鈴木康良義12
〜異世界日記〜
[5月28日(土)](天気:雨)
この世界に来て初めての雨だった。今日からは天気も記録しよう。
さっそく昨日の会議で決めたとおり、人員の再配置をした。食堂に見慣れない料理がいくつかあったり、お洒落なカフェスペースができていたり、自由時間が増えたおかげで図書室が大盛況だったりと、目に見える変化があった。
また、研究所の訓練室に初めて入った。芦田くん、伊東くん、三戸くん、三人ともそれぞれの初期スキルを活かした見事な戦い方だった。
今にして思うと、あの様子を眺めながら自分の戦闘スタイルを考えていたおかげで、ヒロたちに怯むことなく立ち向かえた気がする。
ヒロというのはオスの狼の名前だ。もう一頭のメスの狼はミワ。どちらもデカくて声も大人っぽく聞こえるけど、愛嬌があってけっこう可愛い。
他に色々あってせいで印象は薄いが、カケノリの発明品のせいで散々だった。復活部屋に非常灯を取り付けに行くのも忘れないうちに済ませよう。
復活部屋といえば、魔力について今日だけで詳しく分かったことがいくつかある。
①死んで復活したとき、体内の魔力がゼロになる。
理由は、ほとんどの魔力が身体の再構築に消費されるためだ。
②体内の魔力は、食事と休息によって徐々に回復し、何もしなければおよそ60時間で全回復する。
(夕食後の1時間で回復した魔力量から計算)
③魔力量は鑑定スキルで計測できる。魔力の容量とそれに対する残量の割合 (%)も分かる。
僕の魔力容量は503。単位は無い。ほかの皆は505~520くらい。どうやら元々は500で、使ってると増えるらしい。
ちなみにヒロたちは800くらいあった。凄い。
④魔力を回復する裏技がある。血を流すほどの怪我をすると、ダメージに応じて自動で魔力エネルギーに戻り、体内魔力に還元される。
魔力に戻るときに遣直の効果は解除されてしまうらしく、魔力に余裕があるときにダメージを負うと余剰分は消えてしまうので要注意。
ちなみに鑑定スキルは朝倉さん、伊東くんに使い方を教わった。
魔力を追加で消費すると手に入る情報量も増えるが、新しい情報が多いと脳がブラックアウトするのでこちらも要注意。
それと、自分自身を鑑定してみて分かったことだが、僕たちの種族はもれなく、人間ではなく「マナビト」というものになっていた。
この名称についての説明は出てこなかったが、ヒロたちからも僕たち個人の名前を教えるまでは、そう呼ばれていたので、多分、なにかしらの意味はあるはずだ。
語感的には、「学び」と「人」の造語だろうか。
たしかに学生である僕たちならば「学人」と書いて「マナビト」と読めるはずだ。
こちらの世界にも漢字はあるが、所々で読み方が違うそうなので、この辺りの地域の言語についても調べる機会があれば、調べてみよう。
「……ふぅ。今日の分は、このくらいかな」
日課の日記を書き終え、僕は【遣直】スキルを解除する。
うっかり解除し忘れると、魔力をずっと使う上に、間違えて最後の一行だけ消しかねない。
解除したら今度は、すっかり馴染んだ腕時計の魔法を起動する。
[22:39:46]
おっと、もうそんな時間か。
そろそろ寝ないと、せっかく覚えた内容が記憶に定着しなくなる。
1ヶ月近い遅れだけじゃなく、ゲームや漫画、アニメの知識が不足している僕にとって、魔法の勉強はほぼゼロからのスタートだ。
間違った知識はマイナスかもしれないが、そこさえ訂正出来れば大きなプラスになる。
一方の僕は、属性とか、相性とか、四大元素とか、知らないことが多すぎて、小学校からやり直すようなペースでしか進めない。
現に、山本の野郎でさえ、中級編の試験を突破できる実力があるらしい。
試験勉強にはそこそこ自信があるとはいえ、あまりうかうかはしてられないのだ。
「よし、寝よう」
茜先生から教わった“手足を温めると体内の温度が下がって早く眠れる”という生物学の知識が、役に立つな。
手のひらに魔力を集め、集中させながら放出することで熱を発生させる。
もしこれを拡散させて放出すれば空気の流れ、すなわち風になり、流れをつくったまま留めれば常温の水になり、圧縮するように留めれば土のような有機物となる。
魔力から物質に変化させる基本の作用。
熱エネルギーであるはずの火が物質扱いとは、なかなかどうして面白い。
ここから更に変化させれば金属や氷、光や闇というものも生み出せる。
まさに万能。ゆえに危険。
どうして僕らの世界には、この魔力が存在しないのか、不思議で仕方ない。
そんな答えの出ない疑問を抱いて、そのまま僕は眠りについた。




