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漆黒のサタン  作者: nurunuru7
12/20

12、ソロモン山脈2

漆黒のサタン12、ソロモン山脈2


山道を外れた森の中の獣道、溜め池を囲むすり鉢状の盆地。

私を囲んでいる4人の山賊のうち、槍を持った男が柄の方で私の肩を小突くように軽く攻撃してきた。

反抗する私を物理的にわからせようと適当に打ってきたようだ。

だが、それを難なく避けて剣の腹で男の両の二の腕と両の太股を打ち付け骨を粉砕してやった。

体のバランスを崩してその場に倒れる槍の男。

急激な痛みと足の支えを失い物理的に立てなくなったせいで、芋虫のように地面をのたうち回る。


「何をした!」


周りの3人が血相を変える。何をした!と言われても、見た通りだ。他に何の説明がいるのか。


「お前ら35人全員逃がさん。かかってこい」


私が左手に6本の短剣を隠した桶を持ったまま、右手の剣でチョイチョイと挑発する。

男達が剣や斧の得物を構え距離を詰めてきた。

馬鹿め。すでに全員私の射程範囲内だ。

本気で斬りかかろうと順番に襲ってくる男3人。

一人目と同じように得物を振るう前に3人の四肢の骨を粉砕。

あっという間に4匹の芋虫が周囲に這いつくばり、荒い呼吸でわめき散らしている。


馬車への退路に張っていた男達がさらに4人現れて何か叫びながら襲い掛かってきたが、これも次々に粉砕。

この場所が凄惨な景色に早変わりする。


馬車の周囲に出てきていた6人の山賊が何事かとこちらの様子を伺っている。

手には漁で使うような網を持ったやつもいる。

それで逃げる馬車を覆って捕まえる算段だったか。


私は風のように獣道を駆け抜け表の山道に舞い戻る。


いまだに状況を把握しきれていない馬鹿な6人は、得物を構えもせず馬車の周囲を囲んでなんだなんだと棒立ちのままだ。


飛び出してきた私を見てやっと得物を構えようとしたが、もう遅い。

馬車の幌に手をかけて中のスカーレット達と接触しようとしていた男から四肢を粉砕。

ゴロンと馬車の下に横たわる。


「なんだこいつは!!」


目でそれを追っていた5人の山賊。やっと構えた剣やら斧やらで私に狙いを定めて振りかぶろうとしたが、その前に利き腕を一人ずつ粉砕。

動きが止まったところをさらに残りの逆の腕と両足の骨を砕いてやった。


「ルーシーちゃん!大丈夫!?」


幌から真っ青な顔を出しスカーレットが声をかけてきた。


「ああ。まだ周囲に残っているがな」


私はそう返す。


高台で弓を狙っていた8人はそれぞれ自分の足を射ち抜いてもがいていたり喚いていたりしていたようだが、気を取り直して弓を手にした者もいるようだ。

その度に私の睡眠縛鎖が発動してさらに自分の足を射ち抜かせる。

怖じ気づいて高台から降りて逃げようとする者もいるが、それも私の睡眠縛鎖が発動させて最初の一歩目を出したら自分の弓で自分の足を射ち抜かせる。

ついでに弓を捨てようとしても捨てさせずに自分の足を射ち抜かせる。

自傷意外何もさせない。

よって度々周囲から絶叫がこだまする。


残りは馬車の進行方向に7人。後方に6人盆地に隠れて様子を伺っていたようだが、さすがに騒ぎに気づき逃げ出そうとしている。


逃がすわけがなかろう。


桶に入れていた6本の短剣を後方から逃げ出そうとしている6人に向かって投げる。

太い木の幹と枝の間を縫うように飛び交う短剣。

逃げようとする男達の肩や足に次々に突き刺さる。

これだけでは足止めはできないだろうが、仕掛けていたクリムゾンの餅の術が発動。

巨大なトリモチとなって木や地面に男達ごとへばりつき拘束する。

ついでにバーミリオンの火の術も発動してトリモチごと焼き尽くす。


「いてー!なんだこりゃ!?ぎゃー!!あちーっ!!!」


そんなことを喚いているようだ。


「焼き上がったらたーんとお食べ」


私は母のような優しい気持ちでつぶやいた。


「何言ってんのよ。残りは?」


幌からアスモデウスが顔を出して聞いてきた。


「近くに馬をつないでいるようだな。一目散に逃げようとしているが、逃がさん」


私は風のように走り出した。


森の中をこそこそ逃げ出す男達に山道を走って追いつく私。

