太田翔典4
「――おう、遅ぇぞ! ラギ長! その腕時計は単なるオシャレなアクセサリーか?!」
「うるさいなー、こっちだって朝から色々あったんだよ」
ヤスラギはゲンナリしながら、顔を見るなりいつもの軽口を叩いてくるカケノリを一瞥すると、手頃な木箱の上に腰掛ける。
研究所の地下第4階層にある工房には、作りかけの武器や謎の部品、何かの図面らしき紙などが床にも、机にも散乱していて、家具なども研究員の分しかないがために、ヤスラギは仕方なくテキトーな空き箱に座ったのだ。
「そーかそーか、そいつは忙しそうで何よりじゃねぇか。
ちょうど俺も、朝から新作の調整で忙しくって、朝飯食えてねぇんだわ」
なにがちょうどなのか、とヤスラギがツッコむと奥の倉庫らしき部屋から伊東晴明が顔を覗かせる。
「あ、ラギ長きたか。……ほかは?」
「あぁ、風雅と雷斗が来るよ。訓練場に寄ってから来るってさ」
「ん」
といって、マッシュルームのように丸く膨らんだ黒髪とメガネが印象的な少し暗めの少年、は了解の意をそんな短い生返事で伝えた。
彼もまた、ミレイと同じくヤスラギとはあまり接点がなく、元の世界でも話したことが数回あるかどうか、という相手。
それでも、同じ研究開発班の班長であるカケノリとは馬が合うらしく、先程までの会話の続きを始めた。
「でさー、サッカーボールに火と雷をエンチャントして蹴ったら、なぜか爆発してさー」
「マジか、どの組み合わせだ? 「発火」と「放電」か?」
「いや、「火球」と「雷球」」
「……あー、それは多分、短期持続系と放出系だから励起状態だった「火球」の燃焼用魔力に「雷球」が引火したんだな。
あの二つは、どっちも名前に球が入ってるけど、実のところ系統が違う」
「そうなのか! さすがはハカセ、秒で解決したぜ」
「フッ」
何だか楽しそうに語らう二人に対し、僕は。
サッカーボールに何やってんだ、とか。
カケノリはセイメイのことをハカセって呼んでたんだ、とか。
そのカッコ良さげな響きは一体なんなんだ、とか。
言いたいことは他にも色々あったけど……。
「おい! 結局、僕はなんのために呼ばれたんだよ?!」
「あぁ、そういえば居たな」
「おおっと」
ヤスラギが声をかけなかったら、おそらく二人はまだ話しに夢中になっていただろう。
左手を顔の前で立てながら、カケノリが謝る。
「わりぃわりぃ、今のはワザとじゃないんだ。
徹夜したせいで、あんまし頭が回ってなくてよ……」
「だとしても、呼びつけておいて放置はヒドくない!?」
鼻息を荒くしてヤスラギがカケノリを叱りつけていると、横からハルアキが「まぁまぁ」となだめに入った。
「俺が、あと二人来てから説明する気でいたのが悪いんだ。ラギ長には、一足先に実験台に――」
「おう、ちょっと待ってもらおうか。
誰が実験台だって? こっちは二、三人手伝いが欲しいとしか聞いてないぞ?」
「「手伝い=実験台」」
「よし、僕は帰る」
無駄に息のあった二人の宣言を聞くや否や、ヤスラギは踵を返して部屋を出ようとするが……。
「まぁまぁまぁまぁ」
カケノリが背中をじわじわと押して曲がるように誘導し、ヤスラギをくるっとUターンさせ……。
「まぁまぁまぁまぁ」
すかさず、先程まで無かったヤスラギ用のヒジ置き付きの椅子を用意したハルアキが、そこに座るように促した。
流れるようにストンと着席し、絶妙な間の沈黙が流れる。
「……………………で? 何をすればいいのさ」
ブスーっとヤスラギはヒジ置きに頬杖をつき、カケノリたちをジト目で睨む。
なんだかんだ言っても、他に人がいなくて困ってるというのは事実。
そう思ってしまったお人好しのヤスラギは、不服ながらも二人に尋ねたのだった。
これに対し、ハルアキが応える。
「なぁに。別に、人体実験をしようってワケじゃない。戦闘班の連中に、新魔法武器の使い心地を聞いて、更なる調整をしようと思ってただけさ」
