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ヤスラギ委員長は死ぬほど忙しい  作者: スウェイル
第三章 委員長、学ぶ
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芦田風雅2

 土砂崩れから謎の指輪を掘り出した翌日。

 今日も緊急性の高い予言だったらしく、キオンに声をかけられた。

 

(おい、ちょっと今いいか?)


「んぐ?」

 

 のんきに卵焼きを口いっぱい頬張るヤスラギに、【伝心】によるテレパシーが届く。

 

 今朝の食堂はそこそこ人も多く目につきやすい。

 自身も料理で手が離せないこともあってか、今日は調理場からのやり取りのようだ。


(食べながらでもよければ。……それで? 今日の予知は?)


(……ゲスイソウニマモノ、だ。スマンな、食事中に)


 自分も調理中だろうに、キオンの申し訳ないという気持ちが一緒に届く。


(んんー、別に平気だよ。言葉から臭いが出るわけでもないし。

 それより、どうやって処理する? 偶然を装って、下水槽に戦闘班(カケノリ)でも送り込めばいい?)


 気にしすぎだよ、という気持ちが伝わるように僕はさっさと本題に入るべく食い気味に言葉をかえした。こういうときに本心が伝わってくれるのが、実に便利だ。

 

(……なんか、カケノリへの恨みが混入してたような……まぁいいか。一応、それに似たような作戦は考えてある。()()、俺の【索敵】に反応があったから、ヤスラギを通じて非番の戦闘員に依頼する、って感じでどうだろうか)


(いいね、それなら“予知”したと思われることはない。了解、それで行こう!)


(あぁ、それとなんだが……)


 作戦も決まり、実行するのは具体的に何時になりそうか尋ねようとした矢先、キオンは少し不安そうに告げてきた。


(奇妙なことに、昨晩の深夜や今朝のうちに下水槽周辺を【索敵】してみたんだが、一切反応は無かった。

 つまり、魔物がすでに巣食ってるわけじゃなく、今日、そこに魔物が出現するということになる)


 キオンの顔は見えないが、きっと悩ましい表情になっているのだろう。

 それくらい、今の言葉には強い疑念が込められていた。

 

(なぁ、ラギ長。警備班がいるのに拠点内に“魔物が出現する”って、おかしくないか?

 俺はその辺の事情は、全然分からなくてな……)


 言われてみれば、確かにその通りだ。

 今、近くに居ないとするならば、これから倒そうとしている魔物は、いったいどこからやってくるのだろうか。


 僕は無意識に噛む回数が増え、デンプンがしっかりと糖に分解されたご飯粒だったものをゴクンと飲み込む。

 

(……ゴメン、僕もまだ“魔物”については詳しくないんだ。どんな種類がいるのかも、どんな生態をしてるのかも……)


(そうか……。なら、気にしても仕方ないな。どっちにしろ、現れ次第倒すことに変わりはないわけだし)


 と、気にしてない風に装っているキオンが、僅かに落胆していると分かってしまうのが、【伝心】。

 真実は、時として残酷なものだ。

 

 むぅ……。昨日の午後はほとんど図書室で勉強していたのに、身近にいる脅威さえ未だに把握できていないなんて、不甲斐なさ過ぎる。


 とはいえ、まだ魔法の基本原則しか身についてない自分に、魔物について一から学んでいる余裕はない。


「はぁ……。誰が、魔物に詳しい人がいればなー」

 

「聞いてみればいいじゃん」


「うわぁああああッ!?」

「うぉおおおおお!?」


「フーガ!? い、いつの間に!?」


「いや、気づいてなかったんかーい!! さっきから隣でメシ食ってたわ!!」


「エッ、嘘、マジ?」


 チラッと見れば、まだ温かい料理たちをのせたお盆が芦田風雅(あしだふうが)の前に置かれている。

 

「うわぁお、ホントだ。ごめん、全然気づかなかった」


「まぁ、さっきって言っても、数秒前くらいからだし? 声かけても返事しねぇから、【伝心】でもしてんのかと思って、あえて静かにしてたわけだし?」


「めっちゃくちゃ気遣わせちゃってるじゃん! マジでゴメン!! 」

 

 少し拗ねたようにヘコむに対し、平謝りするヤスラギ。

 彼らが気を取り直し、再び朝食を食べ始めることで、“魔物”についての話題を思い出す。


「それで、“聞いてみればいい”っていうのは、どういう意味? 誰が詳しいか、聞けばいいってこと?」


「んー? あー……まぁ、そうだな。そこそこ人がいるし、今が聞くチャンスじゃん?」


「そりゃそうか。……けど、その発想はなかったなぁ」


 何事もまずは自分でやってみて、それが駄目なら人にも頼る。

 そういう行動原則(タチ)なせいで、初手から人に頼るという選択肢が発生しないのは、僕の弱点だと頭では理解してるんだけどな……。

 

 やはり、こういうのは常に意識していないと直せないものらしい。


 クラスで一番魔物に詳しい人に頼るために、自力でその人を見つけ出そうとした僕。

 フーガに言われなければ、偶然にも食堂(ここ)に居合わせているという可能性にさえ気づかなかったかもしれない。


「ありがとう、フーガ。ナイスアイデアだよ」


 僕は手を合わせ、「ごちそうさまでした」と唱えて席を立つ。


「おう。何か知らんが、役に立てたんなら良かった」


 ヒラヒラと手を振るフーガを残し、僕は食堂の真ん中まで行って声を張り上げる。


「食事中、失礼します!! この中に魔物に詳しい方はいらっしゃいませんか!? もしくは、詳しい人に心当たりのある方!!」


 飛行機で乗客から医師を募るときのようなアナウンス。

 途端に集まる好奇の目。戸惑いの多いざわめき。


「茜先生でしょ」


 という声が多く聞こえたので、僕は追加で声を張る。


「茜先生以外で!!」


 間違いなく詳しいだろうけど、間違いなく忙しい。

 茜先生に頼るのは、僕らだけでは対処できないときの最後の手段と決めている。


「そうなると誰かなー」

「研究班の男子とか?」

「いや、魔物なら戦闘班の方が詳しいんじゃない?」


 最終的に、施設管理班の女子グループの意見と。


「フーガ、お前、たしか“魔物ならオレに任せろ!”とか言ってなかったか?」

「てか、魔物を倒した数で考えれば、フーガか狩野(かのう)の二択じゃない?」

 

「ん? まぁ、そうかもな。言ったわ、たしかに」


 戦闘探索班の對馬鷹仁(つしまたかひと)進藤敦紫(しんどうあつし)の推薦により。


「ほんじゃー、ハイ」


 ジャムパンを左手に持って右手を上げるフーガに民意は集まった。


「だったら、最初から相談に乗ってくれよ!!?」


「いやいや、自分から率先していくのは、なんか違うじゃん? こう……、自信満々で聞いて、分からなかったとき、恥ずいというか……」


「そこはもう少し自信もっていこうよ!?」


 こうして、なんだか回りくどい形ではあったものの、僕はフーガからこの世界に存在する魔物と呼ばれる生物について詳しい話を聞かせてもらうことになったのだった。


芦「そういえば、なんで魔物の話なんか聞きたいんだ?」

鈴「うえっ!?そ、それは……その、試験勉強のついでにちょっと気になったもんで」

芦「はぁ!?試験に関係ないことまで勉強しようってか!?真面目にも程があんだろ!!」

鈴「ハ、ハハハ……」

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