最後尾の男から森に分け入って強襲する。

怯えた様子で武器さえ持たずに四肢を粉砕される山賊。

一人、また一人と背後から迫っては地面に這いつくばらせる。


最後の一人は森を出て山道を駆けていくようだ。


えーい。面倒だ。

私は剣を投げ飛ばした。


剣は男の腿に突き刺さり、男は山道に倒れる。


倒れたまま剣を抜こうとする最後の一人。

追い付いた私がそれを抜き、男の目の前に剣を突き付ける。


「たっ!助けてくれ!俺は誘われてやってただけなんだ!」


倒れたまま両手を上げて助けを乞うてきた。


「そうやって助けを乞うた人間を今まで何人殺してきたのだ?私がお前を助ける義理などない。だが、私は優しいからな。別に命を奪ったりはしない」


躊躇なくこいつの両腕両足の骨を粉砕。


「うぎゃぁぁぁーっ!!」


泣き叫ぶ山賊。


「這ってどこへとなり帰るがいい。それまで腹が持つかどうか私は知らん。野犬や狼にとっては願ってもないご馳走になるだろうが私は知らん」


私はそいつを放置して馬車に戻ろうとした。


「おっと、ここでは馬車の通行の邪魔になるな」


芋虫のように這いつくばっている男をけたぐって森に転がす私。



しかしなんということだ。35人も男が居てたった数分で片付いてしまうとは。

大したエクササイズにならなかったではないか。

私はただ暴れたかっただけなのだ。役立たずめ。



私は馬車に戻った。

バーミリオンとピュースが馬車から出てきていて、周囲に転がった芋虫を青い顔で眺めている。


「お前いったい何なんだ・・・」


バーミリオンが私を見つけて声をかけてきた。


「美少女剣士ルーシーだが?」

「少女ではねーだろ・・・」


野暮な突っ込みをする奴だなー。


「これ、どうするんだい?」


ピュースが遠巻きに男達を見ながら言う。


「どうもせんで良かろう。別に私達は役人ではないのだからな。それより聞くことがある」


この周辺に他の人の気配はない。馬が多数どこかに繋がれているだけだ。

私の周囲の察知能力は広範囲に渡るが、それは同じ空間にいるだけのもの。建物などに入っているものは察知できない。

馬車の下で這っている芋虫に成り下がった男達に向かって私は話しかけた。


「数日前に誘拐されたという女二人は今どこにいる。どこかにお前達のアジトがあるのか?」

「し、知るか!」


痛がりながらも反抗する芋虫。


「そんな状態で逆らっても何もできないだろうに」


バーミリオンが口の中で呟いた。


「残念だなー。僕はヒーラーだから教えてくれたら先着1名をヒールしてあげようと思ったのに」


ピュースがさも大袈裟に残念がる。


「2キロくらい進んだら北に白い岩肌が見える場所がある!岩の間の亀裂に洞窟ができていてそこが俺達のアジトになってんだ!その奥の牢屋に二人をぶちこんどいたぜ!」


周囲に転がっていた芋虫が我先にと口走った。

なんとも浅ましい。が、ピュースの使う施術とはヒールだったか。本当に治してやるつもりなのか。


「おっと、お兄さんが早かったね。嘘じゃないんだろうね?」

「嘘じゃねえ!」


周囲の芋虫はふざけんなとか裏切ったなとか口々にのたまわっているが、お前らも同じようなことを言っていたろう。


「じゃあ、ヒールしてあげるよ。僕のヒールはマッサージ専門だが、肩凝りとか腰痛には効くだろう。はいよ」


ピュースが手をかがげて一番早かった男にマッサージの施術を施す。


「あ、ああ・・・」


絶望した顔でマッサージを受ける芋虫。


「わっはっはっは!良かったな!これから肩を使うだろうからな!」


周囲の芋虫に睨まれながらでは逆に肩が凝るだろうが、こんなやつらにはもう用はない。

我々は馬車を走らせこの場を去るのだった。



少し走った森の中に馬が数十頭木の幹や枝に繋がれていたので、それらを解放してやった。

持ち主はもう居ないのだろうがどこぞへと帰るがいい。



「ふー。怖かったー。ルーシーちゃんは本当に凄腕なのねー」

「ほ、本当です。たった一人で山賊を倒してしまうなんて」


馬車の中でスカーレットとクリムゾンに誉められた。


「まあな」

「それより山賊のアジトとか言ってたけど、本当に寄っていくの?」