そういって、先程倉庫から持ってきていた大きな箱をヤスラギに見せつけるようにガシャンと置き直す。
中に入っていたのは複数の刀や弓、に手甲といった、金属製の武器の数々だった。
「うわ、凄い量っ……!」
「はっはっは、まだ倉庫にこの10倍くらいある」
「うえっ!?」
「武器に魔術を仕込むのが楽しくてな。昨日の会議でラギ長からの提案がなければ、もうしばらく溜め込まれていただろうな」
聞けば、最初はアニメやゲームに出てくる好きな武器を再現しようとしていたらしい。
そこから、武器造りにハマり、茜先生の所有していた幾つかの“魔術が付与された武器”を参考に、オリジナルの魔法武器を日々創っては溜め込んでいたそうだ。
「一応、実用的なヤツはおれが預かって、班でも使ってたんだけどな……。
狩りは週一だし、試運転が追いつかねぇんだわ、コレが」
と、カケノリは呆れたように言う。
戦闘探索班と研究開発班を掛け持ちしているカケノリがいなければ、ここの武器たちは日の目を見ずに倉庫で眠ったままになっていた可能性すらある、ということだ。
「ま、ひとえに俺の人見知りが原因だな。クラスメイトの顔と名前が未だによく分からんし。
さっきだって、名前を言われても全然ピンと来なかったしな」
「えぇっと、つまりフーガとライトの顔が分からないってこと? いやいや、それは流石に盛りすぎでしょ……」
だって、うちのクラスのイケメンといえば、この二人だ。男子の中でもこの二人は特に目立つから、すぐに覚えた記憶がある。
しかし、カケノリが即座に僕の発言を否定する。
「いや、ラギ長。ハカセ、マジで見分けついてねぇからな。
自分がやりたいことさえ出来ればいいっていう、根っからの研究者タイプだぜ」
「フッ、そうあんまり褒めるなよ。照れる」
多分、褒めてはいないんじゃないかなとヤスラギは心のなかで呟くのだった。
会話に一つのオチがついたことで、今度はカケノリが動き出す。
「ほんじゃまぁ、ひとまずこっちの箱はアイツらが来るまで置いときまして……」
箱を脇に動かし、自身の作業台の上にあったベルトを持ってきて、ヤスラギへと手渡した。
「何コレ」
「まぁまぁ、いいからいいから。とりあえず着けてみてくれ。
ほら、スマホを渡すときに約束したよな。無条件で実験に付き合ってくれるって」
「いや、たしかにしたけど、せめて説明くらいはしてくれない?!」
と口では言いつつも、素直にベルトを巻くヤスラギ。
そのあまりの素直さに、「あ、着けるんだ」とハルアキは小さな声でツッコんでいた。
「よし。着けれたら“緊急脱出”って言ってみてくれ。何も起きなければ成功だ」
「はぁ……? その“べいらうと”って、――」
瞬間、ヤスラギの腰に巻かれたベルトから、カッ!と強い閃光と放たれる。
た
正確には、それはヤスラギの肉体が一瞬にして魔力へと転換され、次のアクションのエネルギー源として利用された余剰分のエネルギーが光エネルギーとして放出されたものだった。
スタングレネードのような光の衝撃が収まったのち。
ヤスラギの形に残された制服と肌着、旧式のエンチャントリングが入ったカバンが、それぞれ重力によって自然落下して、パサっ、カランッと乾いた音を立てたのだった。
「……やっべ、ラギ長死んじまった」
「失敗だな。ベルトごと飛んでるのが、不幸中の幸いってところか」
二人は顔を見合わせると、散乱したヤスラギの私物を空き箱に放り込み、それを担いでいそいそと部屋を後にしたのだった。
名前:伊東晴明
年齢:16(5月7日)
性別:男
容姿:165cm、地味な陰キャオタク
髪と肌:黒のマッシュルームヘア、不健康な白さ
一人称:俺
イメージカラー:緑色、白色
動物に例えると:ガラパゴスゾウガメ
似ているキャラクター
(活動報告にあります)




