三戸雷斗
「いやー、手伝ってもらって悪いねぇ」
「なんの、これくらいお易い御用だよ。魔法のおかげで力が漲ってるからね」
ヤスラギはライトの気さくな声掛けに対し、鹿を背に背負いながらそう答えた。
大量の獲物を抱えた11人の高校生が山道を降りる。
戦闘探索班の班員の多くが使用できる「強化」のスキルによって身体能力が上がっているため、誰もが自分よりも大きな動物を担いで降りていた。
その姿は、まるで巨大なアリの行列のよう。
もしくは、ピ〇ミン。
ぞろぞろと狩猟拠点であるログハウスまで戻ってくると、そのまま隣にある小屋の方へと進む。
「いい加減、無限に物をしまえるアイテムボックス的なのが欲しいよなー」
「それなー。空は自由に飛べるのに、何でも入るポケットは作れないって、普通、逆じゃんねー」
藤沢昌汰と源琉花の二人はそんな愚痴をいいながら、背負っていた猪をドスンと降ろす。
たしかに、持てるとはいえ百キロは軽く越えてそうな大物だ。
どうせ魔法の力で楽をするなら、パワーアップして運ぶよりも四次元ポケットの方が嬉しいだろう。
狩猟拠点であるログハウスには、すぐ横に解体小屋が併設されていて、狩った獲物は全てそこに運び込まれ、解体される。
そして、食堂のテーブルに上がったり、渉外輸送班によって出荷されて金銭に換わったりするのだ。
鹿、猪、鳥、兎のような見覚えのある動物のほか、見慣れない巨大な鼠のような動物も混ざっており、総重量は1トン以上。
わずか数時間の成果にしては上出来すぎる量だが、週に一度しかこの狩りは行わないため、これだけ狩っても足りなかったこともあるそうだ。
「さーて、それじゃ片っ端から解体すから、ヤスラギは仕分けの手伝いを頼む」
そういって、ライトは1頭の雄鹿を軽々と持ち上げ、頭部を吊るされたロープに固定する。
彼が右手をかざすと、突然、方眼模様の薄青色の空間が発生し、雄鹿を囲いこんだ。
「了解。ここでも【製作】のスキル……?」
「そうそう、色々試行錯誤してな。もう開発班や管理班で散々見てきただろうけど、こんな風にも使えるって知ってたか?」
「いや、全然……」
と、ヤスラギが返事をしようとした、次の瞬間。
立派な角は音もなく外れ、まるで重力の存在を思い出したかのように、唐突に青色の枠の外へと落下する。
「おおっ、と!!? コラッ!! 外すならちゃんと外すって言えっての!」
「おー! フーガ、ナイスキャッチ!」
「ったく、欠けたら渉外輸送班に怒られるって、分かってないだろ……」
「いやー、悪い悪い。うっかり固定し損ねたわ」
横から目にも止まらない速さで登場し、鹿の角を掴んだのはサッカー部の瞬足、芦田風雅。
先ほどの狩りでも、飛んで逃げる野鳥を素手で捕まえるという荒業を披露していた。
どうやら元々速かった脚が魔法の力でとんでもないことになっているようだ。
「こっちもやるよー」
「オッケー、よろしくー」
部屋の反対側では、ライトと同じく【製作】のスキルが使えるリオナが、ほかの女子たちと協力して雌鹿の解体を始めていた。
意外にも戦闘探索班12名のうち、5名が女子である。
血気盛んなバスケ部、弓道部、剣道部の女子たち3人はまだしも、野球部のマネージャーである細田舞琴さんと自称つよつよギャルの春川さんがいるのは、ヤスラギ的にとても意外だった。
「ヤバっ、コイツ思ったよりも血の量がヤバたにえん」
「あー、ホントだ。ごめん、ヤスラギくん、そっちの桶、取ってもらっていい?」
「えっ、うわっ……」
手と顔が血まみれになった細田さんに、思わず変な声が出た。
しかし、一刻を争う状況。謝る暇もなく、そのまま桶は奪い取られるようにして彼女へと渡る。
「うん、ありがと」
とだけ言って、細田さんはケロッとした顔で再び作業に戻ったのだった。
「……なんというか、凄く、頼もしいね」
「それな。最初はワーワーキャーキャー言ってたのに、今じゃ女子の方がよっぽど手際がいいくらいなんだぜ」