「そうだな。誘拐された女二人を助けてやらんとな」


得意顔になった私にアスモデウスが聞いてきた。


「隊商の捜索隊だって追い付く頃なんじゃないか?まだ山賊が残ってないとも限らんだろうし、危ないんじゃ?」

「今のを見てまだそう思うのか?それに簡単に見捨てて行ったんだ、捜索してるかどうかも怪しいではないか」


バーミリオンに私が答える。

さすがにマッサージでは場所以外の情報は聞き出せなかったろうから、他に何人残っているかはわからない。

だが何人残っていようと私の敵ではない。アジトに入ってしまえばすぐに人数も察知できるし、そもそも脅威とは思ってない。


「北に白い岩肌が見えるね」


ピュースが御者をしながら背中越しに叫んだ。

私とアスモデウスが御者側から幌の外に顔を出して周囲を見る。


「あれか。麓に亀裂があるか調べてみよう。敵が残っているかもしれん。私一人で行く」

「大丈夫なの?なんだか心配だわ。何か起こりそうな気がして・・・」


私をアスモデウスが心配してくれている。

そんなに心配なら胸を揉ませてほしいものだ。

ガタゴト揺れる馬車の中で若干私の背中に当たっている膨らみを感じながらそう思った。


白い岩肌の絶壁に近づいた。周囲は深い森で覆われ、目につく道などない。

隠れ家ならば当たり前かもしれない。

が、よく見れば馬の蹄の跡が大量に散見される。隠しているつもりがあるのか怪しい。

馬車は山道に残しいつでも逃げれるように待機させておく。


私は崖の麓を沿うようにぐるりと回りこんで調べてみた。

山が崩れて白い岩肌が剥き出しになったような天然の絶壁だ。

周囲にはゴツゴツとした石が転がっているが、それも長年風雨に曝されて地面に根差しているような貫禄だ。

思ったよりかなり距離があったが山道とは逆方向に亀裂を発見した。

これも想像していたよりかなり大きな亀裂だ。

外からは縦長の高さ4~5メートルもあるヒビが白い岩肌に入っているように見えたが、中を覗いてみると蛇行して内部に続いている事がわかった。


内部はむしろ横に広い空間だった。

驚いたことに馬屋が中に造られていた。

丸太を組み合わせて作られた厩舎があり、飼い葉や水の入った桶などもある。

馬は10頭ほどが入れるスペースがある。

奴らが持っていた馬の頭数には足りないが、あとは外に放し飼いでもしていたのか。


他に目をやれば、天井の高い鍾乳洞といった場所だと言える。

ひんやりとしていて奥には水が流れている場所もあるのだろう。空気がじめっとしている。

馬の臭いが立ち込めてちょっと臭い。

人の気配はここにはない。

奥にどうやら二人居るようだ。

これが捕らわれていた娘だろうか。


馬屋を抜けると奥へと続く通路に扉が取り付けてあった。

扉と言っても板を適当に並べてドアを付けただけの簡素なものだ。

鍵などは付いていない。

それを開けると今度は奥に続く細い洞窟になっていた。

細いと言うのは馬屋との比較であって、横に4メートルはある。

悲しいかなその通路に筵が何枚も横に敷かれていて、ここが山賊達の寝床だというのがわかった。

男35人がここで雑魚寝していたのかと思うと、正直哀れという感情しか沸かない。


酒が入っているであろう瓶や、食べかけのパン、汚ならしい布切れ、不釣り合いなピカピカな剣などの武器など。周囲を照らす壁に掛かった燭台にぼんやりと映し出されている。


枝葉になった分かれ道がいくつかあったが、10メートルくらい直進していくと、奥に天井まで鉄格子で遮られた小部屋があった。

どうやって鉄格子を付けたのか、洞窟の天井と地面に完全に食い込んでいて、ちょっと押したり引いたりではびくともしなそうだ。

当然それには扉は付いていた。これまた頑丈そうな錠前も一緒に当然ながら付いていた。


鉄格子の向こうには小部屋の中央で二人の女が抱き合ってうずくまっている。

遠目でこちらにはまだ気づいていないようだ。


どうやら小部屋は牢屋というより物置といった方が近そうで、大きな荷物が部屋の3角に積み上げられている。

略奪で奪った品物を置いているのだろう。


どれどれ、可哀想なオナゴを助けてやるとするか。











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