術とやらのサポートの成果というなら、大陸で唯一施術の根幹を握っている施術協会理事長がこうして得意になっているのも理解はできる。


そこらの建物一棟ほどの大きさはある入り口に入ると、列をなして並んでいる食べ物の陳列台が我々を迎える。

それに驚いていると、マゼンタは入り口入って横の階段に進んで我々を手招きした。


「衣類は3階だ。ここから上がるぞ」


なんと階段は足を動かさずに階段の方が勝手に動いている。

動いている階段に飛び乗らなければいけないではないか。


「おおお。なんだこれは。なんの呪いだ」

「エスカレーターというやつね。話には聞いたことあるけど、見たのは初めてだわ」


私とアスモデウスが驚く。


「タイクーン公国は技術革新に積極的だからな。まだ確立されていない技術でも試験的に実用している。なあに、お前達が頑張ればそのうちアーガマでも見れるようになる」


マゼンタは自動で昇っていく階段で上に上がっていった。



3階につくと、フロア一面に実用的だったりきらびやかだったり、様々な衣類がハンガーにかけられ並べられていた。

誰が買うんだというような金色の刺繍で覆われたコートだったり、うさぎや熊の着ぐるみだったり、ちょっとえっちなボンテージだったり。目を見張るものがところ狭しと置いてある。


「あ、ルーシーさんにサラさん」

「それに理事長さんも」


物珍しそうにフロアを物色していた私とアスモデウスにジルとミリーの声がかけられる。


「おお。お前達はここで働いていたのか」

「はい。店長に事情を話したら労ってくれました」

「数日休んでもいいって言われたんですけど、ルーシーさん達が来てくれるかもしれないと思ったので今日も出て来たんです。早速来てくれたんですね」


私にジルとミリーが駆け寄る。


「もともと来るつもりだったんだけど、理事長さんに連れて来られたの」

「見つかったんですね」

「ということは例のあれですか?」


アスモデウスにジルとミリーが答えマゼンタを見る。


「知り合っていたのか。そうだ。見繕ってやってくれ。とびきりのやつをな」

「わかりました。こちらです。どうぞお客様」


私達を手で案内するジル。


なんだ。マゼンタと知り合いだったのか。

泊まってる宿が隣だし、ここも度々利用していたというなら不思議はないか。


「服を買ってもらっても、今着ている服でじゅうぶん間に合っているぞ?」

「週末にパーティーがある。それに着ていく服はそれでは不足だろう。せいぜい着飾らせてもらえ」

「パーティー?」


私が質問するとマゼンタは事も無げに目的を話してくれた。

私とアスモデウスは顔を見合わせる。


ジルとミリーの案内について歩くと、大量のドレスを飾った一角にやって来た。

赤やら白やら黄金やらキラキラ輝いているドレスがところ狭しと並んでいる。

さすがに普段目にすることもない豪勢なドレスの一覧に目眩がしそうだ。


「さあルーシーさんにサラさん。どれでもお好きなものを試しに試着してみて下さい」

「着付けのお手伝いさせてもらいます」


呆気にとられるが、これも魔法の粉、パウダーとやらを取りに行くために必要なことなのなだうか?

パーティーとやらに伺うということは、そこで誰かに会うということなのか?

それで私達が着飾る理由はいったいなんだというのか?


