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ヤスラギ委員長は死ぬほど忙しい  作者: スウェイル
第一章︎ ︎ ︎委員長、死す
9/49

朝倉桜蘭2

「それじゃ早速だけど、倉庫に保管しておくものと向こうに引き継ぐものを分けたいの。

 ……って、そっちに連絡いってる?」


「いいや? 今回は来てないな」


「あら、そう。じゃあ念の為、連絡してみるわ」

 

 昼過ぎの心地よい風が吹く倉庫前の道から外れ、見晴らしの良い場所まで行ったサクラは、遥か彼方に見える港町へと意識を集中させた。


 えーっと、夜香(よるか)の反応は………………あった。【伝心】!


 目を閉じ、五感では捉えきれない遥か彼方の魔力の痕跡を捉えたサクラは、そこに向かってスキルを発動させる。


(こちら、桜蘭。夜香(よるか)、聴こえてたら応答して。商会からの注文はいつもと同じもので良かったかしら?)


 何も知らない者からすると、サクラがいったい何をしているかはまったく分からない。


「アレは、いったい……?」

 

 ただ、何かしているのは確かだろう。

 邪魔しないようにヤスラギはすぐ近くにいる源琉花(みなもとるか)に、こっそりと訊ねた。


「あぁ、あれは【伝心】のスキルを使ってヌースの街にいる誰かとテレパシーで会話してるんだよ」


「テレパシー……そういえば、そんなスキルも候補にあったな。なるほど、ああいう感じなんだ」


 初期スキルの1つである【伝心】の、特徴的な2つの機能については、既にヤスラギにも説明されている。

 

 1つは翻訳機能。


 音声ではなく、魔力を介して意思を伝えることの副作用で、言語に依存しない。


 もちろん、相手が同等の魔術を使える場合しか、言葉を相互に交わすことは出来ない。


 だが、商人や役人など、外来人と会話する機会の多い者であれば、基本的に翻訳魔法を発動させられるため、大抵の場合は問題なく会話できるはずだ。


 もう1つは遠距離通話機能。


 距離を問わずに意思を送ることができる、今まさにサクラが使用している機能だ。


 早い話が、テレパシーである。


 認識した相手の脳に直接、声を届けることが出来るほか、一度送ったことのある相手になら、そのときの痕跡を頼りにいつでも声を送ることが出来る。


 もちろん、一方的に伝えるだけなので、返事をするには【伝心】のスキルか、それに相当する魔法を使う必要がある。


 現状では、誰もその魔法を使えないため、現時点では【伝心】のスキルを持つ人同士の特権である。


「……そう考えると、やっぱりスマホって偉大だね」


「そうだなー。研究開発班が作ってくれればいいんだろうけどなー。

 ……たしか、人数分の連絡手段を用意するには、まだまだ時間がかかりそうって言ってたぜ」


 文明の利器を懐かしむヤスラギの独り言に、横からフーガが答えた。

 スマホについての話題になると、背後でボーっとしていたアツシが反応してきた。

 

「ふーん……。それは、カケノリが?」


「あぁ。たしかに、そう言ってたぜ」


 カケノリは戦闘探索班だけでなく研究開発班にも所属しているため、話の信憑性は高い。

 アツシの質問はそれを確かめるためのものだった。

 

 スマホに相当する道具が欲しい、と言う要望が多いと話には聞いているが、やはり魔法といえど、そう簡単には作れないようだ。


「そっかー。まぁ、そう簡単にスマホが出来ちゃったら【伝心】なんて、ほとんどハズレスキルになっちゃうしね」


「そうだなー。ま、そうなってくれた方が、【伝心】を持ってない俺らとしては嬉しいんだろうけどなー」


 フーガとアツシ。この二人の初期スキルは、どちらも【強化】と【飛翔】である。


 実は、【伝心】や【作製】といった他の5つのスキルの魅力は、実際に使われ始めるようになってから発見されたと言っても過言ではない。


 もっと考えて選ぶべきだったと後悔するこの二人にとって、他のスキルは青く見える隣の芝生なのである。

 ただ、タイミングが悪いことに……。


「ちょっと! その言い方はないんじゃないかしら?!」


「ヤベッ、聞かれちまったか」


 無事に連絡がとれたサクラが、丁度こちらに戻ってきて、今の二人の会話が耳に入ってしまった。


 怒りの勢いそのままに詰め寄るサクラに対し、フーガは慌てて弁明する。


「べ、別に、バカにしたわけじゃないぜ?!

