対馬鷹仁
ヤスラギの思いがけない行動に三人は泡を食って「待った」をかける。
「ちょっと待てぇえ!!」
「なに勝手に名前つけちゃってくれてんの、ラギ長!!?」
「ていうか、ネーミングセンスやばっ。一周回ってセンスあるわ、それ」
ちょっとだけ感心してしまったタツヒトをその場に残し、タカヒトとフジマサが詰め寄った。
「いいか、ラギ長!! "魔物に名前を付ける"っていうのはな、めっっっっちゃくっちゃ、重要なイベントのひとつなんだぞ!!」
「そーだそーだぁ!! 見てろ、そのうち魔力を吸われてぶっ倒れるぞ!
そうなれば、コイツは進化する!! より強力な、上位種族の狼になっ!!」
「えっ、ちょっ、ええええっ!?」
僕は助けを求めるように、茜先生の方を見る。
先生はニコリと笑って歩み寄ってきた。
「あら、なかなか興味深い話ね。その話、どこで聞いたのかしら」
「聞いたっていうか、そういう話の小説があるんですよ」
「そうそう。自分はそれの漫画版しか読んでないですけど、アニメにもなったりして結構有名ですよ」
「へぇー、そうなの。なんていう作品?」
「なんだ、タカ。漫画しか読んでなかったのか。帰ったら原作貸すぞ。読め」
「なっ、急に圧がすごいな……」
異世界トークで盛り上がっているのを横目に、僕は自分の身体に意識を向けていた。
フジマサが言っていた「魔力を吸われてぶっ倒れる
」というのが、とても気がかりだったからだ。
僕より遥かに異世界に詳しいであろう、フジマサの言うことだ。あの剣幕からしても、嘘や冗談ではないのだろう。
今のところ、特に異常は感じないが……。
(ヒロはどう? さっきと比べて何か変わったところはある?)
《……いや? 特に何も》
ふんふんと鼻をならし、自身の体臭を嗅ぎ分けるヒロだったが、やはり変化は無いようだ。
僕らが不思議そうにしていると、茜先生たちがこちらに戻ってきた。
「まぁ、流石に名前をつけたくらいで急に強くなったりはしないわね。なかなか夢のある面白い設定だとは思うけど」
「そっかー。残念……」
「ふーむ。コイツらがもっと強くなってくれれば、自分らの警備の手間も減らせそうだったんだけどなー」
フジマサはともかく、タカヒトは意外にも合理的な発想をしていたらしく、悔しそうに頭をかいた。
「あら。別に、強くする方法が無いわけじゃないわよ?」
「「「!?」」」
先生の言葉に反応したヤスラギ以外の三人の首が、もげそうな勢いで反転した。
「主従契約の印を結ぶとか、一度倒してから再召喚して使い魔にするとか、ね。
“名前を付けて強くなる”んじゃなくて、“強くなる過程で名前を付ける”というのが、一応の理屈かしらね。どっちにしても、いくつかの方法があるわよ〜」
「おおーっ!!」
「なるほど、そういうパターンか!」
「名付けが先か、強化が先か、ってことですね」
「えっ、なになに。皆、なにに納得してるの?? えっ???」
印を結ぶ? 使い魔?
「あー……でも、残念。どの方法も“魔法の杖”が必要ね。もうしばらくは、この姿のままでお預けね」
「なるほど」
「完全に理解した」
「うーん、俺らの理解が早すぎて草」
「ねぇ、待って? 置いてかないで?」
知らない単語がぽんぽん飛び出して混乱する僕にタカヒトがにじり寄って、肩に手をぽんと置く。
「大丈夫だ、ラギ長。とりあえず、魔力を吸われることは無い」
「それはもう分かってるよ!?」
「なんだ、そうなのか。じゃあ、なおさら大丈夫だな」
「いや、全っ然大丈夫じゃないんだけど!?」
――このあと、改造された『シルバーズ・リング』でお母さん狼にも【伝心】を付与した上で、名前を「ミワ」と命名した。
本人?に尋ねたところ、「アキ」では無理だが、「ミワ」だったら発音できるのが気に入ったらしい。
念のために言っておくと、イントネーションは「琵琶」と同じである。「岩」ではない。
狼たちの世話については、元々が野生な上に言葉も通じるのでほとんど手はかからないことがわかった。
生物学の先生である茜先生が一緒に定期的に確認してくれることにとなったので、一安心といったところだろう。
僕は午後の予定を急遽変更し、図書室でタカヒトたちから件の異世界小説について、大まかな筋書きや設定などを教わることにした。
これをきっかけに、僕は魔法の勉強を始めた。
来週の金曜日に行われる、「"魔法の杖を手に入れる権利"を得るための試験」を受けるための選抜試験に合格できるように、魔法についてのあれこれを勉強を始めたのだ。
これにて二章完結です!
お読みいただきありがとうございます!!
このタイミングで全体の文量バランスを整え、後書きにキャラプロフィールを追加しました!
まだまだ未登場の濃いクラスメイトが若干名いますが、そろそろ現地人とのファーストコンタクトとなりそうです。




