伊東晴明3
「あっ、来たきた。おーい!」
「ラギ長〜、呼んでおいて自分たちは居ないなんて酷いぞー」
「ごめんごめん、ちょっと死んでた」
「こっちから頼んでおきながら、申し訳ない」
「んにゃ。別にそんなに待ってねぇし、気にしなくて大丈……」
「ん……? ラギ長、今なんて言った?」
「え。ちょっとだけ死んでました」
「ハァ!?」
「ははっ、なんだそりゃ!」
午前9時。
元気な男子二人がハルアキの研究室へとやって来た。
ヤスラギたちが今朝の出来事について話し終えると、床にあぐらをかいたままのフーガは納得した顔で。
「――へぇ、朝っぱらから面白ぇことになってんな! 太田の姿が見えねぇのは、そういうことか」
と、いつも武器の試し斬りには絶対に参加するゲーム好きのチームメイトが不在な理由に合点がいき、こころなしか広く見える工房を見渡した。
フーガのすぐ横でクールにたたずむライトもカケノリ不在の理由を把握したと頷くと、またトラブルに巻き込まれたヤスラギの身を案じてか、神妙な面持ちでつぶやいた。
「それにしても、嫌な死因だなー。
敵が目の前に迫ってるとかならまだしも、こんなすぐ近くでバグって強制復活とか、魔力の無駄遣いしすぎ。
というか、ハカセ。そもそも、その装備の需要はどこにあるんだ?」
そんなライトからの質問にハカセこと、開発者代理が答える。
「警備班だ。敵に襲撃されて即死しなかったときでも、苦しまずに済む。
……今回の件は全部、バグのせいだ。そう簡単に誤作動が起こらないように直したから、せいぜい安心して使ってくれ」
「オイオイ、発想が物騒だな」
「けど、一理あるよね」
「まぁ、な。微量とはいえ魔力の回収機能も搭載てるんなら、日々のパトロールのついでに自分の復活分くらいは確保できらぁな」
さすが、戦闘探索班で実際に警備にあたっているだけのことはあるなと、ヤスラギは二人の意見を聴きながら思った。
ヤスラギ自身には、まだ敵対生物との戦闘経験はない。
だが、周囲の森に生息するという狼の群れに襲われ、生きたままその身を喰われるところを想像することぐらいは出来る。
例え想像であっても、恐ろしい……と、ヤスラギはその身をぶるりと震わせる。
死んでも生き返ることが約束されているとはいえ、死ぬときに痛い思いをするのは、誰だって嫌だ。
あのベルトの有用性はそういうところだったのかと納得したことで、少しだけ溜飲が下がるのだった。
「さて、そんじゃボチボチやりますかね。試遊会」
「そうだな。そのために来たんだし、さっきからラギ長がボケーっとしてて、つまんなそうだしな」
「えっ!? いやっ、別にそういうワケじゃ……!」
考え事をしてたんだよ! と弁明するヤスラギ。
そんな慌てふためく様子を見て、三人はハハハと笑う。
その後、倉庫からフーガとライトが気になった武器や道具を追加で持ってくることで、ちょうど四箱分の武器が揃った。
「んー……4つに分けてもまだ少し重いな。一応、【強化】しとくかー。欲しい人ー?」
「ん」
「はーい」
「あっ、欲しいです」
「ほいよ」
「助かる」「サンキュー」「ありがとう!」
フーガの放った魔力は琥珀色のベールとなり、対象者の身体へ染み込むように吸収された。
フーガのスキル【強化】によって、腕に入る力が一気に増して箱は軽々と持ち上がる。
こうして四人は各々木箱を抱えると、過去に試した武器についてお喋りしながら、工房を後にするのだった。




