芦田風雅3
お盆休みがあまりにも忙しすぎるため
15日までは更新が遅くなります。申し訳ありません。
「そうだ!! ただ教えるだけだとつまんねぇし、実際に魔物を倒しながらにしようぜ!」
――というフーガの発案によって。
「うわあああああぁぁ!!」
「ウハハハハハハハハハ!!」
僕は朝っぱらから空にいた。
肌寒い空気に包まれた森の上空を高速で進むため、吹き抜ける風で手足が凍えてしまいそうだ。
スキル【飛翔】で空を自在に飛べるフーガに鷲掴みにされ、そのまま戦闘探索班の拠点であるログハウスへとたどり着く。
手と足でガッチリと挟んで空へ飛びたつフーガの姿は、まるで鷹や鷲が自分より大きな獲物を掴んで飛んでいるかのようだった。
「うっ……ぅうええ。た、卵焼きと味噌汁が出てくるぅ……」
「なんだ、高いところダメだったなら先に言えよな」
「違うわッ!! あんなスピードで飛ぶなんて聞いてないから!! なおかつお腹をこう……、ガッ! ってされれば、誰だってこうなるわ!!」
「そうかそうか、スマンスマン」
全く、せっかちなんだから。スキルを付け替えれば僕だって飛べたのに……。
というか、食後のお腹を強く押すんじゃねぇ。
「でも、速かったろ?」
ゲンナリしている僕に、フーガは得意げにニカッと笑う。
「そりゃー……まぁ」
たしかに、僕ならば出すのを躊躇うほどの速度だった。そこそこの時間短縮にはなっただろう。
「だろ? 飛ぶのだって、オレが一番速ぇんだぜ!」
僕の微妙な感想でも満足したらしく、フーガは上機嫌でログハウスへと入っていく。
あの超高速飛行はフーガなりのサービス……だったのだろうか。
男友達同士だと、こういう馬鹿げたフィジカル頼みのコミュニケーションがちょくちょくあるからな。
そんなことを思いながら、僕も続いてログハウスへと入るのだった。
ログハウス内には家具や内装はほとんどなく、壁の前に警備のときに使う武器や防具といった装備品がこっちり整理された状態でずらりと並んでいる。
武器の種類は様々だが、防具については鎧兜とかではなく、手甲やすね当てのような軽装備が多い。
全身を守らなければならないほど危険な魔物は出てこない、ということの何よりの証明だ。
「ラギ長ってたしか、明後日だっけ? 初シフト」
「うん。カケノリたちの班に同行する予定。だからまぁ、まだ僕の装備はここには無いんだ」
多分、今頃カケノリに改造されまくってるんだろうな……。
「なんだ、そうだったのか! すまねぇ、てっきりもうコッチに置いてあるもんだと思ってたぜ。
じゃあ、その辺にある、サイズの合うヤツを使ってくれ」
「オッケー」
言われるがまま服の上から防具を装備し、僕らは会話もそこそこに森へと向かった。
あまり整備されていない外縁の森に来るのは、この前の狩りのとき以来だ。
しかも、今回は二人だけ。油断すればすぐに危険と隣り合わせになる状況に、とてもドキドキワクワクする。
フーガが少しだけ飛ぶことによって、足元が悪く見通しの悪い山道だろうと安全を確認しながら、軽快に進む。
ヤスラギは後を追いかけるように進み、なだらかな斜面を登りきったところで、ふいにフーガ話しかけられた。
「なぁ、ラギ長はどんな奴らが“魔物”って呼ばれてるか知ってるか?」
「えっ……、“体内に魔力を宿した生き物”じゃないの?」
僕の答えを聞いたフーガは。
「それだと、オレたちも“魔物”の一種ってことになるけどいいのか?」
と、少し意地の悪そうな顔で笑った。どうやら正解ではないようだ。
僕はあごに手を当て、深く考える。
「んーーー……、魔物って呼ばれる条件、か。
……“人を襲う”かどうか?」
「おっ、流石! ほぼ正解だぜ!!
“他の生き物を食べる以外の目的で攻撃する存在”を“魔物”って、呼んでるんだとさ。
動物や家畜を襲う魔物もいるからな」
「なるほど、たしかに」
答え合わせを終えたフーガは、木の上を指さした。
「ほら、例えばあそこにいる鳥は普通の鳥だ。
だが、アイツらを捕食する大型の鳥は、ナワバリに入った人間を容赦なく襲う。だから、ソイツらは魔物として認識されるわけだ」
「ふむふむ」
「他にもスライムとか、スケルトンとかゴーレムみたいな、そもそも動物型ですらない魔物もけっこういるんだぜ。
まぁ、そいつらは限られた場所にしか居ないけどな」
「なんだ、ほぼマイ〇クラフトの敵キャラじゃん」
「あぁ、そうそう! まんまあの感じ! なんだよ、ラギ長もマイクラは分かるのかよー!!」
「あはは、中学のときに授業で少し遊んだ程度だけどね」
「別にいいさ! どのくらいまで遊んだ? ネザーは行った? オレはさ――」
僕が唯一知っていたゲームの話で盛り上がりながら進んでいくと、いつの間にか沼のような池にたどり着いた。
フーガ曰く、どうやらここが魔物の狩場らしい。
僕はセカンダリースキルを【伝心】から【索敵】に付けかえる。
その待ち時間の間に、フーガは魔物の生まれ方を説明してくれた。
「魔物が生まれる方法は、オレの知る限り2通りある。
魔力が澱んで小さな魔物が生まれるパターンと、そいつらを食った動物とかが魔物化するパターンだ」
この池では、自然発生する魔力が澱んでるから定期的に小さい魔物が発生するらしく、僕は【索敵】によってビー玉サイズのスライムや羽虫型の魔物が池の中や周囲にいることを確認した。
食物連鎖のピラミッドをイメージすれば、これらは植物のすぐ上の段に当てはまる。
ほぼ最下層なので、これらを餌とする生き物はかなり多いだろう。魔物化する動物もそこそこ多いはずだ。
そんな魔物を食べる肉食の魔物もいて、更にはそいつらさえも喰らうヒロたち灰銀魔狼がいる。
体内に有する魔力がだんだん濃縮されていくように強まっていくのがよく分かる図式だ。
よく出来た食物連鎖のピラミッドだと思わず感心してしまうな。
それにしても……。
「……魔力の淀みか。どういう所だと魔力が淀むんだろう」
「さぁな。でもなんとなく、こういう池とか沼とか、ジメジメした日陰とか洞窟とか、空気や水の流れが淀みやすいところ、っていうイメージであってるんじゃねぇかな」
「……下水道とかも、そうかな?」
「んー、ちゃんとしてないと多分、淀むんだろうな。
あぁでも、オレらの拠点はそこはちゃーんと対策してあるらしいぜ。詳しいことはさっぱり分かんねぇけどな!」
「……へぇ」
思わぬところで、重要な情報が得られた気がする。
ちょっと詳しいことを施設管理班の誰かに聞いてみるかな。
下手に追求することなく会話を終え、僕らは池の近くに沸いた大量の虫型の魔物を剣で屠ったのち、午後には拠点へと帰還したのだった。