なにか不穏な想像しか湧いてこない。

大浴場での私を値踏みするようなあの冷たい目。

あの意味がわかりかけてきたような気がする。



「どうぞご遠慮せずにお選びになってください。助けていただいたお礼に少しですけど店員割引を使わせてもらいますから」


我々が遠慮していると思ったのか、ジルとミリーが強く勧めてきた。

私はそっとジルの耳に囁く。


「どうせ払うのはマゼンタの方だ、割引はしなくてもいい。それよりマゼンタが今までも新人の女をこうして連れてきてドレスを買い与えていたのか聞きたい」

「え?ええ。毎週末にここから北にあるタイタニアという会場でパーティーをやっているそうなんです。いつもそこにお連れの方と赴いてるそうですね」

「なんのために?」

「さあ・・・どういう集まりなのかもわからないんですよね。会場に入るにはお高い入場料と会費が必要とかで、庶民の私なんかには縁のない場所なので」

「金持ちの秘密の道楽か。なにをやっていても不思議はないということだな」

「そんな・・・。でもそういう場所に行くのなら、おもいっきり着飾っておくほうがいいと思いますよ?」


今は引き続きマゼンタの言う通りにして、この先になにがあるのかを探るしかあるまい。


「そうだな。恥をかかないようなドレスを見繕ってもらおうか」


ジルの耳から離れながらマゼンタにチラリと目をやると、少し離れた売り場の外の腰掛けに座ってこちらを眺めていた。

無表情で何を考えているのかは読めない。


私は背中が大きく開いた黒いイブニングを着せてもらった。裾はミニスカートのように膝上30センチまでのやつだ。

チャーミングさとセクシーさを兼ね備えた私に似合っているドレスと言えよう。

銀のヒールで足元もバッチリだ。

アスモデウスは青い肩を出したイブニングだ。腕はレース地、足下まである長いロングスカートは膝で括れがあって細身のシルエットになっている。

でかいケツを隠したいのか。

ヒールはオレンジ色のようだ。

一着3万ゴールドはするが、私のお金ではないので構わん構わん。


いくつか並んだ試着室から、それぞれジルとミリーに着替えを手伝ってもらいながら表に出てくる我々。

お互い慣れない衣装を着た姿を見て顔をほころばせる。


「いいじゃない。似合ってる」

「やはりお前は胸がでかいな」

「胸は関係ないでしょ」


アスモデウスと私は機嫌が良い。


「本当にお似合いですよ。お二人とも」

「それでは仕上げに参りましょう。こちらです」


ジルとミリーが更に別の場所に連れていこうとする。

マゼンタを見たが、これも規定路線のようで、腰掛けから立ち上がりジルとミリーの案内する方向に歩み出す。


「良い感じにめかし込んだが、まだまだ不足だろう?衣装に見合った宝石も身に付けないとな」


怪訝にしている我々を追い越しながらマゼンタが言った。

そんなものまで我々にくれてやるというのか?

いくらなんでもやりすぎだ。



建物の奥の一角に宝石貴金属類を取り扱っている区画があった。

四方を壁で囲んでセキュリティは万全のようだ。


ショーケースにキラキラ光る石がディスプレイされている。

私にはまったく縁のないもので、なんのためにこんなごちゃごちゃしたものを身に付けるのか理解できん。


「これが虚栄の行き着く先というやつなのか?」

「それは違うな。少しでも着飾りたい、美しくありたいという、美の追求。健気な女子のいじらしさというやつさ」


私の吐き出した言葉にマゼンタが答えた。


それを虚栄心というのではないのか。と思ったが、まあキラキラ光って見事な装飾で彩られたアクセサリーは、それ自体が物欲の対象となってもおかしくはない。

実際良くできている。職人が腕を凝らして作り上げたものなのだろう。


「いかがですか?」


すでに売り場に立っていた別の店員が我々に話しかけてきた。


「そうだな。黒のドレスにはパールのネックレスとダイヤのブレスレット。青のドレスにはトパーズのイヤリングとアクアマリンのネックレスが合いそうかな」

「かしこまりました」


マゼンタが我々の好みもなく勝手に決めた。

カウンターにある大きな鏡の前の椅子に腰掛けされて、大小いろんなアクセサリーを首もとに試す店員。

それをもう少しシンプルがいい、とか、粒の大きなものがいい、とか、口を出すマゼンタ。



まったく興味ないつもりだったのだが、いろんなアクセサリーを首もとにつけられて、ちょっと悪くない気持ちになってしまっていた。






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