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ヤスラギ委員長は死ぬほど忙しい  作者: スウェイル
第一章︎ ︎ ︎委員長、死す
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細田舞琴

「こ、これって、もしかして……!」


「そう、試作品第5号の醤油ラーメン! だよ! まだ試作品だから、ここにいる人しか食べられないんだよー!」


「へぇー! こんなものまで作れるんだ! 凄いなぁ!」


 嬉しそうに語る細田真琴(ほそだまこと)は気を良くしたらしく、聞かれてもいないのにこれまでの試作品での苦労をヤスラギに話し出す。

 

 ほとんど失敗だったという、第1号と第2号。


 渉外輸送班が調味料を調達してきてくれたことで、ようやく食べられる味になった第3号。


 そして、味の決め手となるスープがほぼほぼ完成したのが、これの一つ前にあたる第4号での出来事だった。

 

「――で、今回は麺をあらかじめ油で揚げることで、インスタント麺状にしてみたの。

 それを旨みたっぷりのスープで茹でて味を染み込ませることで、ついにそれっぽいものが完成したってわけ!」


「おぉー! たしかに、麺は少しインスタントラーメンっぽい気がしたけど、それはむしろ、いつものラーメンを再現できていることの裏返しなわけか……」


「そういうこと! あとは、お湯をかけて3分待つだけで出来るようになれば、完璧な再現!

 ……になるんだけど……別に、そこまではしなくてもいいかなーって」


「ふむふむ?」


 ヤスラギは麺を啜りながら、なぜと尋ねる。


「ほら、結局のところ、このスープが美味しさを決めてるじゃない?

 麺は良くても、これをインスタント化するのがどうしても上手くいかなくて……」


「ふーん、なるほど。たしかに、味に深みがあって美味しいから、難しそうだね」


「そうなのよ! クセのある野生肉を三日前から茹でて臭みを消して、色んな出汁と醤油と香味油も使って、なんとかこの味まで持ってこれたんだから!

 そう簡単にインスタントに出きるはずがないのよ。だけど……」


 と、ここまで高かったマコトの声のトーンが僅かに下がる。

 

「探索に行くなら“持ち運び可能な食料が必要だ”、って狩野くんに頼まれちゃって……」


「……なるほど。この味を」


「そう、でも、スープ鍋なんてとても持ち運べないから、どうしたらいいのかなーって」


 細田さんは無表情のまま、自分のマグカップラーメンを啜った。


 ……と、そのとき。


 「あっ!! やべぇッ!」


 という声に、反射的に振り向くと目に入ったのは、大きなチャーシューを地面に落としたフジマサの姿だった。


「あーあー、勿体ない」


 と、フジマサの隣に座っていた對馬鷹仁(つしまたかひと)も悲しげな声をあげる。


 すると、フジマサはサッとしゃがんで……。

 

「大丈夫、三秒ルールだぜ」


 落ちたチャーシューを拾い上げると、パクリと飲み込んだのだった。


 その様子を目撃した僕らがドン引きしたのは、言うまでもない。


「キャー!?」

「ちょっ、信じられない!! ここの土、虫とかうじゃうじゃ居るのよ!? 落ちたものを拾って食べるなんて、アンタ正気!?」


 女子からの非難の声がフジマサへと集まるが、モグモグごくんと飲み込んで、すかさず反論する。

 

「うるせー! いいんだよ、そんな簡単に壊れる腹じゃねえし。それに……」


 生命の旨みがたっぷりと入ったマグカップを、俯くように覗き込み。


「この肉は、狩りで俺が殺したやつらの肉だから、そう簡単に残すわけにいかねーんだよ!

 特に俺は、ちゃんと最後まで面倒見れてないしな……」


 もう一度正面を向き、彼は力強く覚悟を語るのだった。


 僕は思わず息を飲み、ハッとする。

 

 作業場でのフジマサの態度は、たしかに褒められたものではなかったかもしれない。


 だが、だからといって、ただそれだけで生命に対する敬意が無いなどと決めつけることもまた、褒められたことではない。


 やっぱり、そうだ。

 やっぱり、ちゃんとしてたじゃないか……!