そんな会話をしながらライトも淡々と作業をこなしていく。
彼の前方の空中には、いつのまにか部位ごとに綺麗に分けられた肉が元の位置を保ったままの状態で静止していた。
「――よし。おーい!一体目が終わったぞ。持っていってくれ」
角や肉だけでなく、毛皮、骨、蹄、血、糞尿に至るまで。
全ての恵みを一滴残らず仕分けてしまうという神業だった。
ライトの合図で待機していたほかの男子たちが、それらを抱えて小屋の外へと運び出す。
作業前に聞いた話によれば、彼らは血とか内蔵といったものがどうにも駄目らしいのだ。
その気持ちは、まぁたしかに分からないことも無い、が……。
そんな怪訝な顔をしていると、ライトが話かけてきた。
目を離した隙に、次に解体する大猪の固定は完了していたらしい。
「ラギ長は、グロいの平気なんだな」
「えっ?……うーん、平気というか、"狩りに行く"って聞いてたから、こういうこともする覚悟はしてた、って感じかな。得意なわけではないよ」
「なるほどねぇ。相変わらず真面目なことで」
「ア、アハハハ……」
ヤスラギは苦笑いをしつつ、ちょっとした俗説を思い出す。
男子に比べて女子の方が血やグロテスクなものに耐性があるという話を聞いたことがある。
この様子を見るに、確かにそうかもしれない。
チラッと横目で女子の方を見ると、向こうも雌鹿の解体が丁度終わったところだった。
ライトが几帳面なのか、リオナが大雑把なのか。
向こうの解体スペースでは、そこそこ返り血が飛んでいた。
「へーい、フジマサたち。コッチのもヨロ〜」
「はいはい、ちょい待ち。うーわ、相変わらずのスプラッター……」
うぇっという顔で、飛び散った血を避けながら荷物を運び出す藤沢昌汰と無言で目を伏せて、その後に続く對馬鷹仁。
そして、それらを小屋の外から受け取っているのが、戦闘探索班の中で一番身体のデカい、進藤敦紫。
彼らが、血が苦手系男子筆頭の三人だ。
狩りのときは活き活きしていたと思ったのだが、今はもう見る影もない。
「ん、アツシたちがどうかしたか?」
「あぁ、いや……ちょっとね、……」
"分業といえば聞こえはいいが、最後まで命に対する責任を持つべきじゃないだろうか"
口から出かかったその言葉は、自身の苦い記憶とともに腹の奥底へと封じ込める。
思わず、喉がゴクリと鳴った。
「真面目だね」という言葉が、褒め言葉から馬鹿にする言葉に変わってしまった、中学時代。
球技大会で上級生に勝つなんて無理だろ、と諦めたクラスメイトに対し、真剣に練習に取り組もうと呼びかけた彼は、その後、しばらく孤立した。
内申点稼ぎと言われたことも、先生に媚びていると揶揄されたりもした。
そんな中学2年のときの苦い記憶がヤスラギの脳裏に呼び起こされたのだ。
……そうだ。
彼らだって、最初は解体しようとチャレンジしたかもしれないじゃないか。
結果として、やっぱり無理だったのかもしれない。
別に手伝っていないわけじゃないのだから、それでいいじゃないか。
ヤスラギは怒りだしそうになる自分に対して、なだめ言い聞かせる。
表情だけは、いかにも平静なときのままで。
ヤスラギが葛藤をしているうちに、最後の一頭が捌き終わる。
ヤスラギは少しの不満も顔に出すことなく、作業を完遂したのだった。
名前:芦田風雅
年齢:15(6月3日)
性別:男
容姿:171cm、目付きの鋭いサッカー少年
髪と肌:黒のスポーツ刈り、こんがり日焼け肌
一人称:オレ
イメージカラー:赤色、深緑色
動物に例えると:バシリスク
似ているキャラクター
(活動報告にあります)
名前:細田舞琴
年齢:15(8月1日)
性別:女
容姿:148cm、小柄で可愛らしい
髪と肌:黒髪ポニテール、ハリツヤのあるイエローベース
一人称:わたし
イメージカラー:空色、レモン色
動物に例えると:リス
似ているキャラクター
(活動報告にあります)