 俺らのスキルだって、どうせ魔法が使えるようになったらお役御免なんだし!」


 だが、それは余計な一言を含んでおり、火に油を注ぐ結果となる。

 

「……あら。じゃあ、その”魔法を使えるようになる”のと、開発班が”スマホを完成させる”のとでは、どっちが早いか知ってるのかしら?」


「えっ……、そりゃ、魔法を使えるようになるのが、先なんじゃ……」


 狼狽えるフーガに対し、サクラは大きくため息をつく。

 そして、スゥーっと息を吸い込むと、腹の底から怒りを吐き出した。


「ち、が、う、わ、よ!!

 いい? 魔法を使うには、”杖”が要るの! でも、その杖は魔術協会っていうところが全て管理してるの!!

 ちゃんとした身分が証明できて、尚且つ年に二回しか行われない試験にも合格した上で、高額な代金を払わないと、初心者用の杖だって手に入らないのよ!!!」


「な、なにぃー!? そんな面倒くさいことになってたのか、魔法の杖って!?」

「し、知らなかった……」


 驚きのあまり、クワッと目を見開くフーガとアツシ。


 途中から会話を聞いていたヤスラギとルカも驚いて、呆然と立ち尽くしてしまっていた。


「いい? これだけは覚えておきなさい!!」


 サクラはビシッと指を突きつける。

 

「近い将来、魔法が使えるようになって【伝心】のスキルが不要になったとしても!

 それは今、そのスキルを使える私たち渉外輸送班が、街で必死に取引してるからなのよ!!

 分かったら、もう二度とバカにしたりしないで!」


「わ、わかった、分かった。ほんと、ゴメンってば……」

 

 そういって、サクラはフンっと踵を返し、スタスタと倉庫の扉を開けに行くのだった。


「おー、怖っ。見事に地雷踏んすまけちまったぜ」


「ゴメンよ、フーガ……オレが余計な話をしたばっかりに……」


 ガックリと肩を落とすアツシを、気にすんなよとフーガが慰める。


「にしても、凄い剣幕だったな。ストレス溜まってたんかな」


「……そうかもね。渉外輸送班は多分、一番気を遣わないといけない仕事だろうし。

 しかも、朝倉さんはそこのリーダーなわけだしね」


「そうだな。あーあ……どこもかしこも、大変なことは尽きねぇなぁ」


 そういって遠巻きにサクラを見つめる、アツシとフーガ。

 

 お互いに苦労してると理解っているが故に、彼女の言い分を素直に受けとめたようだ。


 その後、戻ってきたサクラの指示で倉庫に保管するものと、取り急ぎ輸送の準備をするものとが仕分けされた。

 

 傷みやすい一部の肉類のほか、調度品やクスリの材料となる毛皮や角、肝、羽根などが輸送の対象だ。


 また、骨や血などは魔術にも用いられるため、商人ではなく魔術協会が直接、取り引きを持ちかけてくるという。


 今はその時期ではないというが、こちらも近いうちに倉庫から運び出されることが確定しているため、入口付近に保管された。


「――よし、と。チェック完了よ。おつかれさま」


「ふぃーー……つかれたー。やっぱり、神経使う作業は向いてないや、オレ」


 アツシが壁にもたれて、へたりと座り込むとサクラは労いの言葉をかけた。

 

「あら、今日はいつもより手際が良かったわよ?」


「そりゃーどうも。でも、そういうのはオレじゃなくて、ラギちょーに言ってあげた方がいいんじゃない?」


「い、いらない事言わなくていいの! ていうか、言われなくても、そのつもりだったわよ!」


 と、ちょうどそこに、倉庫の奥から小瓶の入った箱を抱えて持ってきたヤスラギが通りかかる。


「? 僕がどうかした?」

「(ギクッ)!?」


「……えっ、と?」

「……な、なんでもないわよ」

 

 ほとんど無言の応酬だったが、表情を見れば言わんとしてることは明らかだった。


「なんか、サクラ……さんはこっちに来てから素直になったのかな? 前よりも何を考えてるのか、分かる気がするよ」


「……! そ、そうね。人と話す機会が増えたことが原因かしら。……なにか、変じゃない?」


「ううん、全然。むしろ、その方がいいと思うなー(可愛くて)」


「うぅ、……。ヤスラギくんには、敵わないわよ」


「へ? なにが?」


  お互い顔に出まくりの二人を残し、しれっとその場を去るアツシ。


 その後、二人は自然な流れで、これまでの積もる話を語り合ったのだった。

 

 いつの間にか、二人きりになっていることに気がついたのは、夕暮れへと傾き始めた日差しが倉庫の壁を赤く染め始めた頃のことであった。

名前:進藤敦紫

年齢:15(7月3日)

性別:男

容姿:181cm、がっしり体型だけどいつも眠そう

髪と肌:黒い長めの髪を後ろに流している、日焼け肌

一人称:オレ

イメージカラー:薄紫色、黒色

動物に例えると:クマ

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(活動報告にあります)

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