 勝手に悪く思ってゴメン、フジマサ……。

 

 心のどこかで「実は良い奴」なんだと思いたかったヤスラギにとって、フジマサが見せた青臭くも等身大の決意は何よりの救いとなったのだった。


 ぼちぼちと昼食の片付けも済み、時刻は昼過ぎ。

 これから戦闘探索班は二手に別れて、次の仕事に移る。

 

 【索敵】のスキルを持つ狩野・赤坂・元柏を中心に周辺の警備にあたるグループと【飛翔】のスキルを持つ芦田・進藤・源の3名による、肉や毛皮類を倉庫まで運ぶグループだ。


 次の見学先である渉外輸送班の班長と倉庫で落ち合う予定になっているヤスラギは、当然、運ぶ方のグループに同伴する。


「さて、そろそろ行こっか」


 ショートヘアの黒髪が似合うボーイッシュな女子。バスケ部のスモールフォワード、源琉花(みなもとるか)は限界まで物資を載せた荷車の上にギリギリ触れないように浮遊しながら、周りにいる男子たちに声をかける。


 ルカが荷物の山を崩さないように縛っている紐を掴むと、その身体をログハウスの屋根よりも高く浮きあがらせた。


「ヤスラギ、悪いんだけど、ここの荷台の持ち手の部分に座ってくれるか?」


「う、うん。わかった」


 アツシに言われるがまま、ヤスラギは荷車の引手の部分に腰掛ける。

 

 山積みの荷物がちょっとした背もたれになっていて意外と安定している。

 僕はなんとか無事に座ることに成功した。


「よーし、それじゃ行きますか。いくぞッ」


 出発の準備は整ったとばかりに、芦田が合図をかける。

 

「「「せーのっ!!」」


 軋む荷台の下からフーガとアツシの2人が担ぎあげるように持ち上げて、ルカが上から引っ張ってバランスを取る。


 【飛翔】のスキルによって自在に空を飛べる3人が息を合わせることで。


 グググ…………フワッ


 見事、荷車は地面を離れ、空へと浮かび上がった。


 荷物と一緒に持ち上げられ、ヤスラギもこれには悲鳴にも似た声を上げた。


「うわわっとぉおおおー!? す、凄い!! こんな重いものを持ったまま飛べるんだ!!?」


「……クッ、……だと、おもう、じゃん?」


「け、結構ギリギリなんだなー、これが。肩とか腕とかが、普通に死ぬ……」


「ヤレヤレ、二人とも根性ないなー」

「「おめぇーがもっと引っ張ればいいんだよ!!」」


 ちょっとだけ喧嘩をしつつ、一行は倉庫へ進路を取る。

 今朝、ヤスラギが来たときとは比べ物にならない速さだ。


 森の中の曲がりくねった山道を走るのと、最短距離を全速力でカッ飛ぶのとでは、どれほど所要時間に差が生じるか。

 そんなの、もはや計算するまでも無いだろう。


 こうして、僕らはあっという間に拠点へと戻ってきたのだった。


 それこそ、インスタントラーメンができるくらいの時間でね。

名前:藤沢昌汰

年齢:15(12月27日)

性別:男

容姿:162cm、平凡でパッとしない

髪と肌:黒の天パ、そこそこ日焼けして健康的

一人称:俺

イメージカラー:濃いオレンジ色、薄青色

動物に例えると:モグラ

似ているキャラクター

(活動報告にあります)


名前:源琉花

年齢:15(7月9日)

性別:女

容姿:165cm、大人しくしてれば美人

髪と肌:黒のショートヘア、がっつり日焼け

一人称:アタシ

イメージカラー:ベージュ、赤紫色

動物に例えると:キジトラの野良猫

似ているキャラクター

(活動報告にあります)

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